不穏な王都編 終




私たちはヴェルとティルに近づいてゆき2人を結界の中へ招いた。


ティルが今までのことをヴェルに伝えてくれたようだったので、私たちはこれからどうするかを決めなくちゃいけなくなった。


私たちは不気味なほど微動だにしないフードの集団から距離をとり、話し合うことにした。




「僕の結界は後数分しか持ちません」


「私も魔力回復の錠剤はもうないわ、あるのは傷を癒すものが2つだけ」


「話も通じないんだし、闘うしかない」




レイとリュカとヴェルが戦おうと言っているが、私は何も口を出せないでいた。


体が震えて止まらない、私の腕の中で寝ている子をぼうっと見つめながら1人考えに耽る。



今回の事件で狙われたのは私だ、巻き込まれた周りの人もいる。


でも、平和な世界に生きてきた私はそう簡単に戦うという選択肢を選ぶことができない。


皆は当たり前のように戦い、当たり前のように私を守ろうとしてくれている。


相手も過激派の集まりで、私がいなくなればいいと思って計画を立てて事件を起こしてる。



私はされた側だから守られる?相手はした側だから攻撃される?


話し合えなかったのだろうか?もっと何か違った結果になれたんじゃないのか?


皆がどうしたらいいかどうすればいいかと考えてくれている間、私は1人意味もない自問自答や『~だったら』『~してたら』と過ぎてしまったことを考え時間を無駄にしていた。



そんな時私はふと気がついた。


さっきまでいたミミちゃんの偽物がいなくなっていることに。


私がそれを皆に伝えようとした時、レイの結界が消え…その瞬間私と抱いている子以外が地面に倒れ込んだ。




「え…?」


「ささ…聖女様はこちらにきてくださいね…そしてここへ入ってもう出てこないでくださいね…」




気がつけば私たちのそばにはフードの人がいて、呆然と立ち尽くしている私見てそう言ったのだった。


さっき結界を張る時に魔法を打って来た人だ。


同じ場所に変わらずフードの集団は立っている…きっとこの人が居るからあの集団は静かにあそこにいるのだろう。


最初からこういう作戦だったの?だから私たちが結界の中に居ても焦らなかった?


違和感を感じた私の耳に皆の呻き声が聞こえ、その方へ意識が向く。



私だけが無傷で、レイ達は皆何が原因かのかわからないけど地面に転がってうめいてる。


リュカが私の方へと手を伸ばし、掠れた小さな声で『逃げて』といったが私の足は地面に縫い付けられたように動かない。




「…わかんない。意味わかんない!いきなりこの世界に連れてこられて!夫作れとか子供産めとか!なんか魔法が使えるようになったら旅に出されて!帰ってきたらこんなことになって!なんで?!私が何をしたの!?ねぇ、話し合いはできないの?傷つけ合う以外の方法はないの?!」




私が喚いても誰も返事をしてくれない。




「やだ、もうやだ!私は幸せでありたいだけなのに!私は幸せにしたいだけなのに!私も…私の周りの人も皆…幸せにならないといけないの!…私はこの世界を受け入れたのに!」




