untitled

@rabbit090

第1話

 ちょっとのことで、そんな意固地にならなくても、私はいつも彼女に対して、そんなことを思っていた。

 「うるせぇなあ。」

 「口汚い。」

 「黙ってろ。」

 女だけど、本当にヤクザみたいな口をきく。けど、とても弱かった。運動もできないし、友達もいないし、最悪でしかない。

 しかし、

 「あの子のこと、お願い。」

 と、今にも死にそうなおばさんに頼まれたら、断れないじゃないか。

 理紗りさの母は、病気だった。もうすぐ死ぬ、しかし、私より二つ年下の理紗には、伝えていない。伝えられることじゃない、誰もがそう思っていた。

 「遊ぼうよ。」

 「分かった。」

 大人になった今、私はまだ、理紗のことを誘い続けている。

 結局、おばさんはあの後、すぐに死んでしまった。

 ただ、隣りに住んでいるというだけなのに、私達は、嫌なのか、なんなのか、とにかく奇縁であったと思う。

 

 「お前、まだ理紗ってこと、一緒にいるの?」

 「…そうよ。」

 「やめろよ、だって俺たちが誘っても、お前は来ないだろ?だけど、あの子とだけはずっといる、おかしいって。」

 「何が。」

 「ちょ…。」

 正直、もう同級生と遊ばなくなってどれだけ経ってしまったのだろうか。

 誘われても、いつからか私は理紗以外の人間は、受け付けなくなっていた。

 うわべだけは、取り繕える。だからまだ誘われ続けているんだと思うけど、いつかそれもなくなるのだろう。

 そしたら、私はずっと、理紗以外の人間と、コンタクトを取らなくなるのだろうか、そんなことを考えるとぞっとして、初めて同僚を食事に誘ってみた。

 「珍しいね、いつも誘い、断ってるから家庭の事情かなあ、って思ってた。」

 「いや、うん。ちょっと面倒見てる子がいてね、でもその子も大学に行って、そろそろ独り立ちっていうか。」

 「遅くない、え、妹じゃないの?」

 「はは、なんか昔から家族ぐるみで付き合いがあって。」

 「へえ。」

 ちょっと、気味が悪いという顔を、一瞬していたけれど、上司の悪口を言い始めたらすぐになくなった。

 私は胸をなでおろして、一緒に笑っていた。


 「お姉ちゃん、行こうよ。」

 「大学生になったんでしょ?一人で行きなよ。」

 「無理、私一人で外に何て出たくない。」

 そう、理紗は相変わらずだった。はずだ。

 なのに、

 「今までありがとう。これ、プレゼントだから。」

 そんなの、もらったことない。ていうか、理紗が私の誕生日を知っていたなんて、初耳だ。

 そして、最大の理由は、理紗がもう私を必要としないという、決別状のようなものなのだ。

 理紗には、彼氏がいる。

 つまり、恋をしたのだ。

 きっと、これから、一人で大人になり続けるのだろう。

 小さいころから、私は惰性をやめられなかった。

 理紗の母親が、哀れだった。

 弱い娘を、誰かに託さなくては、という思いが明白で、私はそれを拒めなかった。

 でも、もう大人になったのなら、それでいいか、という気持ちになった。

 そして私は、すぐにここを離れることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

untitled @rabbit090

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る