馬小屋の令嬢

@satomi1112

黒髪は不幸の象徴らしい

「おうおう、俺にも子供が生まれたのか。…黒髪不吉な。女の子だが、馬小屋で死なないように育てよ。」


10年後

「今度は俺の子だ。最高の美形のはず!…なんだまた黒髪かぁ。この男の子も馬小屋で死なないように」


11年後

「今度こそ俺の子だもの。絶対美形!…また黒髪ぃ?こいつも男の子だけども馬小屋に放り込んでおけ!」


12年後

「今度こそ絶対俺の子、絶対美形の子だ!よくやった!金髪!女の子?今後、男の子が生まれるかもしれないじゃないか?よくやった!苦節14年にして初の金髪!最高の気分だよ!」


その希望も消えて、スメルティーバ公爵家からは男の子が生まれることはなかった。なぜなら、夫人が女の子を産んだ時点で産後の肥立ちが悪く、儚くも亡くなってしまったから。



馬小屋では

長女のハナコ(15)が切り盛りしていた。長男はタロウ(5)、次男はジロウ(4)という名前だ。因みに次女の名前はステラリンク(3)。


「あータロウ。食べ過ぎよ!でも、成長期かしら?仕方ないのかなぁ?」

「それなら俺も食べていい?」

「そう来ると思ったわよ。もう、仕方ないわね。明日から切り詰めないといけないわよ。ここの毎月の収入は決まっているんだから!」

「「はーい」」

「…返事はいいのよね」



「アラ?タロウ、どうしたの?最近髪の毛の一部が金色なんだ」

どうしよう?きっとお父様に知れたら、タロウはお父様がここから連れて行ってしまう。ああでも成長期のタロウはその方が沢山食べれるし、ジロウだってタロウがいなくなればその分食べれる…。


「タロウ、しばらくはお父様にも内緒にしているのよ!いいわね」

それが私の下した決断だった。




ハナコも19才、タロウ9才、ジロウ8才、ついでにステラリンクが7才になった4年後。

タロウの髪が全体的に金髪になり、いよいよお父様の知るところとなってしまった。


「タロウ、明日からは城で暮らすように。父からの命令だ」

「姉さま、ジロウ…」

「お父様が言うんだもの。従うのよ。特にあなたはこの家の長男なんだから、しっかりするのよ!」



私の思いとはウラハラ。

タロウはいなくなった。その分馬小屋の収入が減らされた。つまり馬小屋の生活水準は変わらない。ジロウも食べたりないのかなぁ?と思う。

さらにヒドイのが、

「姉さまもジロウもそんな生活で大変だよな。まぁ髪の色の恩恵ってやつ?選ばれた人間って感じがするよなぁ」

「タロウ…」

「タロウ兄…」

タロウは性格まで歪んでしまった。私はこれを一番危惧していた。見た目で人を判断するようになるのでは?と。そして、自分は選ばれた人間だと勘違いをするのではないかという事を心配していた。

全くその通りになってしまった。



「城の料理は上手いし?量も質も最高。馬小屋の料理とは大違い。ジロウも金髪ならいいのにな?ハハハッ」

ジロウは巻き込まないでほしい。

「ステラリンクも妹として可愛いし。全く、血が繋がってるのが残念だよ」

どっかのオッサンみたいになったわね?

で、この馬小屋には何をしにきたのかしら?自慢?

「あぁ、忘れるところだった。世の中には奇特な人がいるんだな?姉さんみたいな髪の黒い人にもパーティーに出席してほしいんだと!それがこのアーバンクルク国の王家だから笑えないんだけど。だからさぁ、姉さんも採寸したドレスを着てないと、我がスメルティーバ公爵家的にマズい訳!そういうわけだから、城でとっとと採寸してくんない?あと、パーティーだからパートナーが必要なんだけど…ジロウ行くか?」

「行く!食べ物たくさんあるんでしょ?」

「ハハハッ、卑しいな。それならジロウも採寸してそれなりの服を作らないとな」



どうしてこんなになったんだろう?

