第2話 13年前の出会った日
部屋の中に立っていた。
あまりの事で死後の世界に来たかと思うほどの静けさだ。
ランプのついた部屋に呆然と立ち尽くす。
「ここは…………」
どう見ても俺の書庫であるのは間違いないがあまりにも変わっているからだ。
まず、本棚が違う。
十年ほど前に買い替える前の本棚であり本の数も少ないのが見て取れる。
昼だったはずの景色は夜になっており俺はそのガラスの前で思わず顔を触った。
「なんだこれは…………」
10年ほど前から伸ばし、綺麗に整えたヒゲがない。眉間にあったシワや白くなり始めた髪も茶色のままになっている。
「人は死ぬ前に過去を思い出す。と言われているが……」
そこで俺は手に握っている物に気が付いた。
半透明な石であり過去に一度見た事がある石だ。
「これはもしかすると魔石か……試すか」
今の俺なら魔石がどうか判断つける、魔石に一定のリズムで振動を加えると光るのだ。これが普通の宝石などと違い。
机の上でコンコンコンコンとリズムよく叩くと部屋の中が昼のようになった。
あまりの事で床に落とした石を拾い上げると、先ほどと同じ半透明の石に戻っていった。
夢ではなさそうだな。
物を触った感触はそのままに、指先を力任せに潰すと痛みもある。
逆にいうと、先ほどまでの事が夢だったのでは? と思えるほどだ。
「ここがあの世であれば、それはそれで幸せだったかもしれんな」
馬鹿みたいな事を言いながら情報を集める事にする。俺は書庫の扉をゆっくりと開けて廊下へと出た。
小走りに走ってくる男を見て思わず身構える、その姿をみて思わず叫んでしまった。
「おのれ、化けて出るほど、それほど処刑した事を恨みに思うのか!」
俺に声をかけらた男は立ち止まる。転びそうになり手を壁に着けては俺を見て来た。
「オージィ様? わたくしです。執事のマーケティです!」
「見間違えるはずはあるまい、お前が俺の大事な魔道具を壊し、隠ぺいしようと逃げたのだ……仕方がなく家族ともども処刑するのがそんなに極悪か!」
「あのオージィ様……わたくしは独身ですが……それよりも、鉱山にいる鉱山夫が賃金の――」
俺の話を聞いていないのか、鉱山夫が魔物が怖くて採掘出来ない。と言う事を話してくる。
話し終わったのか俺の顔を見ては次の命令を待っているようだ。
「あの……要件のほうは伝え終わりました」
「…………そうか、いやまさかな」
「いえ、あのどうしましょうか」
それ所ではない。
過去に戻ったという事でいいのだろうか。
理由はわからな……1つだけ可能性がある、魔石。いや魔道具か? 俺のポケットに入ってるあの化物クラスの魔石だ。
俺の知っている魔石は大きければ大きいほど魔力の貯えがあると研究の結果が発表されている、次に色だ。
魔力にも色がありその色で属性が決まるのだ。と王室魔術師のカールが力説したのを去年聞いたばかりになる。
はぐれ竜の幼体から取り出した魔石すら青色だったぞ。透明など聞いた事がないし見たのも始めてた。
それを加工し魔道具としてつくるのは現実では不可能だ。あるとすれば
「お前に任せる」
「えっ……えっ!? オージィ様!?」
「二度も聞くような奴を雇った覚えはない。給金でも何でも3倍までなら容認する、その代わり珍しい石が出たら報告しろ。いやまて……今日は共通歴何年だ?」
不思議そうな顔をする執事は俺に共通歴と日付を伝えてきた、逆算すると丁度13年前と言う事になる。俺の命令を聞いたのか足早に去っていった。
書庫から寝室に入るとすぐにベッドへと腰掛ける、少し整理しよう。現在は義娘が家に来た日で間違いなさそうだ。
このままいくと13年後に俺は義娘に殺される、その理由はクソみたいな馬鹿な理由だ。
