僕の彼女は押しに弱い 短編集

あんぜ

追想

追想 夏休みの僕の家で

「はぁ、はぁ…………」


 浅く息をする渚。ぐったりとしていて全部の体重を僕に預けている。

 女の子ひとり分、決してそんなに軽いわけじゃない。でも、この圧迫感は癖になる。


 夏休み、三度目のデートで僕は渚を押し倒してしまった。彼女には嫌われるどころか逆に幸せだったと語られた。それからも何度か僕の部屋で彼女と交わったけれど、いつも彼女は僕の言うがまま。あまりに従順な彼女の態度に逆に心配になった僕は、あまり変なことはさせないようにしていた。


「ごめ……ごめんね…………重くない?…………ちょっと無理そ……」


「ううん、渚はそんなに体力無いんだから無理しないで。それに軽いから平気」


 水浴びでもしたかのように僕と渚の体の間にはたくさんの汗が溜まっていた。

 背中のマットもぐっしょりだと思う。

 さっきまで火照っていた彼女の体は汗のせいで徐々に冷えてきた。


「――寒くない?」


「だいじょぶ…………きもちい…………」


 返答もままならない渚。

 渚は文学少女よろしくあまり運動をしないらしい。そのせいか、とにかく体力が無い。今日も早々に果ててしまった。良さそうにはするんだけど、あまり刺激を与えない方がいい気もする。こっちが勢いに任せると、彼女は一度体を強張らせ、その後は段々と反応が薄くなっていく。最後はいつもこんな感じ。


 僕らは専らお家デートが多かった。人混みの中へはあまりお出かけしていない。僕も割と苦手な方だったけど、渚が嫌がった。出かけるのは図書館か映画館、喫茶店くらい。あとはその途中で本屋に寄るくらい。おかげでクラスメイトにはまだ見つかっていない。



 ◇◇◇◇◇



 セミダブルのベッドの上、彼女は体をくの字に折り曲げて眠っている。僕は腕枕をし、彼女にはタオルケットを掛けてあげていた。眠っている彼女はまた別の可愛らしさがある。僕も一緒に眠っていると――。


「はう、ごめん……また寝ちゃった?」

「ううん、大丈夫だから」


「ごめんね、最後までできてないよね?」

「一回暴発しちゃったから気にしなくていいよ」


「二回目の捨てちゃった? ごめんね」

「渚が気にすることじゃないから」


「今日のは痛くなかった?」

「うん、大きいのを買ってきたから」


 初めてのあの日、終わってから渚に頼まれた。今度ドラッグストアでアレを買ってきて欲しいと。買ってきたはいいんだけど、中くらいのサイズを買ってきたらその、小さくて何度か外れそうになった。おまけにちょっと痛いし。その分が前回やっと終わった。


「太一くんって、……っきいよね……」

「えっ!? いや、誰と比べて……」


「そ、そうじゃなくてっ、そのっ、いつもはみ出してるから!」

「そ、それは渚と一緒の時だけだよ!」


「太一くん、そもそもそのパンツ恥ずかしいんだけど……」


 渚が顔を赤くする。


 僕は小さい頃からずっとここのメーカーのパンツを穿いてた。

 まあ確かに小さい頃は白のブリーフだったけれど、今はビキニだからそんなに恥ずかしいという程でもないと思うんだ……。高校の皆はトランクスが多くて、あとはボクサーパンツも偶に居た気がする。


「気に入ってるんだけどこれ……」

「そ、そうなんだ、ごめんね」


「それよりシャワー浴びて何か食べる物作らない?」

「うん。――わっ、冷たい。これ、マット干さないと」


 渚が汗でぐっしょり濡れたマットに触れ、驚く。


「そっちは後で干しておくよ」

「ダメだよ、早く干さないと」


「でも渚、裸だよ?」

「!」


 裸でベランダに出るわけにもいかないよね。

 渚は慌てて一枚だけ穿いた。



 ◇◇◇◇◇



 二人でシャワーを浴びに行く。うちの家は古い家をリフォームしたのもあって、お風呂場は割と広めだった。脱衣場では、渚がシーツを剥がしてきたので洗濯機に放り込んで回し始める。


「お風呂っていつも一人だから変な感じだね」


 渚がそんなことを言ってくるけれど、実は僕もよく分かる。


「わかる。あとちょっと恥ずかしい」


 ふふ――と二人で笑い合う。


 渚は髪をまとめていて、濡れないようにしていた。僕もさっとお湯で流すだけ。ただ、彼女と向かい合うとどうしてもその……目立つものが目に入ってしまう。


 いや、想像もしていなかった。だって彼女はいつも猫背気味でおまけに最初はブレザーだったものだから、そんな印象は無かった。夏になってシャツだけになっても、やっぱり猫背気味だから気にもしていなかった。でも…………脱ぐと凄かったんだ。


「渚って、大きいよね……」

「お、大きくないよ? 渡辺さんとかの方がずっと大きいと思う」


「渡辺さんって……」

「バレー部の」


「バレー部の……」

「背の高い」


「ああ。……でもよく覚えてないかな」

「男子は体育別だから……と、とにかく私はそんなに大きくないから」


「そうなんだ」


 そんな話をしながらいつの間にか触ってしまっていて、つい……なんとなくお風呂場でしちゃったわけだけど……。


「ダメぇ…………のぼせたぁ…………」

「暑い…………」


 二人ともシャワーの湯気で体に熱が篭り過ぎてのぼせてしまっていた。

 軽くバスタオルで体だけ拭き、あまり乾いていないベッドに二人で横になっていた。


「――これ、お風呂場は大変すぎない?」

「ちょっと私には無理ぃ……」


 起きたばかりだったのに、再び二人でベッドに突っ伏すこととなった。

 それ以降はお風呂でするのはやめようと話し合った。



 お風呂もそうだけど、ベッドでも、とにかく渚には体力がない。

 物足りない――というわけじゃなかった。僕としては満足してる。


 けど、なんだろう……もう少し長い時間を二人で共有したかった。

 僕だけが満足していて、渚が疲れてぐったり――なのは何か違うと思った。

 渚の体力でなんとか良くなってもらう方法を手探りしなくてはいけない。


 僕がようやくその方法に辿り着くのは、もう、夏休みを半分過ぎようかという頃だったわけだけど。







--

 ここから太一の成長が始まったわけですね。渚の方は満華と相談してからですが。

 全然関係ない話ですが、太一がお祖母ちゃんから譲り受けたセミダブルベッドは、スプリングですのでちょっとだけギシギシいいます。


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