たかだか髪の色くらいで。

妹のステラリンクも性格が歪んでいるのかしら?会ったことないけど、タロウが言うには可愛いらしいわね。

タロウもジロウも顔が整ってるし、美形なんだろうなぁ。

性格が歪んでる子は私は嫌だけど!




パーティー当日、タロウ聞いてないわよ?ダンスがあるなんて!しかもパートナーと?

ジロウは立食パーティーだから、ガツガツ食べためてるわよ。あれは、後で腹痛起こすやつね。

私がパートナーがいなくてオロオロしていると、一人の男性が声をかけてくれた。

「レディ。今夜貴女をエスコートする権利を私にいただけませんか?」

なんてこと!

非常にスマートな仕草!そしてイケメン。背も高いし(私ヒール履いてるのに私より余裕で10センチは背が高い)、ガッシリしてる。

そうか、大人の男の人ってこんな感じなのかぁ。

タロウもジロウもまだ発展途上だもんね。

それにしても、周りがざわついた。その理由はわからない。あ、でもあそこにいる令嬢、なんか絵に描いたようにハンカチを噛んでる。本当にそんな人いるんだなぁ。



「レディ、よそ見をしないでください。ダンスの時は私だけを見て下さい」

「はい」

そういうものなのか。ダンス…習ったことないからなぁ。

「あっ」

と、私が慣れないヒールで転びそうになってもこの人はスマートにリフトをして誤魔化してくれた。

「ごめんなさい、重いでしょう?」

「いいえ、とても軽く、羽のようでしたよ?」

なんて口が上手いんでしょう?こういうのもうちのジロウに教えた方がいいのかな?

「あ、もうダンスタイム終了ですね。ありがとうございました。非常に楽しかったし、ためになりました」

「ために?」

「あなたのように紳士的に行動するように弟にも教えようと思いました。ありがとうございます」



私は楽しいパーティーの時間を過ごした。

ジロウは食べためた…のち腹痛を起こした。やはりね…。

ジロウは紳士的に行動できるように教え込もう。昨夜のあの人のように。

そういえば、あの人にお名前を聞くのを忘れてしまった。私も聞かれなかったし。

「ジロウ、食べためるにしても限度があるでしょ?お腹が痛くなるほど食べちゃダメよ~。腹8分目よ!あとね、昨日あった男性がすごく紳士的だったのよ。あなたもあの人みたいに紳士的に振舞えるようになりなさいね」

「ふーん。姉さま、その男性のこと好きなの?」

「わからないわ。だって、大人の男性ってこういう人をいうのかぁって感じだったから。ほら、普段私が会う男性ってジロウかタロウかお父様でしょ?それとは違う男性って初めてだったから、よくわかんないわよ。あなただって、大人の女性って言ってすぐ頭に浮かぶ?」

「無理ー。姉さまは違うでしょ?」

私はそうよね。‘大人の女性’って感じじゃないよね…。我が弟ながらなかなかスルドイ。



その週、慌てたようにお父様が馬小屋にやってきた。

「ハナコ、お前は何をしたんだ?陛下からお前を連れて登城するようにとのお達しがあった。ああ、お前なんか連れてパーティーに行ったからだ。あ、でも連れて来いと言ったのは王家の方で…」

お父様は混乱していた。

私は何もしてないけど?うーん。ジロウとパーティーに行って、名前も知らない男性とダンスを踊ったくらい?なんだろう?



謁見の間にお父様と行った。ドレスは持ってないから、お母様のお古。でもすごくゆるゆる。調整する暇なかったもんなぁ。

調整する暇あれば自分でしたんだけど。

「スメルティーバ公爵家が長女ハナコにございます。お初にお目にかかります」

「うむ。おお、随分な美形ではないか!さぞかしデビュタントでは目立ったことだろう!ん?でも記憶にないなぁ」

馬小屋の事言っていいのかな?

