第1話 君の言葉の意味を教えて。

キーンコーンカーンコーン。

4時間目の授業が終わり、みんながお弁当を持って移動している。

私も授業の片づけを終え、急いで屋上に駆けつける。


『あのっ……明日の昼休み、屋上に来てね……?』


私がそう言ったら、彼は小さくうなずいてくれた。

階段を上がり、昼のみ解禁と書かれているドアを開け、屋上に出る。

その途端、ぶわっと風が吹いて前髪が顔に打ち付ける。

顔に被った髪を払いながら、屋上を見渡す。


「わ……」


広い。

2、3歩歩いてみると、下の景色が少し目に入ってきた。

もっと風に当たりたくて、その景色が見たくて、私は屋上のフェンスまで走る。


「ひろ……」


思わず、そんな声が出た。

広い。

私が住んでいる町は、こんなにも広かったのか。

びゅうびゅうと風が当たる。


冷たい風に当たりながら、そっと目を閉じる。

ちょうどいい感じに太陽の日が当たって、今すぐにでも寝れそうだ。



「おい」



うしろから響いた声で、ハッと意識が覚醒する。


「涼……!」


来てくれた。

よかった。

私は今すぐにでも聞きたかったけど、深呼吸をして気持ちを抑える。


座りなよ、と私は自分の右の場所を開ける。

すると彼はためらってから、ゆっくりと座った。



「あのさ……」



話したい。

でも、いざとなれば何を話していいのかわからない。

分からない、分からない。


これで今日話したことによって、私が傷つかないだろうか。

真実を知ることで、希望を失わないだろうか。



でも、そんなことを考えていたら、いつまでも前に進めない。

私は意を決して、口を開いた。


「あの。なんで最初、私のこと避けてたの……?」


私がそう言った瞬間、彼がわたしのことを見て驚いたように目を丸くする。


「それは……」


何かを言おうとしているのに、まだ隠そうとしているのか。

幼馴染なのに、それを話してくれない涼に悲しくなる。


「じゃあ……」


こういう時は、質問を変えたほうがいいだろう。


「私のこと、嫌いになった……??」


言いながら、声が震えた。

声だけじゃなくて、手がわずかに震える。


なぜか涙が出そうになって、ハッと小さく息をする。


涼も何も言わない。

この沈黙に耐えられず、私は下を向く。


何も言わないなら、嫌いになったのかな。

涼は優しいから、嫌いだとはっきり言えないのだろうか。

でも、初日のことを考えると、そんなこともないのか、と思う。


ぐるぐると考えが渦巻く。


どうしよう、これで嫌われたら――――――。




「……お前のことは嫌いじゃない」



その声にびっくりして横を見ると、彼は苦しそうな顔で私を見ていた。



「嫌いじゃ、ないの……?」



それじゃあどうして。

どうしてあの日、幼馴染じゃないなんて言ったの。


「じゃあ、どうして……?」


わたしがそう尋ねると、彼の目が切なげに揺れる。


「……お前といたら、ダメなんだよっ……!」

「え……?」

「俺が、お前といたら……」


ばちりと目が合った。

その苦しげに細められた目を見ていたら、ふっと、何かを思い出した。



それを完全に思い出すのと、彼が最後に言った言葉が発せられるのは、ほぼ同時だった。



「……お前が、不幸になるんだよ……」



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