ポケットの中で繋がるあなたの手
烏川 ハル
第1話
友人の
シートに座ろうとしてコートを脱いだら、今気づいたと言わんばかりの様子で、智子が声をかけてきた。
「今日はいつもの上着じゃないのね、
学生の頃は毎日のように顔を合わせていた智子だが、お互い社会人になってからは会う機会も減り、年に数回程度。今日は3ヶ月ぶりくらいだろうか。
待ち合わせ場所の駅前広場からここまで、既に5分以上は一緒だったのに……。隣に並んで歩く際には視界に入っても意識せず、今頃ようやく認識というのが、なんとも彼女らしい。
少し微笑ましい気持ちにもなるけれど、問題のコートについて考えた途端、私の表情は曇ってしまう。
「うん、あの赤いコートでしょう? 確かにあれ、私のお気に入りだったんだけど……。ポケットに入れておいた財布を盗まれてね。それで、もう着るのは
「財布を盗まれたって? あらあら、和恵ったら……」
智子は
「……だから言ったじゃないの。男の人じゃないんだから、そういうのはポケットに
まるで見本を示すみたいに、智子は彼女自身のポシェットに手を伸ばした。革製の小さなショルダーバッグで、今は彼女の横に置いてある。
ずっと自分で
そんなツッコミを私が口に出すより早く、智子は言葉を続けていた。
「それに、コートが可哀想よ。財布とられたコートだから縁起悪い、みたいな考え方……。コートに罪はないんだから」
智子は誤解している。
これはさすがに否定しておきたいと思って、私は首を大きく横に振りながら、
「そうじゃないの。縁起悪いとかジンクスとかじゃなくて、本当にこのコートのせいだったのよ。信じられないような話だけど……」
と、詳しく語り始めるのだった。
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