疫病の旅編
楽観的なのも程々にな…
私は唖然とする皆を見つめながら『どうしたものか…』と、考えていた。
(あれって女神様の声だったのかなぁ?でも、女性って感じではなかったような?)
だんだん私の思考はズレてゆき…最後は声の主について考えていた。それ程の時間が経っていた…様な気がするが、そうでもないかもしれない。
すると、あの女性が私に話しかけてきた。とても綺麗なコバルトブルーの瞳が、私を真剣に見ていて…少し居心地が悪かった。
「あの、すみません…。女神様の選択を受け入れたのでしょうか?」
「女神様の選択?」
意味がよくわからない私が聞き返す。質問に質問で返すのは良くないのだが、この場合は仕方ないと思うので許してほしい。
「はい、女神様から何か特別な力を授かる場合には、その能力の選択を求められたと聞いています」
「あ、はい。再生・暴力・愛の選択肢がありました」
よくわからないままに聞こえたことを話す私。その選択肢を聞いた時にその女性の喉がなった。
(ん?なんか喉仏?ある?え?気のせい?)
私は神妙な表情の女性も気になったが、その喉にある喉仏が気になってしまい一瞬だけ挙動不審になってしまった。けれど女性はそれに気づかずに続きを話し始める。
「そ、その。愛…なのでしょうか?」
「え?いえ…再生です…」
何やら真剣な声色でそう聞いてきたのだが、私には意味がさっぱりわからない上に、何がそんなにこの女性を真剣にさせているのかわからない。
私が頭を悩ませていると、女性は小さく息を吐いたのち『すみませんが後日、神官長からお話を聞かれると思います』と言って、一瞬だがとても悲しそうな表情をしていた。
私はその憂いを帯びた様な表情に少し興味を惹かれたし、なんだかとても怪しい綺麗さを感じた。
それから私は呆気に取られたままの二人と一緒に王城にある自室へと帰宅したのだった。
☆
「あの、優里様」
自室でいつものように夕食を取った後にヴェルが話しかけてきた。
「なぁに?どうしたの?」
「優里様は女神様から力を授かりましたよね…多分これから、すげぇ忙しくなると思います。…っなので、俺は!これ以上に優里様を守りますんで!ぜってー傷ひとつつけさせないんで!…なんで、俺…頑張るんで…」
何か決意した様な表情で私にそう伝えてくるが、私はいまいち何がこれから起こるのかわからない。
決意しないといけないほどに大変なことが起こるのかと内心ビクビクするのだった。
尚、この間もずっとレイはなんだか上の空で、大丈夫なのか心配になった。
レイのことを考えていた私の横で気づけばヴェルは『俺のこと捨てないでください』と、なんかシクシクと泣き始めていてびっくりした。
いつ出したのか、ソファーの目の前の机の上にはお金の入った袋がたくさん置いてあった。なんか段々と袋の量が多くなっている気がするのは気のせいじゃないだろう…袋の量が私への愛の重さなのかなとか意味のわからない事を一瞬考えた。
☆
「聖女様、女神様から再生の力を授かったと聞きました。おめでとうございます、私が生きている内にこんなに幸せな出来事が起こるなど…うっ…」
今、私の目の前で感極まって涙を流しながら話しているご老人は神官長である。私が教会へ行ってから二日後に神殿長がわざわざ王城へと赴いてくれたのだ。
「あ…いえ、ありがとうございます?」
神官長の反応や言葉に対してやや引き気味に答えた私は仕方がないと思う。
唐突に知らない老人が部屋にきて、土下座かと思うほどに平伏してきたと思ったら涙をダラダラと流し、グレーの瞳をキラキラさせながら私を見上げて感激してくるなんて…きっと誰でも引き気味になると思うんだ。
少し遠い目をしながら『これどうしたらいいのだろう』なんて考えてる私に神官長は突然とんでもない事を言い放ったのだ。
「厚かましいお願いになりますが…聖女様!その再生の力で教会の事をお助けください!」
私は意味がわからなさすぎて白目を剥きそうになった。いや、剥いていたかも知れない。それほどに衝撃は大きかったのだ。
「あの…私、いまいち良くわかっていないのですよね…」
邪気のないキラキラとした瞳で尚も私を見つめてくる神官長へ私がそう言うと、神官長はその瞳をこれでもかと大きく開き、口はちょっと空いていた。
「…はい?」
なんか…私の反応は神官長からすれば、物凄く予想外のことだったらしい。
それからソファーに座り神官長の話を聞いたが、とてもとても長かった。多分、三時間ほど聞いていたと思う。いや、本当に。
色々と、この世界にきてから聞いた話をまとめると…
『聖女とは異世界から召喚された女性の事であり、召喚される女性は膨大な魔力を持っている人が選ばれる。そして、聖女が産む子供は皆高い魔力を持つ。』
これはこの国にきたときに王様から聞いた話だ。
この国では親よりも魔力の高い子供は産まれないらしく、普通に結婚をしてゆくとだんだんと魔力が失われていってしまうらしい。
そのため、貴族間では魔力量を調べ出来るだけ同量の魔力を持っている者同士の婚姻をさせているらしい。
この世界では緩やかに魔力は失われていき、平民に関しては魔力を持っているものはほぼいないらしい。
けれどそれでは困るので聖女召喚をしているらしいのだ。だが、しているとは言っているが召喚に関しては勝手に行われているらしい。
どう言った原理かはわからないらしいのだが、100年毎に魔法陣が突然光って聖女が召喚されると言うのだ。
意味がわからないのだが、そう言うのならそうなのだろうと私は思った。わからない人に聞いてもわからないのだ、聞く意味がない。
そして、ある時の聖女様が教会でお祈りをしたところ、女神様から力を授かったそうなのだ。
歴代聖女様が授かった力は皆バラバラだったらしいのだが、膨大な魔力量の為なのか元々持っていた知識のせいなのかはわからないが、物凄い偉業を成し遂げたそうだ。
(ちなみに、この偉業の話で二時間ほど時は過ぎたのだ。途中からはにこやかに首を振るマシーンの様に私はなっていた。ちゃんと日光に当てて充電してね…)
だが、女神様から力を授かった聖女様は多くないらしく…今までで四人しかいないらしい。100は超えて召喚しているらしいのに四人とは、確かに少ないし神官長が咽び泣く程には稀有な存在なのかも知れない。
そして、歴代聖女様の一人が『再生』の力を持っていたらしく、その聖女様は教会に定期的に行き怪我や病気の人たちを癒していったらしいのだ。その力は凄まじく、聖女様のおかげで疫病や震災の際は大量の人たちの命が助かったらしい。
『再生』とは、怪我をする前の状態に再生する。病気をする前の状態に再生する。
そう言った魔法のようで、聖女様が教会へと言った日にはたくさんの人が教会へと足を運んだらしい。ただ、当たり前だが死んでしまった者を生きてる状態に出来なかったそうだ。
(…そんな大層な存在になってしまったのね私は…ん?だからレイがここ最近おかしいのか?)
私はその話を聞いて思ったことが一つある。
(生活は国が保障するから子供だけ産んでねって話と違うし!)
でも、まぁ、部屋にいても暇だからいいかと私は思ったのだった。…何事にも楽観的な私であった。
この時に私を壁際で睨んでいる女性がいた。
神官長が色々と凄過ぎて、あの時に私達を案内をしてくれた女性が一緒に来ていたなんて全く気づかなかったのだ。
「ッチ…。」
女性は優里を見て小さく舌打ちをした。女性が優里を見る目は…ひどく濁っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます