寝台列車
かい
寝台列車
「俺の番号は……」
列車の通路を進み自分自身の座席を探す。
通路は思っていたよりも広々としており、清潔感のある通路を歩いているだけで何か特別な気分にさせてくれる。
「あった~」
一人旅ということもあってか、ついつい独り言をつぶやいてしまうが、気分が高揚しているためだろうと自分自身を納得させる。
個室でベット付きの部屋。
「これが寝台列車か~」
自分が考えていたよりもまともな個室に満足し、荷物を置きながらベットに横になった。
「ふあ~。 なんか眠くなってきたな……」
ベットに横になったせいなのか、疲れがたまっていたのか急激な眠気が襲ってきた。
その眠気にあらがう必要も感じず、そのまま眠りの中へと落ちていった。
「……て……ださい」
体をゆすられている感覚と、何やら呼ばれているような気がする。
「香月君起きてください」
「えっ!?」
自分の名前を呼ばれ慌てて飛び起きた。
見慣れない景色の中で目覚めるが、目の名前に一人の男性……少年が自分を見つめていた。
「おはようってのも変ですけど、起きてくれてよかったです」
少年は俺を見つめながらどこか安心したような様子だった。
「本田君?」
「うん、そうだよ」
小動物を思わせるような瞳で見つめられ少し照れ臭くなってしまうが、どうやら彼は本田君で間違いないようだった。
「なんでここにいるの?」
寝起きのせいなのか思考がうまくまとまらないが、ともかく彼がここにいるのはおかしいことだけは理解できた。
「正直僕にもよくはわからないんだけど、ところで香月君って何歳? ちなみに僕は今年で20歳になるんだけど」
「えっ!? 20歳? とてもそうには見えないよ」
本田君の年齢に驚きつつあらためて彼を見てみるが、とてもじゃないが20歳には見えないくらいに幼く見えた。
「まあそうなるよね。僕も正直驚いているし、香月君自身はどうかな? 実年齢よりも今の自分の体若くなってたりするんじゃないかな?」
そう言われて自分自身の体を確認してみると、明らかに肉体が若返っているようだった。
「どうなっているんだ……」
何が何やらわからなく、理解できない状況に思考を放棄し始めていた。
「多分なんですけど、これって夢だと思うんですよ。大分おかしな状況ですけど、現実ではありえないってことは夢かなって思うんです」
本田君が冷静に語ってはいるが、夢だとしてこんなに会話できるものなのだろうか?
「色々と整理したいんですけど、香月君って電車に乗ってましたか? 僕は確か寝台列車の個室で寝たはずなんですけど、この二人分の寝床がある個室で目が覚めたんですけど」
「あ、ああ。自分も寝台列車の個室ですごく眠くなって寝たはずなんだけど……」
言われて初めて今いる場所が、自分が寝たと思った個室とは違う部屋?空間にいることに気がついた。
「寝台列車の個室で二人とも寝たみたいですね。他に何か共通しそうなこと……」
ガタガタ!ガタガタ!
突然扉が大きな音をたてはじめた。
誰かが扉を開けようとしているようだが、幸い鍵がかけられているようで開かないと思うが、扉が揺れるほどに強く開けようとしている様子は恐怖を感じてしまう。
「ほん……」
恐怖から本田君に話しかけようとするが、口元を彼に塞がれる。
本田君は空いている右手の人差し指を、自分の口元にあてがって真剣な表情でこちらを見ていた。
音を立てないようにってことだろうと察し、首をぶんぶんと縦に振る。
ガタガタとしつこく開けようとしていたようだったが、ようやく音が止んでくれた。
音が止んでホッとしている自分とは違い、本田君は扉に近づき、カーテンを少しめくり外の様子をうかがっているようだった。
「香月君どう思います?」
「え? どうってなにが?」
「このままこの部屋にいるべきか、別の車両に移るかどうかですかね」
「この部屋に居たらいいんじゃないのかな? わざわざ移動する理由なんてないでしょ?」
「そうだといいんですけど、さっきのあれどうにも嫌な予感がするんですよね。」
そう言うと本田君は、扉の鍵を解除し扉を開けてしまった。
「ちょ!?」
慌てて扉を閉めようと扉に近づくと、手首を本田君につかまれる。
「香月君あれを」
本田君の声に、彼の視線の先を覗いてみる。