「タイミング悪くもこの子が伝染病を患ってしまい、しばらく社交を控えていたので先日のパーティーがこの子にとっては初パーティーとなります」

馬小屋の事、言わない方が良かったみたいね。今後も黙っていよう。というか、陛下は髪の色とか気にしない主義みたい。

うちが気にしすぎなんじゃ?

「そのパーティーなんだが、うちの倅がスメルティーバ公爵家の長女をいたく気に入ってなぁ」

誰?会ったことないんですけど?

「倅とは?」

「なーに、第三王子。普段は騎士をしている。文官というより、武官タイプでな?この間のパーティーもしぶしぶ参加したんだけど、スメルティーバ公爵家の長女の事が気に入ったと洩らしおった。そこにいるんだろ?出て来い」

この間の紳士的イケメンが出てきた。あ、あの人か。それでハンカチ噛む令嬢がいたわけね。



「私はアーバンクルク国第三王子ヴォルビと申します。先日のパーティーで恥ずかしくもスメルティーバ公爵家の長女のハナコ嬢の事を気に入ってしまいました。それで申し訳なくもハナコ嬢の身辺を調査させていただきました。あ、ハナコ嬢とその弟君には全く問題はありませんよ。

ただ、あの公爵…何故ハナコ嬢をあのような場所で生活させているのでしょうか?」

「我が家に古くから伝わる話で黒い髪は不吉の兆候だと…」

「そのようなことはマユツバだというのがもう常識となっていませんか?あなたのうちだけですよ?そんなものに囚われているのは」

やっぱりうちだけなのかー!!というか、ストーカー行為だなぁ。



「改めまして、ハナコ嬢。私の名はヴォルビ=アーバンクルクと申します。是非結婚を前提にお付き合いをしていただきたく思います」

「私は弟を養わなくては…」

「それならば、弟君共々城で生活をしていただきたい。私としても、自分の婚約者があのような馬小屋で生活しているのは忍びない!」

知ってるのね。

「そうね。家ではこの髪の色だし、虐げられそう。頼んでいいかしら?」

「喜んで!あ、安心してください。キチンと正式な結婚までは男として我慢しますから!」

オトコとして我慢?←なんと、性的知識も不足していた――――!!



「これでスメルティーバ公爵家も安泰だな!」

「何を言うんだ?時代錯誤極まりなく、このように女子供を虐げた罪は重く、爵位を下げる。伯爵とする。領地経営もその方が簡単だろう?狭くなるのだから(笑) タロウは次期伯爵となるだろう。ジロウは城で暮らすうちに使用人の誰かと恋愛結婚しそうな気がする。美形だしな。ハッハッハッ」

「娘のステラリンクはどうなるのでしょうか?」

「どうしようとしていたんだ?」

「王家に確か9才くらいの方がいらしたと思います。その方とどうにか縁を結べたら…と思っていました」

「あぁ、あいつなぁ。決めるのが早くてなぁ。5才くらいの時に他国の姫と婚約しおった。知らなかったのか?娘も誰かと恋愛結婚するんじゃないのか?それがいいんだ。政略結婚なんて可哀そうだろ?」




こうして、ハナコとジロウは城で暮らすこととなった。

タロウは

「髪が金髪になったばかりにこんなことに…」

と言っていたが、結構酷く高飛車になっていたからこれがいい薬だと思う。



ジロウも陛下の予言(?)の通り、城で暮らしているうちに侍女の一人を強く想うようになり、結婚し今は城を出て、騎士としてヴォルビの下で働いている。

ジロウ夫妻のところは妊娠中らしく、ジロウは定時で足早に帰宅している。

ハナコは正式にヴォルビと結婚し2男2女を産んだ。6人家族で幸せ一杯だ。

男の子達は騎士にすると意気込んでいる。

女の子は二人とも「嫁にやらない。俺は3人と一緒にハーレム生活をするんだぁ」と少々バカな事を言っている。

結局女の子もお嫁に行くことになるんだろうなぁ。と今から感慨深いものがあります。



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