技術の再現は難しいのです

きた。冷気を発する石、これは絶対に使える。

 村長の目を盗みながら、鉱石辞典を起動。


砂岩(属性 氷) 山で雪や冷気で冷やされ続けてきた岩の一部です。その為、氷のマナを溜め込んでおり、冷気を放ちます。放出期間は約一週間。

※冷属性石発見、金座布団プレゼントキャンペーンは、誠に勝手ながら前日で終了しました。今後もロッキスパムメール企画をご利用下さい。

 ……絶対、プレゼントしないやつじゃん。


「村長、川からあげた石はどこに置いていますか?」

 この石は特産品になると思う。村の皆に恩返しが出来るし、領の収入もアップする。まさにウインウインだ。


「村外れに積んでおるぞ。寒くて誰も近づかんがな」

 つまり、まだ誰にも気付かれていないと。氷室みたいに経験則で使える物じゃないし、一週間すればただの石になる。

 開拓民である皆からすれば明日の天気の方がよっぽど大事なんだし……つまり、俺がもらっても問題ないよね。


「全部、引き取らせて下さい。それと石は定期的に購入させてもらいますので」

 持ち帰って研究だ。


 ……石は確かに冷気を放っていた。そして魔文字で冷気に触れさせる事で、再利用も可能……なんだけど。


「肝心の冷蔵庫ほんたいが再現出来ねー。ゴムないのに、パッキンは無理だって」

 ラノベとかじゃ、なんでも簡単に再現出来ているのに。日本に戻ったら重箱の隅をつついてツッコミまくってやる。

 ……調子にのって冷石なんて名前までつけたのに。


「トール、いい加減寝なさい!学校にも行かず、毎日なにやっているのよ」

 思わず叫ぶと姉ちゃんが怒鳴り込んできた。メイドさんや執事の皆様は俺に遠慮をしてスルーしてくれている。

でも、お姉様は違いました。悪役令嬢の時より、迫力があるんですけど。


「いや、新しい商品を作っているんだけど、肝心の所が上手く出来なくて」

冷蔵庫は絶対に役に立つ。儲けるだけじゃなく、多くの人の命を救う事が出来るんだ。


「新しい商品?……今度は何を作っているの?……くだらない物だったら、明日は縄で縛ってでも、学校に連れて行くからね」

 ト―ル、知っている。ゲームのレイラ・ルベールは口ばっかりで、他人に丸投げお嬢様だった。でも、俺の敬愛するお姉様は、有言実行。自分で即実行します。


「食糧を長期保存できる箱だよ。姉ちゃんも西の村の事を覚えているだろ?」

 当たり前と言えば当たり前だけど、ゲームやラノベでは、その世界の全てが描かれる事はない。王様のパンツの色やメイド長が髪型を変えたなんて情報には、誰も興味がないのである。

 歴史書でもそうだ。不必要な情報や権力者が不利になる記録は抹消されてしまう。


「……忘れる訳ないでしょ。ゴブリンに食糧庫を荒らされて、保管しておいた麦が無くなる。野菜や肉はあったけど、長雨で腐ってしまい食べれなくなった。一家どころか村民全員が離散になったのよね……でも、領主は収穫祭で食えや歌えやの大騒ぎをしていた。貴族になったから、反面教師にしているわ」

 正確に言うと食べる物がなくなり家畜にも手をつけた。でも、雨で干し肉を作れず、食べる前に腐ってしまったらしい。

 ゲームでは描かれていないけど食糧はジュエルエンブレム持ちの貴族が独占している。

豊作の年なら良いけど、凶作になると地獄絵図になるそうだ。

 カヤブールの乙女は貴族の絢爛豪華な世界に浸れるのも売りだった。不都合な場面はカットされて当たり前なんだけど。


「これが作れれば、自分の家の食糧だけじゃなく、領地……いや、国レベルで食糧の調整が出来る様になるんだ」

 相変わらずの不自然さで、この世界に食物を冷やす技術はある。でも、それは生クリームを作るみたいなデザートにしか使われていない。

 俺みたいな収納魔法持ちもいるけど、大人数の食糧を保管しておける様な大きさはないのだ。

でも、冷蔵庫があれば安定供給が可能になる。


「言いたい事は分かったわ。どこで、詰まっているの?お姉ちゃんも一緒に考えてあげる」

 いや、俺は異世界無双がデフォな日本の知識を持っているんだぞ。いくら姉ちゃんとはいえ、この難問はクリア出来ないと思う。


「これは試作品の小型冷蔵庫。主な材質は木。内部には金属の板を張っているんだ」

 まあ、昔の冷蔵庫のパクりです。俺にはゼロから物を作り出す知識なんてありません。


「この取手がついた金属の箱は何に使うの?」

 姉ちゃんが目をつけたのは、金属で出来た長方形の箱。凍傷防止の為に取手は木で作ってある。


「そこに砕いた冷石を詰めるのさ。効果が切れた新しい箱をセット。でも、今のままだと冷気が逃げちゃうんだよね」

 常に何かを立てかけて置く?それが倒れたら元も子ないか。


「馬鹿ねー。あんた得意の魔文字を彫ったらいいじゃない。くっつく効果とかつけて」

 なんですと?灯台下暗しとは、この事だ。姉ちゃんって、天才なのでは?


「流石は姉ちゃん。早速、試してみるよ」

 冷蔵庫に手を伸ばしたら、がっちりと腕を掴まれた。そして、そのままベッドに放り投げられる。


「寝・な・さ・い。冷蔵庫これ」は、お姉ちゃんが預かっておきます」

 そのまま、部屋を出て行く姉ちゃん。俺は、ゲーム禁止令を出された小学生か!


 なんやかんやで、冷蔵庫の試作機が出来て、爺ちゃんへのプレゼンも成功。


「これに食糧を詰めてジェイド領に行くのか?」

 爺ちゃんが、麦茶をごくりと飲み尋ねてきた。キンキンに冷やした麦茶は爺ちゃんのお気に入りである。


「まだだよ、今持って行ってもルシェル君の栄養状態が解決するだけ。ゴーレム作り以外にも興味を持たせなきゃ意味がないと思うんだ。何より大型冷蔵庫の建設には、ゴーレムの力が必須。ジェイド家との関係も良くしておきたいんだ」

 大型冷蔵庫……冷蔵倉庫は石で作る予定だ。建造を領主に依頼すれば、力の格差を縮められる筈。

 そしてマイ冷蔵庫を作る。そこから進化させて、夢のマイビールサーバーを作るんだ。

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