何か大きなものが、隣の個室に入って行くのが見えた。
「何今の!?」
「それも気になるんですけど、この通路狭すぎません?」
そう言われて扉の外の、通路をちゃんと見ると明らかに狭い通路が広がっていた。
人一人がやっと通れそうな狭い通路は照明も見当たらず、暗く不気味だ。
本田君は個室を出て狭い通路を進んでいく。
隣の個室を見に行こうとしているようだった。
一人で個室にいるのが恐ろしくなり本田君の後を、おっかなびっくりついていくことにした。
先に隣の個室に辿り着いたであろう本田君は、個室の中を覗き込んで硬直している。
通路は体を、横にすることでやっと進める狭さのため、小柄な本田君はスムーズに進んでいたが、自分は少々てこずってしまう。
やっとの思いで本田君のもとまでたどり着くと、本田君はしゃがむことで俺が覗き込めるようにしてくれた。
中を見ろとのことだろう。
なぜか急に心臓の鼓動が聞こえそうなくらいに早打ち出した。
個室の中は……。
大きな何かがうずくまり何かをしているようだった。
個室の中にも光源などはなく、暗いながらも何故だか次第にはっきりと見えてしまう。
個室中に広がる液体と、床に散らばる人間だったものの残骸、そしてそれを食している謎の存在。
「ーーーっ!?」
中に何があるか理解した瞬間に叫びそうになったが、すんでのところで叫ぶのをこらえた自分を褒めてあげたい。
個室の中に衝撃を受けて固まっていると、おなかのあたりを本田君に肘で小突かれてしまった。
視線を下げて本田君を見ると、自分たちのいた個室の方を指さしていた。
戻ろうということであろう。
俺は頷くと、来た時よりも速い速度で個室に戻った。
本田君が個室に戻るとすぐに扉を閉めて鍵をかけた。
「とりあえず、あれに見つかるとやばそうだってのは確認するまでもないですよね?」
「間違いなくやばいだろうけど、だからってどうすればいいんだ? ここにこもってればこの悪夢は終わるのか?」
極度の混乱から本田君に対する言葉が強くなりそうなのを、ぎりぎりで抑えながらも、ついつい彼を責めてしまいそうになってしまった。
「少なくとも普通の夢ではないことは確かなので、待っていれば何とかなるって考えるのは希望的すぎると思います」
取り乱しそうな俺とは違い、冷静に考えを話す本田君を見て、華奢な見た目をしている彼がとても頼もしく見えた。
「賭けって言うと大げさですが、別の車両に行ってみましょう。 少なくとも、何かしらの情報は得ることができるとは思いますし」
「俺は正直この個室から出たくない……」
我ながら情けないが、少なくともこの個室に居ればあいつは入ってこれなかったのだから、わざわざ危険を冒したくなかった。
「…………」
本田君も考え込んでしまったため、気まずい沈黙が生まれてしまった。
「分かりました。 それならこうしませんか? とりあえず僕一人で行ってみます。 それで戻れそうなら戻ってきますので、場合によっては一緒に行くってのは?」
「俺はそれで構わないけど……それだと本田君だけが危険じゃないか?」
「僕が言いだしたことですし、一人のほうがいざって時動きやすいですし……と、さっさと動いた方がいいな」
そう言うが早いか、本田君は扉の窓から外を覗うと出て行こうとしていた。
「ちょ!? ちょっと待った」
とっさに彼の腕をつかみ制止した。
「本田君が出たらカギ閉めるからさ、もし戻ってきたらわかるようにノックしてほしい」
「あ~なるほど。 あまり大きな音出すの危なそうですからね。 呼びかけて開けてもらおうと思ってました」
「それじゃあさ、コンコンココン、って感じにノックしてくれないかな? 気がつかなかった時のためにこれを続ける感じで」
「オッケーです。 それではあらためて行ってきます」
本田君は、人受けの良さそうな笑顔を浮かべて出て行ってしまった。
俺はすぐさま扉を閉めて鍵をかけた。
我ながら情けないと思ったが、恐怖心には勝てない。
罪悪感を覚えながらも、扉の窓に付いているカーテンをしっかりと下ろし、外が見えないようにした。
個室内をあらためて見まわしてみるが、二段ベットがあるくらいで、他には気になるものは無い。
ぼーっと立っているのもあれなので、ベットに腰掛ける。
本田君は大丈夫だろうか?
大きな音もしないので何もないと思うが、一人だけで行かせた罪悪感からなのか気になって仕方がない。
こんなことならいっそのこと一緒に行ってればよかったか?
なんて今更なことを考えたあたりで頭を振り、ベットにあった枕で頭を覆いベットに倒れ込んだ。
「痛っ!?」
倒れ込むと額に鋭い痛みが走った。
とっさに起き上がり、ベットの自分の頭があったあたりを見やる。
そこには白いシーツの上にぽつりと異物があった。
恐る恐る触れてみると硬く、金属のようだ。
ガチャガチャ!? ガチャガチャ!?
急に扉が大きな音を立てて何者かが開けようとしていた。
「香月君開けてください!! あいつが追いかけてきてるんです!!」
本田君の声が扉の向こうから聞こえるが、開けるかどうか考えてしまう。
「早く開けてください!! 早くしないと追いつかれる!!」
本田君とは合図を決めたのだから、開ける必要はないと思う自分と、そんなことをやっている状況じゃないほど、切羽詰まっているのだから開けるべきなのではと、頭に二つの考えがよぎった。
その間も扉をガチャガチャと開けようとしている音は止まない。
俺は……。
鍵を……開けた。
鍵を開けるや否や、扉が勢いよく開き本田君が飛び込んできた。
あまりの勢いにぶつかってしまい彼に突き飛ばされるような形になってしまった。
本田君は入るとすぐに扉を閉めて鍵をかけていた。
それからしてすぐに、また扉を開けようとする音が始まった。
「間一髪ってところでしたかね……開けてくれてよかったです……このまま開けてくれないんじゃないかって思いました……」
本田君が息を切らしながら、心底安堵した様子でこちらを見ていた。
「あ、合図をしてくれなかったから開けようか迷ったんだよ」
すぐに開けなかったことを謝るでもなく、言い訳をしてしまうあたり我ながら情けない。
「あ~。 そういえば決めてましたね。 焦っていて忘れてました」
本田君はそういえばと頭を掻きながら、笑っていた。
その間も、ガタガタと扉を開けようとする音は続いている。
それどころか扉の揺れが大きくなっているように感じ、恐ろしくなり扉を押さえる。
「これさ……扉壊れたりしないよね?」
「ん~絶対とは言い切れませんよ? あの化け物の大きさだと、正直突き破ってきてもおかしくないとは思いますけどね」
扉を必死で抑える俺の隣で、ニコッっと笑顔で恐ろしいことを言われた。
早く諦めてくれという願いが届いたわけではないだろうけれど、扉に加わる圧が止んだ。
安堵から力なくその場にへたり込んでしまう。
「それで……外はどうだったの?」
「あ~……それがですね、多分隣の車両に移れると思われる扉はあったんですけど、鍵がかかっていて開かなかったんですよね。 それでどうしようかと思ってとりあえず戻ろうとしてたら、あいつに見つかっちゃって、死ぬかと思いましたね~」
「笑い事じゃないでしょ……」
カラカラと笑う本田君は間違いなく大物だろうと思った。
……それか頭のねじが緩んだ大馬鹿か。
「鍵?」
ふと、頭の軽い痛みを思い出してベットに移動する。
「どうしたんですか?」
本田君も自分に続いてベットに近づく。
さっきの金属を手に取って見やすい場所に移動する。
「鍵」
「鍵ですね」
二人で間抜けなやり取りをする。
「香月君お手柄ですよ! ナイスです!!」
本田君は鍵を持った俺の手を握ると、ぶんぶんと振った。
「い、いやこの部屋にあった鍵だから、関係ないと思うよ」
普通に考えてこの個室に関連したものだろうと思うから、彼がこんなに喜ぶのに面食らってしまう。
「あまいですね香月君」
急に何やら得意げになった本田君を少しかわいく思ってしまった。
「今僕たちは現実ではなく夢の中にいるんですよ」
「まぁ~おそらくだけどそうなんだろうね」
「となるとですね、普通ならこの部屋に鍵があったとして、僕か香月君の持ち物か、もしくはこの部屋に関連したものだと思います」
名探偵本田君の推理をうなづきながら続きを待つ。
「しかしここは夢の世界で、僕が鍵のかかった扉を見つけて、そのあとに鍵が見つかる……これはつまりそういうことでしょう!!」
「……う、ううん??」
本田君の圧に頷きそうになったけどどうにも納得しきれなかった。
