黒き聖龍を求めて

岸亜里沙

黒き聖龍を求めて

「親父さん、久方ぶりっすね。体調でも崩してんのかと思ったっすよ」


俺はラーメンを待つ間、屋台の店主に話しかける。


「いやぁ、体は元気なんだけどよ、スープの材料が手に入らなくてなぁ」


店主は手際よく、俺の注文したチャーシュー麺を作りながら話す。


「スープの材料って何です?いつも気になってたんすけど、めっちゃ濃厚じゃないっすか」


俺はチャーシュー麺と一緒に頼んだ生ビールを飲みながら店主に聞いた。


「まぁ、企業秘密ってやつだね」


店主は悪戯っぽく笑う。


「ネットとか見ても、親父さんの作るラーメンのレビュー、星5に近いっすよ。今他にお客いないし、俺だけにこっそり教えてくださいよ」


俺が言うと、店主は笑いながら予想外の事を聞いてきた。


「お客さん、仕事は何やってるんだい?」


予想外の質問に俺は唖然としたが、正直に答える。


「いやぁ、お恥ずかしながら、フリーターっす。ぶっちゃけ独り身だし、意外とフリーターそっちのが楽だったりするんすよ」


そう言って俺は頭を掻く。

店主はちょうど、湯で上がった麺を湯切りして、スープの中に入れるところだ。


「そうかフリーターか。別にいいんじゃねぇかな。人生楽しんだもん勝ちだ」


チャーシューにメンマ、味玉にネギ。

シンプルな具材だがどれも美味で、どのトッピングにも手を抜いていないのがわかる。


「はいよ。おまたせ」


カウンター席に置かれたチャーシュー麺。

俺はスープを一口啜り、息を一つ吐く。


「やっぱ美味いっすわ。親父さんのラーメンが世界一っす」


俺が言うと店主はけらけらと笑った。

そしてまた予想外の事を俺に訊ねる。


「なあ、お客さん、黒聖龍ドラゴン討伐って興味あるかい?」


俺はまた唖然としながら、店主に質問する。


「えっ?なんかのオンラインゲームとかっすか?」


「いや、本物の黒聖龍ドラゴンだよ。オレは現実世界と異世界を行き来出来る能力を持ってるんだ。だから異世界むこう黒聖龍ドラゴンを討伐してから現実世界こっちに戻って、黒聖龍それを仕込みの材料にしてるんだよ。お客さん、大柄で体格もいいし、討伐のハンター向きだね」


俺は口を開けたまま、チャーシュー麺を食べるのも忘れ、店主の話に聞き入ってしまった。

あまりに非現実的な話だが、ここの屋台のラーメンを食べてしまうとあり得る話かと思ってしまう。

このスープが黒聖龍ドラゴンの出汁だと言われても納得だ。それぐらいここのラーメンは、他のラーメンと一線を画すものがある。


「お客さんがもし異世界むこう黒聖龍ドラゴン討伐を手伝ってくれるなら、オレももっとラーメン作れるからよ。もちろん金も払うし、バイトとしてやってみねえか?」


俺はまだ半信半疑だが、店主の目を見ると嘘を言っていないのが分かる。

このラーメンが毎日食えるなら、やってやろうと思う。


「もちろんいいっすよ。今のバイト先もそろそろ辞めようかと思ってたんで。それに、親父さんの頼みなら断れないっすよ」


そう言うと店主は、調理場から俺の方に手を差し出す。


「よし決まりだ。これからよろしく頼むよ。さあ冷めない内に、ラーメンも食べてくれ」


俺は店主と固く握手をし、言った。


「こちらこそお願いします。ちなみに、時給っていくらっすか?」

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黒き聖龍を求めて 岸亜里沙 @kishiarisa

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