残酷な出来事もあれば新しい出会いもある



私はそれから怒涛の日々を過ごしていた。



王様や神官長から『疫病や災害があった場合にそこにいってくれないか』というお願いに対して『暇だし人助けできるのならばまぁいっか』と楽観的に考えて返事をした事が、私の怒涛の日々の始まりだった。



私に前のめりになってまで人を助けたいという崇高な考えはないが、助けることができる命があるなら出来る範囲内で皆を助けようと思ったのだ。



そんなこんなで色々な町や村に何度か行き人を助けつつ二人の夫と仲良く過ごしている私は、減る事が無い無限にくる救助要請に少し疲れていた。



酷い時は5時間かけて馬車で村へと行き、力を使い、また違う村へと6時間かけてゆき、力を使い…と、睡眠は移動中の馬車の中で済ませる事が大半だった。



最初の私の意思と反し何故こんなに多忙を極めているのかというと…発生源不明の疫病がとある村で流行り、それが商人や冒険者伝で各地へと運ばれ、治療法もわからないままに、人がどんどん亡くなっていると報告を受けたからだった。



私は神殿長から『補佐をつけるのでどうかお願いします』と何度も頭を下げられ続けたことにより、長い長い旅へゆく事を夫達と共に決めたのだが、この時の私はまさかこれ程まで大変な事になるとは思ってもいなかったのだ。



睡眠もままならない、食事もままならない、お風呂にも入ることが難しいという三重苦に悩まされ続けながらも必死に各地へと赴き続ける私達こ心は少しずつ疲弊していった。




(…そんな思いをしながら必死こいて私が行っても、住民から感謝だけをされるわけじゃなかったけれどね。)




