50代の冴えない男がある日突然美少女になりイケメンにモテまくってしまったら

本間和国

第1話俺と彼女と満月の関係

田舎にある、今時あまり無い小さな個人経営のコンビニ、「天下一てんかいち

あまりコンビニっぽくない店名のこの店で働く俺、堀田和男ほったかずお54歳。

独身。

彼女無し歴=年齢。

女性経験ナシ。(合法な店のプロの方とは数回アリ)

身長158cm

体重72kg

かれこれ、この店で10年働いてる。まあまあベテランだ。ベテランといっても万年人手不足なんで10年間、昼間のパートのおばちゃん1人と、夜間の俺と店長で切り盛りしてるせいで、後輩は1人もいない。

まあでも、1人での仕事も、なかなか気楽で良いものだ。俺は、いつも通り仕事をこなす。

時間は夜10時になった。

そろそろ夜間の客1号が来る。


♫ティタンタンティタンタンティタンタタン♫


どっかの大手コンビニをパクったような、お客さんの入店を知らせる音楽が鳴った。


「おい〜和男〜。」

「いらっしゃいませ。」

「いつもの◯✕△〜」


70代くらいの、ほぼ毎日くる酔っぱらいジジイ。手には、いつもワンカップを持ってタバコを買いに来る。

俺は、いつものタバコを渡す。


「600円です。」

「ちくしょ〜今日も負けちまったよ。オレの人生なんて◯✕△〜・・・・ガァァァ」


ジジイはハズレ馬券をぶちまけて、そのまま寝ちまった。


「おいジジイ!こんなとこで寝ちゃ困るよ!」


ハズレ馬券を拾いながら、両手で一生懸命ジジイを引っ張り外に出した。


「お?おお、和男、また来るからな。」

ジジイは見えなくなるまで手を降ってくれる。それに応えて俺も振り返す。

もう来ないでほしい。

そう願いたいが、もし来なくなったら、ひょっとしたら寂しくなるかもしれない。

あんなジジイでも俺には必要な人かもしれない。ジジイ、やっぱり今までどおり顔を出してくれ。


時計は11時を指した。


そろそろ来る。

厄介な常連客、第2団が。


♫ティタンタンティタンタンティタンタンタン♫


「和男ちゃ〜ん!」


きた―――――!!!


ギュッと目をつむりうつむく。


男女4人組の地元の不良高校生だ。

ドカドカっ!

ビールと焼酎、ツマミとスナック菓子を無造作にカウンターに置く。

高校生に酒を売ってはいけない。

そんな事は、わかってるが、俺には断る勇気なんか無い。変な事を言って痛い目に合うくらいだったら、サッサとレジを済ませて帰ってもらった方が賢い選択だ。


「あと、いつもの。」


4人組のボスザル。金髪長身塩顔イケメンが、バカにしたように俺に顔を近づける。


「やめなよ〜あはははっ」


金髪長身塩顔イケメンの隣の女がバカにして笑う。


クソ―!

なんだよクソガキ!なんでそんな頭で学校行けるんだよ。どうかしてるぜ、令和の教育よ!


震える手でタバコを出そうとした、その時


「なに買ってんだ!!!クソガキども―!!!」


バックヤードのドアにヤ◯ザが立っていた。

いや、違う。うちの店長だ。


「ナマイキに何買ってんだよ、うちは未成年にタバコや酒は絶対に売らないのをモットーにやってんだよ。菓子だけ買って去っさと帰れ!!」


ヤ◯ザの、いや、店長の鋭い眼光が光る。


「やばっっ。」


不良高校生は慌てて逃げて行った。

ギロッ

今度は俺が睨まれる。


「和男ちゃん、困るよ〜。あんなガキ相手にビビってちゃダメだよ。ああいうのには、もっと強くビシッと言ってやんなきゃ。もし何かあれば拳を使ってもいいんだぜ。」


店長はグッと拳を握りしめる。

・・・できる訳ないだろ。

あんたはいいよ、あんたは、なんといってもボクシング元世界チャンピオン。

年はとってても180cmの長身で、あんな目で睨まれたら、どんな不良でも逃げて行くさ。

クソッ。

俺は店の外に置いてあるゴミの分別を始める。


「はぁ〜今日も多いな、ゴミ。」


この店、客は来ないのにゴミはかなり多い。

何故かというと、店長が社会奉仕と称して、お客さんじゃなくてもゴミを捨てていいとしている。おまけに、ご丁寧に『分別しなくてもOK♡』なんて貼り紙まで貼ってある。

明らかに自分がやらないテイでの社会奉仕だ。

クソッ!

