第3話 魔法使いの授業

「ねぇねぇ、アーデルおば、お姉さん!魔法ってなに?」

イグサはカミヤが家の修繕をしている間アーデルハイトの家に泊まっていた。

アーデルハイトはガラスの試験管にゼンマイやらたんぽぽの花を入れては側に置いてある薬包紙を摘んで薬包紙の中身を試験管の中に注いでは肩を落として中身を筒状のゴミ入れに捨てる。

「聞こえたぞ」

アーデルハイトは試験管を試験管立てに置いて近くにある革張りのソファに腰掛け、雑草茶をカップに注いで乾いた喉を潤す。

「それで?なんで魔法なんかに興味が湧いたんだ?確かにいずれ教えてやろうとは考えてたが」

カップを再び机に置いて椅子に腰を沈める。

「だってアーデルお姉さんがいつも手から火とか水とか出してるから」

イグサはアーデルハイトの真似をして小さな両手を胸の前まで掲げて力んでみるも、何も起きない。

「お前にゃ無理だ。まず才能がない」

「えええぇ」

アーデルハイトにキッパリと言い切られてイグサは見るからに落ち込む。

「まぁ、お前みたいに才能の無い人間にも使える魔法はある」

アーデルハイトはもう一口雑草茶を口に含む。

「まぁ、これも才能ありきだけどな」

一息ついて、アーデルハイトが椅子を立つと木の器に雑草茶を入れて蜂蜜を混ぜる。

「何やってるの?」

イグサがアーデルハイトの横に小さな椅子を持ってくるとその上に立ってアーデルハイトの手元を見る。

「何、少し隣人に助けてもらうだけさ」

アーデルハイトが小さなナイフを手に取ると人差し指の先にほんの少し刺す。

ナイフの刃にアーデルハイドの血が伝って器に落ちる。

「森の子森の子、ヴィーザルの同胞はらから、私とと成り歌いましょう」

アーデルハイトの澄んだ声が部屋の中で美しく響き、アーデルハイトの声に合わせてみるみるうちに皿の中身が減ってゆき、ほんのりと花の甘い香りと体が軽くなるような微風そよかぜが一度部屋中を巡ってアーデルハイトの胸の位置に収束してゆく。

「おおおおぉ」

イグサが興奮で歓声を上げる。

「やぁ、久しいね」

アーデルハイトが自分の前でシュルシュルと音を立てている風の塊を掌の上優しく包む。

『◼️◼️◼️◼️』

アーデルハイトの声に反応して鈴の鳴るような音が部屋に響く。

「何これ」

イグサが興味津々といった様子で風の塊を指差す。

「この子はシルフ、ここらは私が管理しているからこの子達みたいな妖精が多いの」

シルフと呼ばれた風の塊はアーデルハイトの周りをくるくると飛んで最終的には肩の少し高い位置で止まる。

「なんて言ってるの?」

シルフを目を輝かせて見つめるイグサに微笑ましそうに笑顔を向けるアーデルハイトはイグサの頭を撫でてやる。

「どうやらお前が怖いみたいだな、それもお前の家系によるものだろうな」

シルフがアーデルハイトのローブの中に隠れる。

「そっかぁ」

不満そうに頬を膨らませて一気に息を吐いてイグサが肩を落とす。

「ま、精霊とのコミュニケーションには相性が大事だからな。どんな奴であれ多くの精霊の全てに嫌われたり警戒されるなんてことは無い」

アーデルハイトがローブの中にいるシルフを外に出すと戸棚の中からしおれた花が植えられた小鉢を取り出して机の上に置く。

「さぁ、この花を直してやってくれないか?」

シルフに声をかけるとシルフの纏う風から小さな風の玉が生まれて花を包み、徐々に花が生気を取り戻す。

「よし、上出来だね」

花が綺麗に咲いたことを確認すると蜂蜜を入れた瓶の中からスプーンで蜂蜜を掬ってシルフにスプーンを向けると蜂蜜が全てシルフの風の中に消える。

「ありがと」

『◼️◼️◼️◼️』

シルフは鈴の鳴るような音を響かせてアーデルハイトの髪を微風になびかせて消える。

「さて次はイグサの番だぞ」

「うん!」

アーデルハイトのことをずっとキラキラとした目で見ていたイグサに声をかけると即応して椅子を引っ張ってアーデルハイトの前に置いて立つ。

「さて、特ににえになりそうな物は無くなっちゃったし、イグサの髪を使おうかな」

「え?切らなきゃダメなの?」

アーデルハイトの言葉にイグサは自分の短く整えてある髪を少し見つめる。

「切らなくていいよ、一応お前の髪は取って置いてある」

アーデルハイトは薬品らしき物が大量に置いてある中からイグサの髪の束の入った瓶を取り出す。

「これを使うとしようか」

アーデルハイトが瓶の中にある髪の中から三本ほど取って薬包紙の上に置く。

「それじゃあ、さっきの私のようにやってみて」

イグサはアーデルハイトの先ほどの様子を思い出す。

「もりの子もりの子、...............なんだっけ?」

しかし、詠唱が全く思い出せない。

「これを読みな」

アーデルハイトは小さな紙切れに詠唱を書いてイグサに渡す。

「わかった、もりの子もりの子、ゔぃーざるのはらから、わたしとわとなり踊りましょう」

イグサのたどたどしい詠唱が静かな部屋の中にみてゆき、しばらく間を置いて微風が部屋全体に吹いてその風がイグサの前でイグサの髪を吸い込みながら収束して小さな人型となる。

「あれ?しるふじゃないの?」

イグサはアーデルハイトがやっていたことと結果が違うことに困惑する。

「あらあら、私を呼ぶのはだぁれ?」

風の集まった人型は声を出したすぐ後小さなベールを纏った少女の姿をとった。

『あら、あらあらあら、あの方の子なのね?可愛いわ可愛いわ』

シルフは困惑して固まっているイグサの周りをくるくると飛んぶ。 

「あ、あなたは誰?」

固まっていたイグサが興奮気味なシルフに問いかける。

『私は貴方達の言う精霊、シルフ。貴方に呼ばれるなんて私は幸運ね、さぁ初めての共同作業を始めましょう?』


  







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