10 急務案件

 

 彼女は苛立っていた。お仕えすべき主の隣にいることが、至上の役割であるはずなのに、急務で離れることになったからだ。

 テナは、シュガーが経営するスーパーマーケットゼクス街本部に訪れていた。

 

 ゲーム当時、シュガーは金策の一環としてこのスーパーマーケットを創業し、軌道に乗せた。NPCからプレイヤー(NtoP)に販売する一般的な武器屋や防具屋などは多くあったが、客層をプレイヤーからプレイヤー(PtoP)、またはプレイヤーからNPC(PtoN)をターゲットに販売している。扱う物に関しては、武器や防具、魔法具や回復薬などの消耗品など、ほぼすべての低中レアリティアイテムを一つの店舗で完結できるよう揃え、販売するといった手法である。これは価格を相場より少し安くする代わりに、客の購入点数を増やすことによってかなりの利益が出ている。


 「テナ様、お忙しいところお呼び立てして申し訳ありません」

 本部を収めている商会本部長はテナの表情が険しく、機嫌が悪いことを感じ、額の汗をハンカチで拭う。この気弱そうな男は元々ゼクステリア王国内で名のある商会の会長であったが、シュガーの新しいビジネスに感銘を受け、彼の商会ごと吸収される形で今の地位についている。とはいえ、テナの部下であり中間管理職ではあるのだが。

 

 「それはいい、状況の詳細報告」

 テナはいち早く解決し、主の下に戻るためこの案件を終わらせたい。


 「それがですね、先週から”アヴァロンヘイム王国”から仕入れしている輸入品の一切が無くなりまして、HP回復薬やMP回復薬が納入できない事態に陥っています。もちろん原因特定は急いでいますが、今後は価格の高騰も考えられます」

 

 「了解、では現状はそのまま全回復剤の値段は据え置き、仕入れ単価が上がり次第価格設定の見直しを。……具体的でなくてもいい、思い当たる原因は?」

 「……どうやら、アヴァロンヘイム王国とゼクステリア王国との間にある配送ルートに問題があるようでして、アヴァロンヘイムからの馬車出立が困難になっているようです」

 本部長の胃がキリキリと痛む。この痛みは仕事上のストレスよりもテナの圧力によるものかもしれない。


 「そこに何があるっていうの……、原因が少しでもわかり次第、すぐに報告して」

 「はい、お任せください」


 テナは早急な解決ができず、さらに苛立ちをみせ本部を後にする。

 (シュガー様がご帰還なされたとはいえ、お手を煩わせるようなことは決して……)


 「やっぱり報告なんて待っていられない、私も動く必要がありそうね」


 

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