私がそう叫んだ瞬間、腕の中の子が微かに動いた。


腕に抱いている子を見るとその子はくりくりとした目を開いてわたしを見つめ、そして口をぱくぱくさせていた。


私が子を見た瞬間、体中から魔力がすごい勢いで抜けていく感覚がした。


立っていられなく、思わず膝をつく私の耳に入って来たのはフードの集団の騒めきだった。


意識が朦朧とする中、フードの集団は皆よろめきバタバタと倒れてゆく。


一体何が起きているのか考える暇もなく私の意識は遠のいたのだった。






「優里!優里!」



誰かにゆすられ目を開けると、そこには心配そうにわたしを見つめているティルの顔があった。


私はその顔を見た瞬間に目を見開き周りを見渡す。


皆何もなかったかの様にわたしを心配そうに見ていた。




「みんな…大丈夫なの?」




わたしのその問いかけにティルが『優里の魔法で俺たちの傷は癒えたんだ』といった。


そして、私が気絶した後の話を話してくれたのだ。



私が魔力を一気に放出した後、レイ達の体は『再生』されたようで何らかの影響を受けていた体はうまく動く様になったらしい。


そして、バタバタと倒れていったフードの人達も少ししたら起きて来たらしい。


けれど、フード集団は起き上がると皆そのフードを脱ぎ捨て喚きだし、それを呆気に見ていたレイ達の方へと近寄って来たそうだ。


皆は私を守るために前に出たのだけれど、その集団はおかしな事に目の前で地面に頭を擦り付け泣きながら謝罪して来たそうだ。


意味がわからないでポカンとしてるレイ達に向かって


『確かに聖女様に思う事はあったけれど、こんなことをしたいと思っていなかった』

『変な男に会ってから頭の中にずっとモヤがかかっていた』

『聖女様が魔法を使った事でモヤがなくなった』

『こんな恐ろしい事をしたいと思った事はない』

『私達は逃げも隠れもしません全部話します』


などと話して来たそう。


ティルが確認のためにその集団を触ったのだが、確かに皆操られて居た様子だったと言う。


その話を聞いてどうしようか悩んでいた時に、私が気が付いたと言うわけらしい。



私は力が入らない体をヴェルに抱き抱えてもらい、一先ず森を出る事にした。


フードの集団も念の為に手を縛り連れていく。


そして…ミミちゃんの偽物は見つからなかった。


皆はミミちゃんの偽物については『残り2人は個人的に動いていたから私達にはわからない』と申し訳なさそうに言った。


セリナさんと偽物の2人は何処に行ったのか…懸念はあるけども、一先ずは城へと帰還する事に。


そしてミミちゃんなんだけど…そのフード集団はミミちゃんを何かに使えるかもと思い、死なない程度に治療した後に監禁していた事がわかった。


私たちはミミちゃんを助ける為に集団がミミちゃんを隠していたと言う場所へと行き、無事ミミちゃんを救出した。


ミミちゃんは深い傷を負っていたのだが、一応治療をされたお陰で何とか生きている状態だった。


リュカの例の錠剤を飲んだら傷はだいぶ良くなり、ダメージはあるものの支えがあれば歩けるほどに回復。


私はミミちゃんに泣きながら謝り、ミミちゃんはそんな私にたいして眉を下げながら力無く笑ってくれた。



それから私達は城へと向かった。



森の中を歩いている時に、ティルが私たちに言った『城の中にいる人が別人になって居た』と言う言葉を思い出した。




「ねぇティル。城の中の人が別人にって言ってたけど大丈夫なの?」


「あぁ、それは王様にレイが言ってくれたから多分大丈夫だと思う」


「おじさまが何とかしてくれてるのかな…」


「大丈夫だよ、王様の魔法は『真実』だからね」


「真実?」


「そう。王様が魔法を使うと真実しか話せなくなるんだ」


「おじさまってすごいんだね…」


「王様が王になったのには意味があるからね。まぁ、魔力量が少ない事とその本人が思い込んでいる事に関しては見抜けない所が短所だけどね。そこは側近がフォローしてくれるからさっ」


「ティルよく知ってるね」


「うん、王様に触ったことあるからね」


「…あぁ、なるほど。それ言いふらさない様にね…」


「それよりも優里の方が大丈夫?」


「なんか、色々ありすぎて…ゆっくりしたい」


「ねぇ、優里。俺さ、今言う事じゃないと思うんだけどさ、…優里の事がすきだわ」


「えー?ありがとう、あたしもティルが好きだよ」


「いや、そうじゃなくって…結婚、してやってもいいっていってんのわかんないの?バカ?」


「ふぇ?!」


「これからよろしくな??」




私はティルのその眩しい笑顔や言葉に動揺したが、同時に喜びが溢れてつられて笑顔になった。


レイとヴェルも優しい顔して私たちを見てくれて、リュカも『良かったじゃない』とあの勝気な笑顔をみせてくれた。



凄く怖かったし、大変だったけど…こうして皆のお陰で私は助かった。


ミミちゃんもヴェルも見つかって、私を狙ってた人たちも改心?して…あ、一先ず休みたい…。


私は拉致監禁、産後動き回り、魔力を無理やり使いまくり、で色々と酷く消耗していた。


それを気力だけで頑張っていたので、安心したら気が抜けてしまい…強烈な眠気が来てしまった。


心地の良い揺れと少し暖かい我が子を腕に抱いて、私は気付けば寝てしまっていた。



眠りに落ちる瞬間、我が子がスヤスヤと寝ているのを見て『あの時この子目を開けて何か言ってた様な?』と考えたが、眠りのせいで考え続ける事はできなかった。





この時の私は、色々な事がありすぎていて深く考えれてなかった事があった。


何故皆目が無くなっていたのか、城の中の人が別人になっていたのか、操られた人がわたしを監禁したのか、森で見たセリナさんはなにがしたかったのか、消えたミミちゃんの偽物は何処へ行ったのか等…なにも問題は解決していなかった事に。


そしてこの問題は後々ある事件へと繋がるのだが…その事件はなんと私の子供達が解決してしまう。


そのお話は、また別のお話。




第三章 不穏な王都編 終わり


第四章 ハーレム編  数日後開始

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