第18話 スローライフ


「いやぁ、俺も悪人を斬るために冒険者になったようなもんでね」

「…俺はそんなんじゃない」

「これだけ人を斬っといてかい?」

「…たまたまだ」

「たまたまねぇ。まぁいいか」

(コイツとは話は合わないな)

「…じゃ、失礼します」

「またきたまえ!」

(ここのギルド長はイカれてるな)

 階段を降りていく。

 受付でギルドカードをもらうとランクAになっていた。

「おいあいつだぞ」

「あぁ、目を合わせるな」

「人斬りだからな」

(あぁ、そうか、猩々や狒々以外は全部盗賊だな)

 人斬りと言われても仕方ない。


 こりゃ都会でスローライフは無理だな。


(まぁ、まだ8日もあるしどうにかスローライフできるとこに目星をつけないと)


 俺は街を一人でぶらつく。

 腹が立つわけでもないがなぜ善行を行った俺が人斬りと言われなきゃならんのか。


「おっ!人斬りみーっけ」

 どこかで見かけたことのある顔だな?

「…あ?」

「おぉ!こわっ!そんな睨むなよ?仲良くしようぜ?」

 と肩を抱いてくる。

「…用がないなら触るなよ?」

「ようならあるさ、俺の弟をよくも殺してくれたな?」

「…誰のことだ?」

「バインだよ!」

 そうかあいつに面影があるな。

「…はぁ、俺にはそんな役回りしかついてこないのか?」

「悪いけど死んでもらうぞ?」

 まだ肩は抱かれたままだ。

「それは自分が死んでから悔やむ言葉だな」

「せぁ!」

 俺は収納から剣を出すと、

“キキン”

 と音がなり落ちたのはナイフだ。

「グアッ!」

 柄で鼻をへし折ると剥がれていくあいての襟首を捕まえ投げる。

「うわあァァァ!」 

“グシャ”

 頭から落ちた相手は死んだ。

(はぁ、なんでかかってくるかな?)

 収納して、兵士の所まで行く。


「バインの兄弟らしい、俺にかかってきた」

「あ、ああ!わかった!」

「…それじゃ」

 兵士はまだ分かってくれてると思うが人斬りと呼ばれている俺は皆からどう見られているのか。

(さて。ある程度は俺に突っかかってくることもなくなったんじゃないか?)

 街ブラを続ける。

 皆が避けて通る。

(あ、返り血か)

「…クリーン」


 街ブラをしていろんなものを見るが奴隷屋だけは好きになれないな。

 さっさと通り過ぎる。

 これ以上増えたらまた何言われるか分かったもんじゃないからな。

 

 武器屋で黒鉄の剣をあと2本仕入れて、宿に戻る。


 自分の部屋に戻ると、ネアとノアが俺のベッドで寝ていた。

 二人を起こさずにコーヒーを淹れる。

 ふわっと香るコーヒーの匂い。

 

 外を見る、夕焼け空を見ているとやはり自分のいた世界が思い出され自分がどんな人間だったかを必死に思い出そうとする。

 “コンコン”

「…誰だ?」

「リシェルです」

 ドアを開ける。

「…どうした?」

「いえ、あ、やっぱり」

「あぁ、ネアとノアか。寝かせとくさ」

「あ、ありがとうございます」

「コーヒーでも飲むか?」

「はい、いいただきます」

 二人でコーヒーを飲んでいる。

「…リシェルは、その、なんだ、慣れたか?」

「はい?あ、いまの生活なら慣れました」

「本当は奴隷から解放してやりたいのだがな」

「それは大丈夫です!一生ついて行きますから」

「…俺は立派でもなんでもない」

「いえ。ケント様は立派で尊敬してます」

「…そうか」

(リシェルはなんでも俺を立ててくれるからな」

「私を助けたことを悔やんでらっしゃいますか?」

「いや、そんなことはない」

「でしたら私は十分ケント様に助けられています。ですのでネアやノアだって、3人ともケント様の奴隷になれたことを嬉しくおもってています」

(そんなこと嬉しく思っちゃダメだろ。まぁいいか)

 二人でコーヒーを飲んでると寝ていた二人が起きてきた。

「おはようごじゃいます」

「お、おはようごじゃります」

「二人ともおはよう、お腹は?」

「空きました」

「ぺこぺこ」

「よし、晩御飯だ、みんなを呼んできてね」

「「はい」」

 と元気に走り去っていく二人を見ている俺とリシェルはコーヒーを飲み干して外に出る。

 ゆっくり下に降りていると上から、

“ダダダダダダ”

 と降りてくるのはルビーとボン婆、後ろにシンもいるな。

「ほら早く!」

「酒じゃ」

 俺とリシェルは顔を見合わせて笑ってしまう。

 テトテトと一番後ろから降りてくるネアとノアを待ってからルビー達が陣取ったテーブル席に向かう。

 いろんなものを頼んでからムフーと鼻息を吐き出すボン婆にまた笑い。

「そんなに飲みたかったのかよ?」

「酒は人生の花じゃからなぁ」

「…あまり良くないぞ?飲みすぎるなよ」

「分かっとるワイ」

 なぜかみんなエール(ネアとノアはミルク)なのにボン婆だけウイスキーかよ!

 まぁいいか。

「乾杯」

「「「「「カンパーイ」」」」」

 そして出てきた料理を食べだす。

「美味っ」

「美味しいですねー」

 と美味い飯と美味い酒を飲んで上機嫌のボン婆達はこれ以上ないくらい幸せそうだな。


 やはり都会で暮らすのもそれなりにメリットがあるからな。

「暮らすなら都会と田舎どっちがいい?」

「んー、私はどっちかと言うともうちょっと田舎でもいいかな?」

「私はケント様について行きますから!」

「あたしゃは酒があればどこでも」

「私はどちらかと言うと田舎の方が鍛錬できて好きだな」

(ふーん、みんなこんな都会よりはまだ田舎の方がいいってことだな)

「お外が好き!」

「ノアも」

「ハハッ、そうか」

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