約束の死へ、

砂糖鹿目

約束の死へ、

「どうも初めましてジュセと申します、これからよろしくお願いします」


私は慣れない挨拶を終えた後お辞儀をした。

庭に咲く色に統一性の無い花達は、晴れた空が遠くにある事を教えてくれる。



お母さんは私に色んなものを与えてくれた。

彼女は遠くのどこかもわからない地でお父さんと結婚し、私を産んだ。

その跡は今、誰の中にも無い。


「お母さん」


「なぁに」


「わからないって何?」


お母さんは微笑した。


「まさにそのことよ」



私と彼は床の軋む廊下を渡り部屋に向かった。


「お茶でも飲んで」


彼はボールペンを持ってサインした。


「今まで、どんなことしてきたの?」


「いえ、特にこれといったことは何も」


彼は少し微笑していった。


「皆んなそんなもんだよ」



生まれて後悔したことは沢山ある、だけどそれが全て宝物だというぐらいは知っている。

過去の全てが今のためにあるという訳では無いが、必然的に過去は今を成立させる。


「お母さん」


「なぁに」


「大好き!」


今考えてみてもそうだ。

彼女が私を産んだのは、特に深い意味があったわけでは無い。

私を育てたのも深い意味があったわけでは無い。

だがそれが悪いことだなんて、誰も否定できない。

産まれる前より産まれた後の方が、見出だす意味は多かった。



「ごめんなさい、、ごめんなさい、母さん」


「そこは、ありがとうというのよ」


雨の中、彼女は私を優しく抱きしめた。



「さて、そろそろ揃ったかな?」


彼は私に荷物を渡し終えると、準備が完了しているか確認してきた。


「大丈夫です」


「じゃあ、頑張ってください」



別に失ったとは思っていない、ただ過ぎ去ったと思っている。

私の中にいる彼女はどちらの意味でも不完全だった。

だけどこれは私の彼女だということには変わりない。

全部に感謝している、本当に全部、全部


「ありがとう、行ってきます」


「行ってらっしゃい」


愛してる。

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