現代詩

柊 あると

NO.1 狭 間 領 域 彷 徨 譚  (広島県知事賞受賞作品)

すっきりしない 叫びたい

……でもP! 何が? なんて聞かないでくれ

分かれば コーラなんか飲んじゃいないし

とうの昔に 咽は潰れている


僕は街角で ビル風に惑わされ

片隅に留まる 小さな竜巻

回るだけで 一歩も先へは進めない

ビルの谷間で 見上げる空は

ひしゃげた十字に 切り裂かれ

幼い頃に 見上げていたはずの

空の広さを 思い出せない


は っ!!

想いを込めた シンフォニー

盛大に鳴らしてみても

そいつはビルの壁にぶち当たり

拡散するミルククラウンは作られない


空き缶が 歌いながら行きすぎる

「おいらになれよ 転がるだけでいいんだぜ

 風まかせ 道まかせ 気楽なもんさ」


僕は流れに逆らって

せめて一かきしたいのに

何が 一かきになるのかさえも分からない

想いのまま駆けていたはずなのに

今は回りにビルが建ち

行きたいところへ行かれない


遮られ 拡散できずに立ち尽くすのなら

想いを 十字にそって放出してみようか

P! どこまで行けるのだろう?


聞くだけ野暮だ

決まった道は 飽きるから

きっと 途中で化学変化

僕の想いは 惰性に変り

いつのまにか 消えてしまう


「そんなものさ」

そう言ったのは空き缶?

それともP! 次の領域に棲息している君か?

ああ 頭蓋骨をかち割って

脳味噌に 直接コーラをかけたいよ

千の銀針が 突き刺さり

すっきりするかもしれないし

悲鳴でも 叫ぶことは出来るから


P! 君が棲息する領域は

安定という倦怠に 冒されてはいないか?

今の僕を 忘れてしまうことはないのか?

空の広さと拡散への憧憬を 心の奥に納め

僕の時代を去ることに 不安はなかったか?

「YES」と 君が言うのなら

P! ミルククラウンを作れない想いを

ひしゃげた十字の空間にはめ込んで

なお 抱き続ける方法を教えてくれ

僕が「そっか」って 笑いながら

君の領域へと 踏み出せる答えをね



**********


当時、まだ「譚」を使った作品はほとんどなかった。だから、審査員の開口一発目の言葉は、「タイトルがいい!」だった。


しかし、作品集に書かれていた審査員4人の講評は、私が書きたかった主題と遠くかけ離れていて、「何にもわかってないじゃん!」とがっかりし、表彰状はもらったけれど、「筒」がなかったので、私はその場で賞状を4つ折りにした。


そんな私を、最前列に座った初老の女性がニコニコしながらずっと見つめている視線に気が付いた。誰かわからなかったのは、私が受賞した現代詩は、2作目という超初心者が書いたものだったから、「詩壇」は全く無知だったのだ。


その方が、授賞式の後の講演のためにいらしていた、その詩が教科書にも載る「詩壇の大御所 新川和江先生」だと知ったのは、ずいぶん後のことだ。


登壇した新川和江先生は、講演に先立ち私を見つめた。

「私は、この詩を書いた方が、どんな方か知りたくて東京から参りました。これは『思春期の子供の叫び』ですね。子供が書いたにしては難しい言葉を使ってるけど、大人が書ける詩ではない。どんな方が書いたのかと、お会いできることをとても楽しみにしていました」

と私に優しく微笑んだ。


的外れな審査員がくれた「県知事賞」を、完璧に読み解いていたのは、「新川和江先生」ただ1人だったのだ。

それだけで私は救われたと思った。賞状は4つ折りにできる程度のただの紙切れだったが、新川先生の言葉は、その後の私の創作に多大な影響を与えてた。


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