第36話:きみには話しておくべきだと思ったんだよ


「えーっと、ウチがそまり。できょーたろうくんがロキくん。だね?」


だね?って…なんでそんなに落ち着いていられるんだよ。

待てよ…まりさんの本名って”相馬真梨”だったよな…。

そうままり…そうまり…そまり?そういうことなのか?安易すぎる…。

いや今はそんなことはどうでもいい。


「あの…どうして会うことにしたんですか?」


「ロキくん、いやこの場合はなんて呼ぶべきかな…」


「あ、リアルは嬌太郎でお願いします」


「そうかい、きょーたろうくん」


「あ、はい」


「なーんで敬語を使うかなー、いつもタメ口なのに」


はあ?問題はそこじゃないでしょう。


「いやー、初対面ですし。この前も敬語で話してたんで」


「はい、次に敬語使ったらここのお金は全部きょーたろうくん持ちねー」


ああもういつも振り回される。


「わかりま…わかったよ。まりさん」

うわー、なんか恥ずかしいな。


「よーし、よくできましたー。で、なんの話ししてたっけ?」


そうなると思ったよ。


「だからなんで会うことにしたんですか…じゃなくて、したの?」

あぶねー財布が空になるところだった。


「そのことかー、まあきょーたろうくんに話さないといけないことがあってさー」


「話さないといけないこと?」


「そーそー。きょーたろうくんってたまにウチが突然消えたワケを話せって騒ぐじゃん?」


騒いでた…のかな、でも気にはなっていた。


「きみだけには直接会って話そうと思って」

まりさんは網の上の肉を全部自分の取り皿に移し牛タンから食べ始めた。


「長くてだるーい話しになるけどいいかい?」


「うん、いいよ」


「あ、あれ?そういえば歳言ってなかったね。ウチは23歳なんだー、きょーたろうくんは?」


「あ、20歳で大学2年だよ」

3つ上だったのか…。


「ふむふむ。じゃあ話しを続けよー。えーっとウチがきょーたろうくんに連絡しなくなったのがウチが大学3年で21歳の時だね。まあしなくなったというよりはできなくなったという方が近いかな」


「どういうこと?」


「すごいことが起きたんだよー」


「え?」


「おとんの会社が倒産して、そのついでに親が離婚したんだよねー、そんでおとんが実は不倫してましたっていうびっくり展開」


え…倒産に離婚、不倫?重すぎないか?まりさんは大丈夫だったのか?


「…まりさん大丈夫だったの?」


「いやー正直参ったよー、まあもちろんおかんについて行ったけどお金もなくてさー。もちろんパソコンもゲームも何もかもなくなってさ」


だから連絡がつかなかったのか…。


「ごめんね、何も伝えることができなくて」

まりさんは静かに箸を置いた。


「あ、いやおれは別に…」

おれが問いただす度にはぐらかしてたのはこういうことだったのか。嫌な思いさせちゃったな。


「まー、でも今はこうやって一緒に焼肉も食べれるしゲームもできるしさ最高だよー」


まりさんはこの性格だからこそ、その壮絶な過去を乗り越えて来れたんだ。


「あれ、そういえばあの古着屋はまりさんが起ち上げた店なの?」


「え?そんなわけないじゃーん。ただの雇われ店長ですよー」


ですよね…。


「あ、そうだ!こうして会えたんだし今度実写コラボでもするー?」


「しないしない!絶対しないー!」


憂鬱だったそまりとの対面も終わってみれば、より仲を深められることができたいい時間となった。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦



「「どうだった!?」」


朝大学の待ち合わせ場所に行くと瑛人と雪弥が笑顔で声を合わせた。


「なにが?」


「なにが?じゃねーだろ、昨日の話しだよ!女の子と上手くいったのか?」


うまく…まあうまくいったのかな。


「まあいい感じだったよ」


「えー嬌太郎くんすごいなー。今度紹介してよ!」


紹介かあ…、なんか厄介なことになりそうだからやめておこう。


「だめだめ」


「うわー、意外と独占欲強いんだな、嬌太郎」


「そういうのじゃないって」


「残念…」


あー、まずいな今更だけどなんか勘違いされてるっぽいな。


「あ…」

瑛人と雪弥があんぐりと口を開けている。


二人の顔を見て察した。

これはなんかまずいパターンだな…。

嫌な予感は的中した。


後ろを向くと莉未がノートを持って立っていた。


「…あ、おはよ」


「…」


無視か、どこから聞かれてたんだろうか。

前にもこんなシチュエーションあったなあ。


「彼女できたんだね」


「え」


「おめでとう…」

莉未はノートをおれに突き付け走って行った。


走り出した際にこぼれた涙に嬌太郎は気づかなかった。


「おめでたいことは何もないんだけどな…」


振り向くとそーっと教室へ向かおうとする2人を捕まえ空のペットボトルで、ポカンッと1発ずつ頭を叩いた。


♦♢♦


その日の晩おれは久しぶりに生配信を始めた。


===ロキ配信===

「どーも。ロキです、みんなおつかれさまー」


―――チャット欄 ―――

『久しぶりやん』

『こん』

『ロキー』

『眠い』

―――チャット欄 ―――


「眠い中きてくれてありがとうね。でも今日は雑談回なんでもっと眠くなりますよ」


―――チャット欄 ―――

『寝ながら見るわ』

『何はなすのー』

『質問コーナー?』

―――チャット欄 ―――


「あー、質問コーナーもいいね。でもおれに質問しても特に面白い回答は期待できないですよー」


―――チャット欄 ―――

『たまにはいいんじゃね?』

『彼女いるんですかー?』

『学校ちゃんと行ってますか?』

『ハマってる漫画なに』

―――チャット欄 ―――


「なんか勝手に質問タイム始まったね。最初に言っておきますけど彼女はいませんよ」


―――チャット欄 ―――

『mmちゃんと付き合ってるんじゃないの?』

『mmとできてると思った』

『2人共仲いいし』

―――チャット欄 ―――


「mmさんはコラボしてくれる数少ない友人の1人ですよ」

(まあ思ってたより仲良くなったけども)


―――チャット欄 ―――

『うーん、おれはそまりと付き合ってると思ったわ』

『うちもそまりちゃんかなって』

『確かにそまりとゲームしてる時なんか自然体だったよな』

―――チャット欄 ―――


「ないない。ただの腐れ縁なんで」

(なんだかすごーくだるい話しになってきたなあ)


―――チャット欄 ―――

『じゃあさ、どっちの方がやりやすいの?コラボ相手として』

『気になるー』

『さすがにmmでしょ』

『この前のを見た感じだとそまりちゃんかな』

『mm』

『どっちをとるのー』

―――チャット欄 ―――


「え、ど…どっちって。そ、そんなのどっちもじゃないですか」

(なんだ今の気持ち…)


―――チャット欄 ―――

『うーわ、おもんな』

『まあその回答がベターだね』

『はっきりせーや』

『かわE』

『なんか草』

―――チャット欄 ―――


「ああああ、もういいっす!ちょっと今日は早いけど終わりで!すみません!」


==========


どっちを選ぶ…どういうことだよ。


【相馬真梨=そまり】【莉未】【mm】


放送終了後、この3つの名前が嬌太郎の頭の中を飛び交っていた。



―――― なんだこの感情…


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