とある美術部員の活躍劇
有満なのはな
プロローグ
月の光が誰もいない空間をぼんやりと照らしている。電気が付いていなくても周りに何があるかなんとなく分かるほど、今日の月はまばゆい光を放っていた。
「ああ、どんどん遠ざかってしまう……。こんなに頑張ってるのに、どうして報われないの!?」
グシャリという音とともに、手に握っていたものの形が変わる。さっきまで綺麗だった姿には、すでに数えきれないほどのシワがついていた。
「好きという気持ちだけじゃダメなの……? その気持ちでいることすらも、私には許されないの?」
誰に向けられたか分からない問いが静かな空間に落ちてすぐに消えていく。
答えが得られないことへのもどかしさからか、その影は激しく地団駄を踏む。
「私だけが手放すなんて、不公平じゃない? 私たちはずっと一緒よ。そうでしょう?」
影は見えない何かに取り繕うように、ゆがんだ笑みを浮かべる。
そして握力でしわだらけになったものを、今度はビリビリに破き始める。
月明かりが照らし出した影は、狂ったように踊っていた。
やがて踊り疲れた影は、見る影もなくなったそれを無造作に打ち捨てた。
そして地面に散らばったそれをわざと踏みつけながら、影は部屋を後にした。
月の光はその後も静かに部屋を照らし続けていた。
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