バカ店長のヤロウ!

空を見上げた。

今日は満月だ。

綺麗だなぁ。


・・・・

さっ、サッサと終わらせるか。


「おい!和男!」


ん?


「テメェなんなんだよ!さっきはよ、偉そうな事言いやがって!」


!!!!

不良高校生が戻ってきた!!!

ヒィ―――!!!


「テメェ生意気なんだよ!」


ボスッ!


「うっ!」


金髪長身塩顔イケメンのパンチが腹にはいった。

痛みのあまり声が出ない。


「なんだよ、未成年に酒売らねえって偉そうに!お前なんかが言うセリフかよ!」


違うっ、間違ってる。

それを言ったのは俺じゃない、目の前で言われたのに、わかってねぇのか、このバカは。


バシッ!

ボスッ!

ドンッ!


ひと通りやられる。


「二度と生意気な口きくなよ。」


不良高校生が去ろうとする。


「ちょっと待て!」


パリンッ!


俺は腹の痛みをこらえながら、ゆっくり立ち上がり、右手に持ったビール瓶を割る。


「うお―――――――――!!!!!」


俺は金髪長身塩顔イケメンに襲いかかった!!


・・・なんて、できる訳ない。

俺にできる事は、体操座りで・・・泣く事だけだった。


「痛い・・・」


仕事が終わり帰り道。

時間は午前3時。

殴られた、あちこちが痛い。

ちくしょう。

なんて惨めな人生なんだ。

54にもなって、高校生に生意気扱いされるなんて・・・。

しかも、アイツ、超イケメンだ。俺に無いすべてを持ってるって顔してやがる。


「ちくしょ―――!!なんて世の中は不公平なんだ――――!!うお――――!!」


俺は近くに落ちてた小石を思いっっきり蹴った。

小石は勢いよく飛んで行き、たまたま通りかかった車のタイヤに当たり、跳ね返り、銃弾のような勢いで、俺の頭に命中した。


バタン


頭から血が流れるのがわかる。

死ぬのか、俺。

自分で蹴った小石に当たって。

なんて可哀想な俺。

明日のワイドショーはメインで取り上げてくれるだろうか、それとも地方の番組と番組の間にやる数分のニュースで、サラッとやって終わるのか。

どうせなら・・・ワイドショーが・・・よかっ・・・た・・・


◇◇◇◇◇◇◇◇


目が覚めると病院のベットにいた。

傍らには母ちゃんが。

母ちゃんは、目覚めた俺に気づくと急いで先生を呼んだ。

母ちゃんの話によると、俺は自分の蹴った小石が頭に命中し、倒れ、たまたま通りかかった通行人が救急車を呼び、緊急手術を受け、とりあえず銃弾(正しくは小石)を取り出し、手術は成功したが、1週間ほど昏睡状態だったらしい。

幸い、俺は2週間ほどの入院で、とくに異常無しと診断され、退院した。

それから、1週間ほど自宅で休養し、また仕事に復帰した。

俺の復帰を店長は泣いて喜んだ。

人手不足で毎日店長が出勤してたらしく、廃業しようか考えていたらしい。


「和男〜会いたかった◯✕△〜」


酔っぱらいジジイも復帰を喜んでくれた。

こんな俺にも居場所がある。

俺はささやかな喜びを感じながら外を見た。

あの日と同じ満月だった。


11時。


きた!!!

「和男いる〜?」


俺はカウンターの下に隠れる。


「いたいた。久しぶりじゃねぇか、お前、今まで何サボってたんだよ。」


金髪長身塩顔イケメンがカウンターの上から覗き込む。


終った・・・


俺はホラー映画の殺人鬼に捕まったモブキャラの気持ちになり、諦めて捕まる事にした。


「あれ・・・すみません。」


大人しく殺られよう、大人しくしてれば早く済むかもしれない。


「違うじゃん、和男ちゃんじゃないじゃん。」

「すみません、間違えました。」


不良高校生達は何も買わず出て行った。


???


俺は彼らを目で追う。

驚いた顔の金髪長身塩顔イケメンと目があった。

そして、その次に目が合ったのが、ドアに映る高校生くらいのロングヘアの美少女。

あれ?いつの間に他の客が?

振り返ると・・・誰もいない。

だが、確かにドアには美少女が映ってる。

あれ?

俺は?俺はどこにいる?

え?!

俺は自分の身体を見る!!

なんだこれは!?

俺、美少女になってる!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る