百連?チャレンジ
ニコラさんの調査結果
名前リリス・ツツモター 出身クラック帝国 年齢二十七才 職業メイド
外国人だから仕方ないけど、なんちゅう名前だよ。
「流石はト―ル君。私が目をつけただけあります。貴族のお坊ちゃまが、年上のメイドに狙われる。なんかご都合主義全開のエロ小説みたいですね」
師匠、そこは選んだとか言って欲しいです。
貴族のお坊ちゃまが、色気たっぷりの年上メイドに狙われる。師匠の言う通り異世界転生系のエロ小説でたまにあるパターンだ。いわゆるお坊ちゃまの初めては私がって展開である。
「そんな展開になったら、あいつ等の思うつぼですけどね」
俺は絶対にエロい展開になってはいけない。リリスが狙っているのは、俺の初めではなく落ち度。交渉を有利に勧める為の脅し案件だと思う。
「まあ、流石に鈍い君でも分かりますよね。向こうは半径三十センチ内に入れば勝ちなんですから。“貴族のお坊ちゃまが、私を無理矢理”ってね」
騒動を起こして、エメラルド公爵に言われたくなかったらって脅すつもりなんだと思う。
あいつ等から見た、俺の一番の武器、そしてウイークポイントはクレオだ。下手すりゃ国際問題なんだし。
「対策はしていますけど、どうしても後手に回るしかないんですよね。行動が制限されまくりですよ」
校内ではザント、外ではリリスの事を警戒しなきゃいけない。厄介なのは、終了時期が未定って事だ。
でも、焦って攻め込めば向こうの思うツボだ。
「リリスを口説いて、クラック帝国から寝返らせる……君には無理ですね」
敵国のスパイ?を口説いて、味方につける。やってやろ……はい、無理です。
せめてイケメンに転生していたら、ワンチャンあったんだけどね。俺は姉ちゃんにしばかれるのがおちだ。
「しかし、なんでザントはクラック帝国に力を貸すんですかね?バレたら大問題ですよ」
クラック帝国に婚約者と移住する?それとも貴族資格を剥奪したイルクージョンへの意趣返し?どっちも現実味が薄い。
「おや、分りませんか?クラック帝国には、ザントが喉から手が出る程、欲しがる物があるじゃないですか……君はイルクージョンに初めて来た時、誰に何を言われたのか忘れた訳じゃないですね」
俺がイルクージョンに初めて来た時……一人の騎士の言葉が蘇ってきた。
『覚えておけ。今は優しいママでも、ジュエルエンブレムが使えないと分かれば、あっさり手の平を返して他人の振りをするんだぜ』
あの騎士はジュエルエンブレムが顕現せず、家族から見放された。
ザントもジュエルエンブレムが顕現しなかったから、貴族の資格を失い、婚約も破棄されたんだよな。
今は彼女も愛してくれているけれども、大人になって現実を知れば……藁にもすがる思いってやつか。
「不正をして得た金でメイドを雇い、自分はしなびたキャベツで糊口をしのぐ。そうすれば、いつかデモンジェエルをもらえて、ザントは貴族に戻れる。リリスは元貴族のメイドを隠れ蓑に自由に動く事が出来ると……悪趣味だけどウィンウィンな関係なんですね」
そりゃリリスも積極的に動くよな。だってザントへの忠誠心じゃなく、
「ええ、悪趣味です。デモンジュエルに使われている魔石は、魔族の身体の一部なんですよ。魔族がお姉さんやクレオさんの髪をカツラにしていたら、君はどうしますか?」
もし、オーガみたいな髪のない魔物が、髪に憧れて姉ちゃんやクレオを殺して髪を奪ったら……俺は魔族自体を恨むと思う。
「魔族から見たら人間の方が悪者ですね。魔石を使えば冷蔵庫を再現出来ると思ったんだけど、流石に無理か」
ゲームだと魔族は完全な悪として描かれていた。でも見方を変えれば、どっちが悪だか分からなくなる。
「へえ、冷蔵庫を作りたいですか?可愛い弟子の頼みです。協力しましょう」
師匠がニヤリと笑った。背筋が凍るそんな笑顔だ。嫌な予感しかしません。
「じ、自分で工夫してみますよ。どこかに氷室があると思いますし」
魔力が上がれば、解決の糸口が見つかる筈。努力は裏切らないって、信じています。
「でも、君魔法を上手く使えてませんよ?無駄な努力って言葉を知っていますか?」
それを言われるときつい。魔力が上がっても魔法の威力が上がらないのです。牽制が関の山で、魔物を倒すなんて夢のまた夢。
「それは……その、師匠は原因が分かっているんですか?」
お約束だと、俺には反魔属性とかが備わっていて、魔法の邪魔をしているパターン。若しくは異世界人の特質で一気に成長するパターンだと思う。
「答えは簡単。ト―ル君、君は魔法を信じていないでしょ?魔法なんて絵空事、あれってプロジェクションマッピングだよね。厨二病、乙って感じで……君は化学万能な日本生まれ、その常識が邪魔しているんですよ。まあ、いい歳した日本人の大人が魔法はあるんだじょ。僕には魔法の才能あるんだって信じていたら、困りものですけどね」
俺が魔法を信じてないだと?思い当たる節は沢山あります。だってマナとか魔力とかお仕事で関わっていたけど、あれはあくまでエンターテインメントなんだし。
魔文字は公式みたいな物だと思えたから、使えたんだと思う。その魔文字にもきちんと魔力を篭められませんでした。
「返す言葉もありません。どうしても、超能力や霊能力の類にしか思えなくて」
この世界の魔法はアムールの加護だと言う。俺は、そのアムール自体を信じていないのだ。俺の魔石も師匠のお手製なんだし。
「まあ、あの駄女神の加護は、私が打ち消しましたからね。魔法を信じるには、身体で受けるのが一番。リアルな痛みを感じれば、嫌でも信じるでしょう。それでは行ってみましょう。攻撃魔法百連発チャレンジ!」
今さらっととんでもない事を言わなかったか?しかも百連って!
◇
魔法は実在する。だって、リアルに痛いもん。
「こ、これで冷却魔法が使えるんですね」
なんで冷却魔法を覚えるのに、電撃や毒魔法を受ける必要があったのか疑問だけど。
「使えませんよ。使えても、冷蔵庫への転用は難しいですし」
うそん!あの苦労はなんだったの?でも、確かに威力は上がったから文句は言えない。
「水を凍らせて、おが屑で保管するか。それとも地下室を作って」
そもそも冷蔵庫に向いている金属っなんだ?鉄だとくっつくし。
「ザントとリリスの件を解決すれば、鉱石辞典をあげます。魔力の多い鉱脈でも、魔石は採れるんですよ」
まじで!でも、どうすなれば解決出来るんだ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます