第1話:ヤケクソ配信




「くっそ!!いろいろむしゃくしゃするんで今日はスマ○ラで参加型配信しーまーすー。誰でもかかってこいや!!」



専用部屋のパスワードを概要欄に書き込み部屋を作った。



部屋名は【くそったれをぶちのめす】



視聴者が集まり始め1on1で対戦を始める。



「おい!おまえなに空後メテオ決めてんだよ!」


「ジョー○ーなんて使ってんじゃねーよ!ザク○イの真似か?キッズなのか!?」


「お前はなに空ダばっかやってんだよ!ウゼぇよ!」



その日のおれは異常なまでに荒れていた…ようだ。



~~~チャット欄~~~


『おい、今日のロキおかしくない?』


『ど、どうしたん?すげー荒れてるけど』


『いつもの優しいロキさんがいいなあ…』


『なんか草』


~~~チャット欄 ~~~



「おめえら弱すぎだろ!!やる気あんのか?あぁ!?」




―――― 一方、とあるゲーム実況者。



「はーい、なんかイラつくんで配信しまーす」



その実況者は自分のチャンネルにてAP○Xの配信を始めた。


いつもはボイスチャットをオフにし他プレイヤーに声が聞こえないようにしていたが、この日はそれをオンにしていた。



「おらおらおら!!何もたついてんだよ!さっさとウルト使えよ!!」


「割ったぞ!ロー、ロー」


「おい!あんたは何隠れてんだよ!」



~~~チャット欄 ~~~


『この人誰…?』


『mmちゃん…じゃない誰かだよね?』


『いやでもこれはmmの声で間違いないよ』


『なんか草』


~~~チャット欄 ~~~



この日の実況者ロキ、mmはいつもの落ち着いたスタイルの配信と反し罵詈雑言を吐き続け狂気すら感じる配信を視聴者に見せつけた。


そのせいかSNSではトレンドに【ロキ】【mm】のキーワードが上昇した。


何故この二人がこの様なイカれた配信をし始めたのかは、少し遡る。




♦♦♦♦♦♦♦♦♦




「なんで裏切ったのよ!ずっとずっと信じてたのに…」



「うるないなあ、それはこっちのセリフだよ!」



「この先もずっとずっとこんな風に裏切っていくんだよね、一度犯した過ちはまた起こすのよ」



「あれくらいのことで何キレてるんだよ、本当に面倒くさいよ」



「そんな…そこまで言わなくて言いじゃん!分かった私たち別れよう。もう無理。あなたとは絶対上手くやっていけないわ」



「ああ、いいよ別れてやる!せいせいするするね」



「……最低だわ。もう知らない」



「おれだってもうどうでもいいね」




♦♦♦♦♦♦♦♦♦




―――― ふあーぁ、もう朝か。



衣類やゴミ、ハイボールの空き缶などが散乱した部屋で目が覚める。



このアパートの汚部屋の一室で重い瞼をようやく持上げたのがゲーム実況者【ロキ】こと伏見嬌太郎である。



you○ubeのチャンネル登録者数は50万人。


御年21歳の嬌太郎は実況を始め早5年。


今はFランの大学に通っている。



なんだ、もうこんな時間かよ。


嬌太郎は虚ろな目を時計にやると針は10時を差していた。


10時半から経営学だっけ?とりあえずさっさと行くか。


嬌太郎のアパートは大学から徒歩3分と、堕落した生徒にはうってつけの場所だ。


あれ、でもそういえばもうそろそろあいつが迎えに来るんじゃないっけ?


後頭部を掻きながらスマホを取り出しパスワードを押している時に気づいた。



あ、昨日おれ別れたんだったな。だからあんなに遅くまで配信してたのか…。



ようやく記憶を取り戻した主人公の彼は一人トボトボと歩き出した。


校舎に着き売店の前でやつを待つ。



「おーっす。嬌太郎!」


向かって来る明らかに陽キャな金髪の彼は君島瑛人。一番仲のいい友達だ。



「うーっす。でも遅えよ」


待ち合わせ時間に買った缶コーヒーがもう空だ。



「まあまあまあ、さっさと教室行こうぜ。遅れちまうよ」



「どの口が言う」



瑛人はいいやつだ。そしてモテる。彼女を縛られたくないという理由で彼女を作らない彼はいつも校内で女子に声をかけられる。もう言いたいことは分かるだろう、おれはこいつと行動を共にするのが億劫に感じることが多い。