領民の意見を聞け? 魔物を殺すな? 魔道具の研究を辞めろ? 何の冗談だ。どうせ過去に戻れるのならもっと若い時に戻れればいい物を。であれば……長年の夢も終わるだろうに。
まずはどうするべきか、いや考えるまでもない、先手をうつしかない。義娘を追放、処刑あたりか。
「いやまて。俺が直接手をかければ王やアレに何を言われるかわからんな。鉱山夫を魔物で処分した時も小事を言われた、先にこの魔道具の使いかたを調べるべきか。しかし13年前には魔術師カールはまだ城にいないはずだ。それにこれが過去に戻れる魔道具としてだ、調べ上げられて他人に使われるのはもっとも危険な事に変わりはない」
自分で調べるしかないか……面倒な事だ。
条件が気になる一番いいのは。
「俺自身がもう一度死ぬことだ」
口にだして首を振る。
あの苦しさは味わいたくは無いし、万が一それが条件でなければ二度と過去に戻る事はないだろう。
考えがまとまらないな、少し仮眠をして……とはいえ、俺もこのままでは眠れない。
寝室の扉を開け廊下へと出る。
13年前とは言え屋敷そのものの変化は少ない食堂の場所も同じであり、義娘の部屋も遠くにある。
1階へと降り貯蔵庫へ行くと近くの食堂に灯りが灯っているのが見えた。灯りの消し忘れか、消しておくとしよう。
扉を開けると少女とメイド服を着た女が俺を見ては固まった。
「…………義娘と……メイドのメイファだったな」
「こ、ここここんばんは、オージィはくは……お! !!お義父様」
「エリカお嬢様のお世話をさせてもらいますメイファです」
「…………兄によろしくと伝えておけ」
「っ!? あ、兄などいません」
ああ、そうだったな。
こいつが裏切るのは、行方不明だった兄が鉱山夫をしていて死んでからか。まったく兄が死んだからと言って俺のせいにされては困る。
まさか珍しい魔石を手に入れた。からとホイホイと着いていった俺も馬鹿ではあるが。
「そうだったな……勘違いだ。所で何を、いや見たままの食事だな」
「お、お、オージィ義父様あの、お、怒らないんですか」
「何がだ?」
「いえ、あの量が」
「別にお前ならこれぐらいは食べるだろう」
テーブルにはパーティーでもするのか? というほど7人前ほどの料理が並べられている。それをこの義娘は一人で食べれるのだ。
最初見たときは、孤児院では何も食べなかったのか? と聞いてみたが、成長期なんですかね? と逆に聞かれてそれ以上言う事を辞めたのを思い出す。
「そ、そうなんです! エリカ成長期なんですよ!」
「その割に十年たってもその胸は小さいままだったな」
「ふえっ!?」
「オージィ伯爵様は何か食べますでしょうか?」
驚いてる義娘の横からメイファが訪ねてきた。
俺は黙って首を振る。
「酒を取りに来ただけだ、場所は分かる……それよりも。いや何でもない」
貯蔵庫から酒を取り出し寝室へと戻る。
義娘にこの魔道具はなんだ? と聞こうとしたが辞めた。突然にそれは私のです! 返してください! と言われれば面倒だし。
過去に戻れるアイテムなんですよ! といきなり正解を言われ返却してください。と言われてもやはり面倒だ。
義娘を追放するにしても、このアイテムの解明が先だろう。怖いのは義娘がいないと発動しない。その手のアイテムであれば失敗で終わる。
昔、といっても未来になるのか? 空を飛べる魔道具を買ったことがある。もちろんアーティファクトの中でも伝説級だ、しかし肝心の空の飛行は販売した奴が近くにいないと無理なクソも役に立たないアイテムだった事があるからだ。
「まぁいい。13年も時間に余裕が出来たのだ今度こそ変えて見せる…………シャテナ」
ここに居るはずもない名前を言うと俺は決意した。
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