「そうと決まれば行きましょうか」
「何がどう決まったのかわからないんですけど!?」
本田君に引っ張られるように扉に近づいた。
「その鍵を使いに行くんですよ?」
「え……さっきあんな目にあったのにまた行くの?」
「なら、ここに留まって扉が壊されるのを待ちますか? 香月君がそうするなら止めませんけど、僕は嫌ですよ?」
彼の言うことは確かにそのとうりで、正直扉がこのまま無事だとは思えない。
「うん……俺も行くよ……」
「はい! 一緒に行きましょう」
正直さっき一人で行かせたことに罪悪感を覚えていたので、また一人で残るよりも、いっそのことやられてしまうなら一緒に、なんて考えているとは本田君は思ってもいないんだろうな。
本田君が先導する形で狭い通路に出る。
「あいつ見た目が大きいでしょ? この通路通るとき体をなんかぐちゃぐちゃにしてたんですよね。 まあ、そのおかげで追いかけて来るのに時間がかかるみたいで助かったんですけどね」
笑えないようなことを笑いながら話す本田君に対して、彼は間違いなく少し、いやかなり頭のねじが何本か抜けていると確信した。
「さっきは向こうに行ったんですけど……」
本田君は、行く予定の方とは逆の方の壁を撫でる。
「うわ~ほら壁になんかよくわからない汁がついてる。 こっちの壁は渇いてる」
「つまり、汁がついてるほうにあいつがいるってことかな?」
「香月君察しがいいですね、僕もそう思うんですよ。 なので今回は安全に行けそうってことですけど、戻って来るのは難しそうって感じですかね」
「…………」
「どうします?」
「……行こう」
「はい!」
本田君は輝いていると錯覚するほどの笑顔を見せると先へ進み始めた。
列車の通路だと甘く考えていた自分を少し呪った。
ここが夢の世界だと忘れていたわけではないのだが、考えていたより通路が長い。
目の前に本田君がいるから、長いなと思うくらいで済んでいるが、一人でこの通路を進むのは正直頭がおかしくなりそうだ。
「ここです」
本田君が少しひらけた空間で止まった。
確かに他の扉とは違う扉があった。
ここに来るまで直角に曲がったりと前後不覚になる通路を通ってきたため、実際どうなのかあやしいものだとは思ってしまう。
「香月君鍵を」
「ああぁ……はい」
俺は握りしめて少し暖かくなった鍵を本田君に差し出した。
「これは、香月君が見つけたものですから香月君が使ってください」
そう言うと、本田君は扉の正面を譲るようにずれた。
「べつにどっちでもいいけど……」
なんだかこの状況にさすがに慣れてきたのか、それとも本田君に慣れてきたのか、俺は鍵穴に鍵を差し込んでみた。
「開いた」
何ともあっけなく鍵は開いてしまった。
「それじゃあ、さんにーいちで、開けますよ?」
「分かった」
「さん……」
思わず唾を呑み込んでしまう。
「にー……」
ドアノブに重ねられた本田君の手も心なしか震えているように感じる。
「いち……」
覚悟を決めて息を止める。
音もなく扉は開いた。
扉の向こうは暗くて何も見えない。
いや、闇があるだけで何も無いのではないかと思った。
突然、扉の中に吸い込むように強風が吹きこむ。
「あ……」
突然の強風に堪えれたのは俺だけで、華奢な本田君は扉の向こう側に吸い込まれていく。
とっさに手を伸ばし本田君の服を掴むが、それが災いし、自分自身踏ん張りがきかなくなる。
「くそっ」
そのまま抵抗もできずに二人闇の中に落ちていった。。。
「ーーーーーー!?」
びくっと体が大きく跳ねると同時に目が覚めた。
周囲を見るとそこは小綺麗で明るい寝台列車の一人用の個室だった。
俺はポケットから煙草をとり出し吸おうとして、電車の中だと思い出し吸うのをやめた。
先ほどの夢を引きづっているのか、思考にもやがかかったような感覚がする。
煙草を吸うために個室から出て、車両を移動する。
喫煙ルームを求めて移動していたが、いくつかの車両を移動していると、車両の外に出た。
走行中で風が強いが、まあ煙草が吸えれば何でもいい。
俺は、金属の柵に手を掛けながら煙草の煙を肺いっぱいに吸い込んだ。
「すいません」
「ゲホッゴホッゴホ」
突然背後から声を掛けられ思わず咳き込んでしまった。
「ああ、すいません驚かすつもりはなかったんですけど」
