十万字書け。話はそれからだ。~和製魔法使いは魔道を謳歌する~
うざいあず
御御亭の小さな鍵
プロローグ 和製魔法使い
西洋で激化した魔女狩りを逃れるべく、魔法使いが来日して四百年余りが過ぎた。
杖を用いて超自然的能力を駆使し、箒に跨れば自在に空を飛行し、きのこ類やとかげの尻尾を煮詰めれば不可思議な薬を精製する。
人間のような見た目をしながら一線を画す力を持つ種族、それが魔法使いというものである。圧倒的な力を持つが故に人間を含めた全ての無機物有機物を劣等種と見下し、あまねく森羅万象の全ては自分の物であり、ならば人間さえ我らの所有物であろうと、彼らは声高に表明した。表明してしまったのだ。
その末路は史実にある通り、絨毯爆撃的見境なき殺戮である。
魔女狩りにつぐ魔女狩り、魔女裁判につぐ魔女裁判。
さしもの魔法使いと言えど数の暴力には抗えなかった。窮鼠猫を嚙む、彼らが人間に大敗を喫した瞬間である。のべつ幕ない魔女狩りに嫌気が差した一部の者達は故郷を離れて、海を渡りはるばる極東の島国へやってきた。
当時のことを彼らは語る。逃げたのではない、劣等種に慈悲をくれたのだ、と。
さらに日本へ降り立った彼らは語る。魔法使いなくして日本史なし、と。
嬉々として南北朝の争いに参加し、読み書きが流行れば魔導書を筆と和紙でしたため、鎖国に一安心するや否や黒船の来航に戦々恐々とし、魔女裁判ブームが廃れたと知ればのほほんと生き残る。
光があれば影がある。人間の歴史の裏には常に魔法使いがおり、不承不承ながら支えてきたのだ、と。
図に乗り人間に存在を開示してしまった故に数を減らした教訓から、魔法使いは歴史の陰に隠れるようになった。当時を生きた魔法使いに言い分を聞けば生類憐みの令だの、動物愛護法だのを盾に人間と棲み分けをした理由を述べるだろう。
南蛮貿易にかこつけて自分たちの文化を押し付け、豪胆と傲慢を履き違えたような素振りをしていた彼らも今ではジャパンナイズされて日本文化に溶け込んだ生態を獲得した。
魔法とは理論。
賢くなくては魔法使いとして大成はできない。
人間よりも賢いから、隠れ方も心得ているのだ。
人間が魔法使いをファンタジーと思うのはそのせいである。食卓を囲う恋人が、隣に座る友人が、何かと叱ってくる近所の頑固おやじが魔法使いだなんてつゆも思わない。
とはいえ、魔法使いたちが日本史に埋もれた脇役というわけではない。
彼らには彼らの歴史がある。今もなお平穏に紡がれる魔法史。
人と争う歴史に幕を閉じ、魔法使い同士で殺し合う時代を紡いだ先に、現代を生きる魔法使いたちがいる。
裏に位置する魔法の世界はたまに人の世にはみ出しながら、個々の傲慢が悪さをしながら、足掻きようもなく愉快に揺れ動く。
かく言う私もその流れの中に居座る魔法使いの一人であり、現代魔法使いの聖地
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