フツ面。自分で言うのもなんだがおれの容姿なんて十人並みのものだ。


瑛人に女子が寄ってくるとおれは蚊帳の外。



「おーい、早くしろって」



「はーいよ」



今日は女子が寄ってこないことを祈ろう。




講義中に瑛人が周りに人があまり座ってないことを確認し話しかけてきた。



「昨日見たぜ。なんだよ、あれ。酒でも飲んでおかしくなったのか?」



「ああ、あれね」



そう、瑛人はおれがゲーム実況をしていることを知っている唯一の人物だ。



「まあいろいろあって酒飲んでたからかな」



「いろいろ?なんだよ、何か隠してるな。いつになく元気ねえぞ」



こいつ…勘が鋭い。


後で話すよと言うと、了解とニヤリと笑った。




♦♦♦♦♦♦♦♦♦




「んで?何があったん」


食堂でカレーを食べながらスプーンを向けてきた。



「別れただけ」



「なにが?」



「だからー、莉未と別れたんだよ」



「ハぁ!?なんでだよ!」


瑛人は食べるのを止め水を大量に飲み込んだ。



「ケンカしたから」



「おいおいおい。何があったかは知らねーけどよ、莉未ちゃんみたいな可愛い子と別れちゃだめだろ!」



莉未。星莉未はおれの彼女、だった人だ。



「別にいいだろ。おれの勝手だ」



「いーや、だめだね。嬌太郎はこの先あんなに可愛い子と付き合うことはまず無理なんだぞ」


テーブルに勢いよく手をつき顔を寄せてくる。



「でももう別れたしさ。いいんだよ。おれも縛られない身になったってことで」



「はあ、早く謝っておけよ」




おれたちは昼食を食べた後、講義を終え家路に着いた。



アパートに帰って改めて昨日のことと今日瑛人に言われたことを考える。


確かに非はおれにあるけど莉未もあんなにキレることないだろ。絶対に謝らないし許す気もないね。



とりあえずおれは散らかった部屋を片付けることにした。


服を収納しているとひらりと何かが落ちる。



チケット、ディ○ニーランドのチケットだ。



先月二人で行ったばかりで思い出にと捨てずにとっておいた物だ。



―――― 捨てよう。



今更寂しい気持ちが生まれたがこれを捨てて次に進むことにした。


破局した後は少なからず虚しさは残るものだ。



掃除が終わりベッドに寝そべり、SNSを確認した。


こう見えてもそこそこ人気のある実況者、エゴサもしたくなる。



検索:ロキ



検索をかけると#ロキが付いたコメントがどんどん出てくる。


傷つくコメントの方が多いがいつも通り読み上げていく。



えーっと、



『昨日ロキ狂ってたな草』


『酔ってたにしてはおかしかったよなー、いつもと正反対』


『え、ちょっと待って。認めたくないんですけど』



記憶が定かではないがそんなにおかしかったのか。今後はないように気を付けよう。


また少しスクロールしていくと気になるコメントを目にした。



『ロキもひどかったけどmmちゃんも相当だったな草』


『ワンチャンmmの方がひどいまである』


『mmちゃんのファン辞めたくなったわ』



ん?mmっておれと同じゲーム実況者だよな。



youtu○eで【mm】、と調べる。



―――― 登録者数30万人。割と多いな。



どんな動画を投稿しているんだ?



再生リストを見ると


モン○ン・スマ○ラ・マイ○ラ・ポケ○ン・AP○X…他にもたくさんあるが有名どころはこの辺か。


おれのジャンルと近しいのかもしれない。



とりあえず昨日の配信のアーカイブを見てみるか。



広告が終わるのを待つと動画が始まる。20秒ほど経った頃にようやく彼女の声が聞こえてきた。



『よっしゃー、やるぞー。あ~イライラする!とりあえず今日はAP○Xで』



やけに荒れているな。それにだいぶ酔っているような気もする。



15分が経過した頃、動画を閉じた。



感想としては、目も当てられない、ということ。よくもこんな動画を残しているな、いやそのうち消すだろ。



だが少し親近感が沸いたためチャンネル登録をしておくことにした。






―――― 【mm】か、読み方は【ミリ】でいいのかな。






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