「あなたも異世界転生者なんでしょ?」って知らぬ間に転生者、前世の記憶持ち、異世界帰りの美少女達に囲まれてたっぽい〜異世界転生できなかったので現実世界で『影のあるクールキャラ』を目指してただけなんだが〜
浜辺ばとる🦀
第1話 目覚めたらそこは現実でした
最も身近にあって、最も縁遠いもの。
僕にとって異世界転生がそれだった。
漫画、ラノベ、アニメでは異世界ものが溢れてて、幼い頃の僕は気がつけばそれにのめり込んでいた。
多くの人には文字通り別世界の話で、ただ消費するだけのコンテンツに過ぎないかも知れない。
でも僕は本気で自分ごととして捉えていた。
少女漫画を読み、高校生に憧れて華々しい生活を夢見る女子たちと同じく。
自分が異世界転生をしたらどうなるんだろうと、異世界転生が身に起きることを信じ、その先のことばかりを考えていた。
異世界転生といってもバリエーション豊かだ。
ありとあらゆるパターンに対応できるように多種多様な作品を履修した。
次に、異世界で役立ちそうな技術や知識を学び集めた。
どうしてか分からないけど、現代より発展した異世界はほぼない。
おかげで現代知識で異世界に革新を起こせるのだ。
さらには、体を鍛え上げた。
転生したら肉体はなくなるけど、転移の場合もあるから抜かりないようにする。
それに、得た経験は無駄ではない。
初めから鍛えることになっても、次はより効率的に成長ができる。
まあ、人間に転生できるとも限らないけど。
僕は異世界転生した後のためにほとんどの時間を費やした。
周囲からの視線や嘲笑は無視した。
どうせこの世界から僕はいなくなる。
人目を気にするだけ無駄だ。
ーーーーある日突然、異世界に転生する。
なんてことは起きなかった。
現実は厳しい。
なぜだと、考えて僕は気づいた。
数多くの主人公たちにあって、僕にないもの。
それはきっかけだ。
きっかけがないなら作ればいい。
作品に触れることや知識の研鑽、肉体の鍛錬に加えて、異世界転生をするために行動した。
幸いなことに方法はいくらでも転がっていた。
オンラインゲームにサービス終了までログインした。
超難易度のゲームを徹夜でクリアした。
図書館で不思議な本を探した。
銀座に門がないか見に行った
どれもこれも空振りだった。おかしい。
しかし、まだ僕は定番の方法を取っていなかった。
その方法とは、トラックに跳ねられることに他ならない。
そして、これは予期せぬ事態で本当にたまたまなんだけど。
中学二年生の時、僕は女の子を助けてトラックに跳ねられたのだ。
人を救った達成感と、もしかしたらという淡い期待の後に、激しい痛みが体を襲い、意識が黒く塗りつぶされる。
瞼を開けようとすると、視界に光が差し込んだ。
眩しくて声が漏れる。
「うぅ」
「目覚めましたか?」
白い布に身を包んだ、美しい女性に優しく尋ねられる。
「……ここは?」
まさか。
「病院です」
うん、病院だった。
眩しい光はただの蛍光灯だし、看護師さんが白いユニフォームを着ているのは当たり前だ。
目覚めた僕は主治医に説明を受けた。
事故にあったこと、一度は心停止して死んだと思われたが奇跡的に一命を取り留めたこと。
それを他人ごとのように聞き流しながら、頭を占めることはただひとつ。
「異世界転生、できなかったのか……」
僕の言葉は意識が混乱しているのだろうと、医師にはスルーされた。
退院までベッドの上で何もせず過ごした。
事故は、僕を現実と向き合わせるには十分な時間を与えた。
日本での行方不明者は年間で約八万人。
この中に異世界転生している人がいるんじゃないかと考えていた。
どうやらそれは見当違いだったらしい。
退院間際。
異世界転生できなかった僕は冷静になった思考で、あることを思いつく――――、