『なんでもっと早くに来てくれなかったんだ』


『聖女様ならこんなことが起こる前に対処しろよ』


『もっと早くに来てくれてたらあの人は…』




そういった無理難題を言われることもしばしばあった。



実際沢山の人が亡くなっているのだ、そういった事を言いたくなる気持ちもわかる…頭ではわかっているけれど、やっぱりなんだかとても…心が疲弊してゆく。



現状を深く考え『人を助けたい!』といった心持ちで始めた事だったならば違ったとは思うのだが、楽観的に始めた事だったので後悔すらしてしまっていた。




もうこんな事を続けたく無い気持ちでいっぱいだった私だったが、ある日の事。


私がいつものように困っている村へと到着すると、その村は今まで見た中で一番と言っていい程に酷いものだった。




私はその光景を見て息を呑んだ。




その村では疫病が流行り、小さな村だった為に住人全てに感染してしまった様で、どの家からもうめき声や嘔吐している音などが聞こえてきたのだ。


そして、元気な人が居ないからなのだろう、亡くなった人達が一纏めにされ頭から胸までを布で覆われて放置されていた。



あの掛けてある布は顔が見えないようにだろう。




埋葬したくても、皆病に苦しんでいるから一纏めに置いておくしかない現実に私は酷く動揺した。


神官達がその人達を埋葬するために行動をし始めたのを見てやっと、私はハッと気を取り戻した程だ。



気を取り直した私は、急いで近くの家から一つ一つ周り『再生』の力で病を消し、私の夫たちは汚れた衣服やシーツを洗ったりと上手く連携を取りながら対処していった。



私達と一緒に来ていた神官達も必死に出来る事をし、なんとかその日のうちにその村の人達を救うことができた。




「聖女様、本当にありがとうございます…本当に、本当に…」




そう言って泣く人達を見てきた私は、旅に出た初めの頃の自分を思い出し凄く恥ずかしく思った。



そして、誰になんと言われようが出来ることは頑張ろうとこの日を境に考えを変える事ができた。…遅いと思うだろうが、実感があるのとないのとでは雲泥の差だろう。




それから私は疫病に侵されている人たちのいる場所や、時には災害が起こった場所へと精力的に赴き人を助けていった。



夫二人からのサポートもあり、私は何とか頑張れていた状態だった。




きっとどんなに私が心で頑張ろうと思っていても、夫達がいなければ心が折れていた事だろう。








まぁ、そんな苦しくも忙しい毎日を過ごしている中、私は新しい夫候補をちゃっかり見つけていた。実にちゃっかりしている。




あれだ『英雄色を好む』と言うからね!…私は聖女だけど。




「おい!何で俺に構ってくんだよ!ばかかてめー!」



はい、私に会う度に悪態を吐きまくるこの白髪で赤目のショタが夫候補です。


サラサラとしたストレートの髪を顎のラインで切り揃え、クリクリとした赤い瞳はその性格が表れているのか少しつり目気味である。


実に可愛い。実に素晴らしい。至宝である。



「だってー、可愛いからさぁー」


「うるせえな!誰がチビだよ!可愛いとか頭おかしいんじゃねーのかよ!」


「誰もチビって言ってないけどなー?可愛いの言葉の意味を チビ だと思ってるの?」


「うるせえ!デカ女!デカパイ!デカパイ!」




ビックリする程お口の悪いこの男の子は驚く事に結婚適齢期の男性なのだ…だがしかし、完全にその身目も態度も全てがショタなのだ。


もう、誰が何と言おうと、口が悪すぎる美少年なのだ。




この男…ティルは私が助けにきた村の住人の一人だった。



私がティルに会ったのは二ヶ月前の事、いつもの様に長い時間をかけ馬車にて疫病に侵されている村へとやってきた時だ。


その村は人口がとても少なく、どこか閉鎖的な雰囲気を醸し出していて私達をあまり歓迎してない様子だった。


感謝はされているのだが…住人の目が、何と言えばいいのかわからないが…少し怖かったので、力を使ったらすぐに次の場所へと移動しようと思っていた。


患っていない人も居たのだが念の為、全ての村人に対して力を使った。



それが終わり、私がさっさと馬車に乗ろうとすると、少し先に湖があることを神官が伝えてきた。


その言葉で私は久しぶりに水浴びができると大喜びし、その湖へと脇目も振らずに走った。



村から少し離れた場所にある湖はとてもきれいで、私の心は狂喜乱舞していた。


周りが森に覆われているその場所で私が気分良く水浴びをしていると、どこからかうめき声が聞こえたので吃驚して駆け寄ると、そこには顔を苦しそうに歪ませ縮こまっている子供がいた。




そう、その時に森の中でうめき声を上げていたのが夫候補のティルだ。




疫病に侵されている様子のその子に私が急いで駆け寄り力を使うと、苦しそうだったその顔や身体から力が抜け、ゆっくりと閉じていた目を開けて私を見たのだ。



そう、そうなんです。その綺麗な赤い目に私は胸を撃ち抜かれてしまったのです。




初めは幼い子だと思っていたのだが、話を聞くと成人している事がわかり夫として連れて行こうと決心したのだ。


だが、ティルは私がどんなにアプローチをしても子供じみた暴言を吐いて首を縦に振ってくれない。


さてどうしようかと思っていたのだが…『このまま村にいたくないから』と言うティルは、私と一緒に旅についてくる事になった。


その言葉を聞いた私はティルを何としても旅の間に口説き落とそうと深く決意した。




ティルはこの村で母親と二人で住んでいたらしいのだが、その容姿で村人には嫌われていたらしく…疫病で母親が亡くなってからは一人寂しく自給自足で生きていたらしい。



私はその話を聞いてより一層ティルを夫にしたい守りたいと思ったのだ。



(ティルは栄養不足で体が小さいのかな。)



私と同じくらいの身長のティルは男の人にしては小柄だったし、体はとても細かった。


そんなティルが毒づく様はまるでハリネズミのようでやっぱり可愛いとしか思えなかった。






ただ、ティルを連れて行くことに難色を示した人がいたんだよね。


それは、初めて教会に行った時に案内してくれたあの女性。


あの女性は私と一緒に旅をしているのだけれど、あまり会話はしないし近くにも寄って来ない。


一応名前がリュカってことだけは教えてくれたけど…この半年の間ずっと一緒にいるのに全く接点がないのだ。



けれど、リュカが難色を示したところで私が聖女なので『夫にしたいと思っている』と言うと皆は同行を許してしまう。


私の自分勝手な発言のせいで嫌な気持ちにさせてしまったことに少し後悔をしてしまったが、可愛いものは可愛いし、夫にしたい気持ちは本当なのだ。



(もう既に手遅れな程リュカに嫌われてるのに、今回のことで更に嫌われたんだろうな)



私はそんな事を思い、深いため息をついたのだった。

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