魔法の使い方
ここ一年必死に修行してきた。でも強くなっている実感が湧かない。
小三で大人と比べる事自体がおこがましいんだけど、城で見た騎士達に勝てる気がしないのだ。
師匠の特訓の成果もみえないし……このままで、本当に大丈夫なんだろうか?
ジェエルエンブレムがランクアップしたけど、なにも変わらないし……そもそもジェエルエンブレムってなんだ?
「師匠、ジェエルエンブレムって何なんですか?」
修行が一段落したので、思い切ってロッキ師匠に訊ねてみた。ストレート過ぎるけど、聞かずにはいられなかったのだ。
「あれは魔石みたいなものですよ。簡単に言えば魔力の塊です。まあ、反吐が出る程、悪趣味な仕掛けが施されていますけどね」
ジュエルエンブレムって、神様が造った物だぞ。そんな事言って大丈夫なのか?
「魔石ですか?あのゲームやラノベに良く出て来るやつですよね?でも魔力だけで、あんな人外じみた動きが出来るんですか?」
物語によって性能はまちまちだけど、宝石だし石になるのか。
「魔石に様々な情報を織り込んでいるんですよ。ジュエルエンブレムの中に、格ゲーのキャラの情報が入っていると思って下さい。だから戦闘未経験者でも、熟練者戦士の様な戦い方が出来るんですよ」
その理論だと、俺の修行は無駄って事になるんですけど。
「でも、俺上手く動けませんよ」
二コラさんのしご……特訓もあって体力はついてきたけど、武器の使い方はまだぎこちない。
「それは貴方のジュエルエンブレムは私が作った物ですもん。そんなお手軽チートな造りにする訳ないでしょ……君の場合は育成ゲームだと思って下さい。少しばかり上げるパラメーターが多いですけどね」
その前にパラメーターを確認出来ないんですが。自分で自分を育成、しかもパラメーターが見えなきゃ成長は実感しにくい。
なにより素早さや力の強さは数値化出来るかもしれないけど、剣技や体捌きって数値化しにくいと思うんだけど。
「それじゃ、勝てる見込みゼロじゃないですか!」
いくら鍛えるといっても限界がある。アスリートレベルになれるのも、一種の才能だと聞く。
俺は運動が苦手で、体育会系の部下を避けていた人間なんだぞ。
「この世界のジュエルエンブレムにもデメリットがあります。それはジェルエンブレムに刻まれた技や魔法しか使えないって事です。でも私の作ったジュエルエンブレムは、努力に比例して成長していくんですよ。剣を振るえば剣技が上がり、魔法使えば魔力が上がる。充分チートだと思いますよ」
確かにそうだけど、あのレベルに到達するにはどれ位鍛えなきゃ駄目なんだ?
「戦闘だけでなく、金も稼がなきゃいけないし……師匠、特訓の時間を増やしてもらえませんか?」
土壌改良は順調だ。後は符の研究が上手くいけば……。
「ええ、喜んでそれと師匠として弟子の慶事をお祝いしませんと……そうだ!魔法が解る様にして上げますね。そこに立っていて下さい」
慶事?そこに立っている?色々疑問に思っていたら、突然地面が消えて真っ逆さまに落ちていった。
「水?……師匠、溺れちゃいますよ」
穴の中は茶色い水で満たされていた。しかも、周囲は垂直な壁になっており上がれそうにない。
「ご心配なく。それは私が作った特製エーテルです。溺れても苦しみはしますが、死ぬ事はありません」
そういう問題じゃなくて、体力がついたとは言え限界があるわけで。
「苦っ……そしてまずっ!……助けて下さい」
案の定、十分位で限界がきた。不味いし苦しいし、かなりきつい。
「一昼夜浸かっていれば、魔法の事が解る様になりますので……ゆっくり浸かって下さいね。身体中がエーテルで満たされれば、苦しくなくなりますよ」
無情だ。師匠はそういうと、あっさり行ってしまった。そして穴も塞がっていく。
◇
うん、そんな都合の良い展開なんてないよね。
師匠はあくまで解ると言っただけ、魔法が使える様になるとは言っていない。
「こりゃ魔力を上げる訓練もしないとな」
確かに魔法の仕組みは分かった。でも、俺の目標を達成するには、圧倒的に魔力が足りない。
何より一度見ないと、その魔法が使えないらしい……見ても使える保証もなし。
(体力と魔力を同時に鍛える方法。俺は鍛えれば鍛える程、強くなれる……そうだっ!)
「ストーンクリエイト……石のバーベル!」
これなら筋力と魔力を同時に鍛えられる。俺って天才じゃね……そう思っていたのは、数分でした。
(きつい……魔力を使いながら、身体を鍛えるのが、こんなにきついとは)
すぐに魔力不足でばてるし、集中力がもたない。どう考えも非効率的である。
「トール坊ちゃま、伯爵様がお呼びです」
一人打ちひしがれていると、ニコラさんが部屋にやって来た。
(まさか収穫量が少ないとか言われないよな)
農業計画は年単位でやる物だ。そう簡単には黒字には出来ない。
「お爺様、何の御用でしょうか?……あれ?姉ちゃんも呼ばれたの」
爺ちゃんの執務室を訪ねると、姉ちゃんも来ていた……農業計画は極秘事項だ。これは叱責ではないと思う。
「トールも来たか。二人共、来月から王都にある学校に通ってもらうぞ」
この年で小学校に通えと?今でさえ時間が足りないのに、勘弁して欲しい。
(でも姉ちゃんは嬉しそうなんだよな……断り辛い)
城には姉さんと年の近い女の子がいないから、暇なんだと思う。
「分かりました。お伺いしたい事があるのですが、
城にいるから特訓や開発をしても怪しまれない訳であって、王都に住むなら自重しまくる必要がある。
「基本は向こうの屋敷で暮らして、週末は、こっちに戻って来れば良い。特にトールは鍛錬もあるしな」
もって事は農地改革を推し勧めろって事ね。
「お爺様、ありがとうございます。これでお友達とお話出来ます」
なんでも姉ちゃんはフレイム家で出来た友達と話がしたいと、爺ちゃんにねだっていたらしい。その願いを爺ちゃんが叶えたと……姉弟格差があり過ぎじゃないですか。
「貴族にとって友人は大切なものだ。二人共、良く学び良く遊ぶんじゃぞ」
そう言う事か。学生時代で親しい貴族仲間を作っておけって事か。
決めた。王子様に媚びを売って、王家からの覚えを良くしておくんだ。
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