そうだ、高校デビューして『影のあるクールキャラ』を目指そう。
◇
自身について多くを語らず、存在は謎めいてて、時折りなにかを思い出して遠くを見つめる。
たまに意味深なことを言ったり、ときには物語の重要なピースを握っていたりする。
そして、なによりかっこいい。
それが『影のあるクールキャラ』だ。
これまで触れてきた作品の中にも数多く登場してて、主人公よりも人気なキャラも多かった。
現実に生きることを決めた僕は、その中でも実現可能な理想を追い求めることにした。
異世界転生に費やしていた時間を『影のあるクールキャラ』になるために切り替えた。
まずは高校選び。
地元の人が行かない場所、なおかつ頭が良く風紀が自由な学校を選んだ。
人目を気にしてなかったせいで僕は地元では悪目立ちし過ぎている。
これではミステリアスに振る舞うことは叶わない。
それに頭の悪い『影のあるクールキャラ』では格好がつかない。
異世界に役立つ勉強ではなく、試験のための勉強を初めてすることになった。
次に最重要ポイント、ファッション。
かっこよくないと話にならない。
服に関しては、異世界で服飾革命を起こす可能性も視野に入れていたので完璧だ。
なので高校デビューに向けて入学前に髪を銀髪に染めた。
『影のあるクールキャラ』はやっぱり幻想的な銀だろう。
染めるのはセルフじゃなくてもちろん美容院。
仕上がりの綺麗さが全然違う。
高いけど目標のための必要経費だと割り切った。
いや、なんであんな高いの。
銀髪に黒目じゃパッとしないので赤のカラコンも入れている。
「喋らなくて動かなかったらかっこいいのに」と幼馴染に一度だけ言われたことがあるので、僕の見た目はそこそこイケてるらしい。
僕の異世界転生に対する思いを初めこそ理解してくれた幼馴染だったが、僕が熱心になり過ぎたせいで徐々に離れて、最後には疎遠になった。
そんな話はさておき。
僕は晴れて高校に合格し、入念に準備をして、高校デビューに臨んだ。
◇
結果は上々だった。
このまま行けば『影のあるクールキャラ』の地位は確立されたも同然だろう。
しかし、僕を脅かす存在が現れた。
その人物は
彼女は銀髪に翠眼で、恐ろしく整った容姿は一種の神々しさすらある。
どこの美容室に行ってるんだ、教えて欲しい。
入学式の日に彼女の頭に桜の花びらが乗っているのを見た誰かが、「エルフが花冠をつけてるみたい」と呟いた。
それ以降、彼女は『
羨ましい。
ある日、僕は彼女に【放課後、屋上に来て欲しい】と、手紙で呼び出された。
授業が終わると僕は誰にも見られないように一足先に屋上に向かい、夕焼けを意味もなく見上げながら彼女を待った。
少ししてガチャとドアの開く音がする。来た。
「どうしたんだい、こんなところに呼び出して」
僕は空を眺めたまま、余裕たっぷりな声で迎えた。
おお、いい感じだ。
「なんで呼ばれたか分かってるんでしょう?」
鈴を転がしたような澄んだ声が背中に届く。
振りかえると森姫さんがそこにいた。
別の人じゃなくて良かった。
「さて、なんのことやら」
分かってますよとばかりに肩をすくめる。
でも、本当になんのことだ?
沈黙の後、彼女が告げる。
「あなたも異世界転生者なんでしょ?」
真剣な表情、声には一切の震えがない。
これで僕は確信した。
彼女は本物だ。
本物の、中二病だ……!
―――――――――――――――――――
【あとがき】
お読みいただきありがとうございます!
「楽しかった!」
「続きが気になる!」
と少しでも思ってくださった方は作品をフォローや、下にある+⭐︎⭐︎⭐︎から作品を称える、レビューでの応援をいただけると非常に嬉しいです。
よろしくお願いします!
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