第14話 職業、使徒。だが実際はニート。

「駄目だよなぁ……」

 自問自答……


 帰ってきてから一週間。

 あれだけ待ち遠しかった休みが、毎日だとつらい。


「じゃあ、勉強をして、この間に大学へ通ってみる?」

 ぽいっと見せられたタブレット。


 メニューじゃなく、大学の案内が表示されている。

「社会人枠?」

「そう。共通テストを、受けなくて良いみたいだし。二十四歳以上で、三年以上の勤務経験がある社会人なら大丈夫みたいだよ」


 多少、体重を戻した小雪が教えてくれる。

 瑠璃の一言が聞いたらしく、ランニングマシン。エッチ三本勝負。サウナ、水泳。エッチ。ランニングマシンのスケジュールをこなしたようだ。

 今度は、足が太くなったと言っている。


 そして、俺の方が体重が落ちた。


「行って見るか。大学も近場にある奴…… ああ、あるな社会人枠」

「行こう」

 なぜか、小雪もノリノリで、腕を突き上げる。


「行ってらっしゃいませ。周囲には、一チーム付いておりますので、ご安心ください」

 サポート担当の多田 俊介ただ しゅんすけさんが、頭を下げて見送ってくれる。身長百八十センチくらいで、細く見えるが、筋肉ガシガシで格闘術の達人らしい。


 言われたから、周りを気にすると、五人一チームらしい。

「ファイブマンセルという奴か?」

「うん? なに」

「ああ。しっかりと護衛がいる。五人だな」

 そういうと小雪が、クルクル見回すが。分からなかった様だ。


「居るの? わかんない」

「そうか?」

 まあ、気を使ってくれているのだろう。

 目だつと、護衛される側も気にしてしまう。



 さて、大学に来てみたが…… 高校までと違い。止められることも無く。中に入る。

 小雪が案内板を見て、俺の手を引っ張っていく。だが、このキャンパス。

 かなりオープンというか、到る所で抱き合い。キスをしているし。


 そっと浄化を展開する。意外と奴らに染められて、良くない状況のようだ。

 ―― するとだな。


 到る所で、生徒達が倒れて、くるしみ始める。

 道で倒れて、誰かの名を。叫び続ける奴まで……

 一瞬にして阿鼻叫喚。まるで地獄の様相を引き起こしてしまった。


「何かした?」

 小雪がそっと聞いてくる。


「ちょっと、浄化をしただけなのに……」

 そしてそれは、学生課の事務室でもおこっていた。


 とりあえず無視をして、聞いてみる。

「すみません。社会人枠の、入学案内が欲しいのですが」

「ああ。はいはい」


 少しお年を召した人と、恋愛? なんだそれな方は、平気で立っていたが、それ以外は全滅のようだ。


 いい加減鬱陶しいので、もっと強く浄化をする。

 ここまですると、無駄に体が光るから嫌なんだよな。


 そう、光を発し始める。

 さっきの二人が、気が付いたようでこっちを向くが、なぜか涙をボロボロこぼし、跪き。俺を拝み始める。


 まあ気にはしないが、その浄化は効き目があったようで、ビッタンバッタンしていた人たちの動きが止まり、起き上がり始めた。


 もろパンでも気にせず、ブレイクダンスをしていた女の人も、ぴたっと動きが止まり。ぼーっとしている。


 わらわらと、皆が正気になったようだ。


「ぐすっ。これがパンフレットです。ご入学をお待ちしております。面接はきっと大丈夫ですので、小論文を頑張ってください。後、高校の卒業証明書と、戸籍の抄本、それと本人の写真を二枚です。写真は正面無帽でマスクは不可。化粧も駄目です。それをお願いいたします」

 そう言いながら、なぜか俺の両手を握り、涙をこぼす。


「はい。判りました」

 そう言って出てきたら、今度は修羅場が展開されていた。

 男と女。入り乱れた状態で、寝ただの寝てないだの言い合いをしている。


「これって、魔の仕業よね」

「そうだな」

 それだけで、小雪の興味は消えたのか、手を引かれる。


「何処へ行くんだ?」

「学食か売店。アイスが安いのよ」

「ああ。そう」

 黙って付いていく。


 昼定食、四百五十円とか、ポップがぶら下がっている。

 今だけ限定。北海道、ザンギ定食とか。


「安いな」

 そう言うと、小雪に何言ってんだコイツみたいな顔で見られた。

「補助とかあるらしいわよ。でも少し苦手で。職員食堂はちょっとお高め。でも味は良いから私はそっちへ行っていたの」


 そう言えば、ほんの二年前くらい前まで。大学生だったなコイツ。

「あったあ」

 小雪がクルクルと喜びの踊りをしている。


 値段を見ると、十円二十円の差額だな。


 ビックリするほど、安くは無いようだ。


 一応帰って、大学に通いたいことを、神崎さんにも話を通す。

「判りました。某大学の総長に推薦を書いていただきます」

 そう言い残して、走って行った。


「総長って、旧帝国大学くらいだよな。良いのかそんな人。面識が無いんだけど」

「良いんじゃ無い? 貰っておけば」


 そう言っていると、疲れた顔をして、瑠璃が帰ってきた。

 俺を見つけると、いつもの様に抱きついてくる。

 癒やしの時間だそうだ。


「今日大学でさあ、皆がおかしなことになって大変だったの。生徒に手を出した先生とかも居たらしくてさあ…… なにこれ、うちの大学。社会人枠のパンフ?」

「ああ。受験しようかと思って」

「えっ。でも、私今年で卒業。ああっ。単位はもう取ってる。落第ができない。あっそうだ。今から院生の試験を受ければ」

 少し瑠璃が、おバカになったから、ぎゅうとして、落ち着かせる。


「私は、院生を受ける」

 そう言って、右手を突き上げる。


「いいなあ。私も大学院受けようかしら?」

 アイスを食べながら、ここにも一人。迷えるものが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る