鎧武者ハンティング(全4話)

鎧武者ハンティング①

水曜日 PM 3:40

市目鯖しめさば高校2年C組教室

授業が終わり、荷物をまとめて心霊同好会の活動拠点である化学実験室に向かおうとしているシゲミ。


席から立ち上がったと同時に、背後から男子生徒が「シゲミさん」と話しかけてきた。同じクラスのジンという華奢で色白な男子。学校には週2回しか来ない気分屋で、女子の間では「地味にイケメン」「暗いところで見ると山﨑 賢人やまざき けんとくんに似てる」などと言われ、そこそこ人気はある。しかし本人にその自覚はなく、クラスではいつも一人。授業中も休み時間もつまらなそうにボーッとしている。


シゲミはジンと挨拶すら交わしたことがなく、話しかけられる心当たりもなかった。



ジン「シゲミさん、修学旅行中に登山客を襲ってた恐竜の幽霊を殺したんでしょ?俺、休んでたから知らなくて」


シゲミ「誰にも言ってないはずだけど、なぜ知ってるの?」


ジン「昼休みに心霊同好会のメガネをかけた男子が言いふらして歩いてたよ」


シゲミ「トシキくん……またババ上に調教してもらわないとダメかな」


ジン「ねぇ、幽霊を殺すのってどんな気分?やっぱり楽しいとか、スカッとするとか、そういう気分になるの?生き物を殺すわけじゃないから罪悪感も生まれない?」


シゲミ「別に。仕事だからやってるだけ。何の感情も無い」


ジン「そうなんだ。達成感も無い?」


シゲミ「それはちょっとある。要件はそれだけ?」


ジン「いや、これは単なるアイスブレイク。ここからが本題。俺、今週の土曜日、オフ会に参加するのね。で、シゲミさんも一緒にどうかなと思って」


シゲミ「行かない」


ジン「判断が早いな。もうちょっと話を聞いてよ。そのオフ会には『幽霊を駆除したい』って人たちが集まるんだ。みんな、ある心霊系XYZtuberのファン。その人が、『隠匿いんとくの森』に現れる鎧武者よろいむしゃの幽霊をファンと一緒に駆除する企画を立てたんだ」


シゲミ「隠匿の森?」


ジン「味負雷あじふらい公園っていうデカい公園の一角にある森林で、500年くらい前に戦争から逃げた鎧武者の幽霊が出るってネットで有名なんだよ。夜は公園自体が閉鎖されちゃうんだけど、その理由が鎧武者の幽霊と利用者が遭遇しないようにするためだって言われてる」


シゲミ「ふぅん」


ジン「夜になるとその鎧武者が現れて、人を見るなり自分を襲いに来た敵兵だと勘違いして斬っちゃうらしい。森の中で斬り殺された死体がいくつも発見されてるんだってさ」


シゲミ「へぇ」


ジン「ソイツを駆除しようっていうオフ会なんだけど……リアクション薄いなぁ。シゲミさんなら興味津々だと思ったのに」


シゲミ「味負雷公園って他県で片道2時間以上かかるでしょ?面倒だから行かない」


ジン「残念。でももし気が変わったら来てよ。夜中の1時までに来てくれれば当日参加もOKらしいから」


シゲミ「あらそう。なんでキミは参加しようと思ったの?」


ジン「好奇心と……達成感を得たいからかな?」


教室から出て行くジン。その背中をシゲミは黙って見つめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る