「い、いや別に大丈夫」
呼吸を落ち着けながら背後から声をかけてきた人物を確認する。
そこには綺麗な女性……じゃないな綺麗な男性がいた。
「香月く、香月さんですよね?」
そう問われたことで彼が誰かわかった。
「本田君?」
「そうです! あ~やっぱりそうだと思ったんですよ! なんかふらふらと通路を歩いてる後ろ姿を見て、もしかしたらって!!」
本田君は何やらうれしそうに両手で俺の左手を握りながらぶんぶんと振った。
「しかし、変な経験をしちゃいましたね~香月く、あ~癖ついちゃったので香月君でいいですか?」
「ああ、別にいいよ」
見た目から俺の方が年上だということを気にしてだろうが、呼ばれ方なんて別になんだっていいし、今更本田君からさん付けされる方が違和感がある。
「ではあらためて、香月君はこんな経験は初めてですか?」
「こんなって言うと、夢のことだよね? 初めてだよあんなわけわからないの」
あんな経験何回もあってたまるかっての。
「僕は何度か、変なことは経験してたりするんですよね~だから何って話ではあるんですけど」
「え!? まじで!? なんかご愁傷さまだね」
あんなことを何度か経験してるって俺なら発狂しそう。
「まあ、今回は香月君が一緒だったんで大分ましですよ。 と、この流れで聞くんですけど、香月君この列車になんで乗ったか覚えてます?」
「そりゃ~……あれ? なんで乗ったんだ?」
わざわざ寝台列車に乗っているというのに乗った理由がわからない。
「やっぱり香月君もそうでしたか……提案があるんですけど、駅についたら一緒に観光でもしません? 知り合えたのも何かの縁ですし」
「ああ、それは別にかまわないけど……」
知り合えた?
「あれ? 今知り合えたって……」
「僕たち初対面ですよ? 正確には夢の中で会ってますけど」
「なんで名前……」
「深く考えないほうがいいですよ頭おかしくなっちゃうので。 何か知ってた~くらいで流してないとついていけなくなっちゃいますよ」
本田君の言ってる意味がわからず、彼の言う通り頭がおかしくなりそうだ。
「そもそも、なぜこの列車に乗ったのか、あの夢は何なのか、なぜお互いに名前を知っていたのか、そして今こうして話している場所は現実なのだろうかか……」
「は?」
言われて初めて疑問に思ってしまったが、ここは列車の最後尾だろうけれど、外に出れるなんてことありえない。
思わず咥えていた煙草を落としてしまう。
「香月君危ないですよ」
本田君が拾ってくれた煙草を受け取る。
意味もなく煙草の先を見つめてしまう。
「難しく考えないことです。 幸い僕がいるので一人じゃないってだけで落ち着きません?」
「え……ま、まあそうかも?」
「そうですよ」
本田君はそれだけ言うと列車の中に戻ろうとする。
「ちょ!?」
慌てて本田君の手首を掴んで引き留めてしまう。
「大丈夫ですよ多分ですけど」
「まだ、俺何も言ってないけど何が大丈夫なんだよ」
「あくまで僕の憶測にはなりますけど、今回のやつはこういう趣向なんだと思いますから、僕と香月君はセットなんだと思いますよ」
「何か? 俺が一人になるのをビビってるって言いたいのか?」
「だからわざわざ僕を引き留めたんじゃないんですか? こんな状況ですし一人になるのが怖いのは当たり前だと思いますけど?」
引き留めた理由は正直なかった、とっさに手が動いたとしか言えなかったので、本田君の言ってるとうりなのかもしれない。
「だから次何かあったとしても僕たちは一緒ですよ。 それに、次何か起こるとしたら駅についてからな気がしますし……」
本田君は俺の指をひとつづつ解きながらやさしく微笑んだ。
「大丈夫です何とかなりますよ」
それだけ言うと、今度こそ本田君は列車の中に戻っていった。
俺は一人になり短くなってきた煙草を見つめ、煙草の先を自分の手の甲にあてがってみた。
「あちっ!」
確かに熱を感じはしたが、今が現実なのか夢なのか判断するには曖昧だと思った。
「なんとかなる……か……」
俺は吸いかけの煙草を、線路へと落とし列車の中へと戻った。
了
寝台列車 かい @kai2525
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