第2話『横暴だけど気持ちいいキス』

 和音さんを追い出した後、俺は夕食の準備に取り掛かった。

 一人暮らしを初めてから料理の腕は上達した…と思う。何せ自分にとって美味しい物は作れているが、振る舞う相手が居ない。だから客観的な評価が──


 ピンポーン♪


 ──できないって言いたかったんだがな…

 扉を開けると、案の定、和音さんが満面の笑みで立っていた。

「…またですか…」

「お、察しが良いね!」

「今晩メシ作ってるんで早めに済ませてください」

「オッケー♪」


 そう言って和音さんはまた俺にキスをした。

 甘く蕩けるような感覚が唇に伝わる。

 鼻腔をくすぐる甘い香りも相まって、俺の頭は幸せな感覚に服従する。

 だが舌同士が触れた瞬間、俺は反射的に和音さんから離れた。


「っ…!」

「えー!なんで逃げるのさ!」

「し、舌入れるのは無しでしょう!」

「いーじゃん舌くらい入れたってさ。そっちの方が気持ちいいよ?」

「別に俺は気持ち良くなりたい訳じゃ…」

「嘘ばっかり〜あ、ご飯作ってたんだっけ?アタシも貰って良い?」


 俺の返事を待たずに、和音さんは部屋の中へと入ってきた。

「何作ってたの?」

「…生姜焼きですよ」

「良いね!あ、アタシは脂身多めでお願いね」

「あげるなんて一言も言ってないんですけどね!」

 だが和音さんは既に帰る気も無いのか、一足先に食卓に座って鼻歌を歌っている。


「ご飯できるまで暇だなぁ…ねぇ龍斗君、何か面白い話してよ」

「今警察呼んだら不法侵入と未成年淫行で逮捕できる人が家に居るんですよ」

「通報してもいいけど警察来る前にキミの貞操だけは奪うから」

「アンタ悪魔か!」


 勝ち誇ったようなニヤケ面の和音さんを見て、俺は諦念のため息をついた。

 これ以上話しても拉致があかないので、俺は意識を料理へと集中させた。

 肉を先に加熱し、ある程度焼けたところでタレを入れる。生姜ベースの特製ソースの匂いが、食欲を掻き立てる。


 そろそろ完成か…そう思った時だった。

 急に背後から俺の首に手が回される。料理完成を待っていた和音さんが後ろから抱き着いて来たのだ。

「何してるんですか」

「暇だからイチャイチャしよーよ♡」

「危ないんで向こう行っててください」

「この程度でヘマするほど不器用じゃないでしょ?」


 和音さんはより一層力を込めて抱き着いてくる。

 背中越しに感じる柔らかい感触が、俺の集中力を乱してくる。

「ってかお酒無い?生姜焼きとかツマミに丁度いいと思うんだけどなー」

「俺まだ18ですよ?有るわけないでしょ」

「そりゃ残念。じゃあアタシお酒取ってくるから!」


 そう言って和音さんは俺から離れ、1度家から出て行った。

 数分後、完成した生姜焼きを食卓に並べていると、缶ビールを両手に持った和音さんがやって来た。

「やほ〜いい匂いするねぇ〜♪」

「もう酔ってやがる…」


 どうやら部屋に戻った段階で酒を飲んできたらしい。和音さんの若干顔が赤くなっている。

「あ、タバコ吸いたい…龍斗君、唇貸して」

「嫌ですよ!酒臭い!──…っ!!」

 和音さんは有無を言わさず唇を奪った。


 酒気を帯びたキスはさっきよりも濃厚で、俺から正常な思考能力を奪っていく。

「…っぷは!長い!」

「はぁーやっぱ若い子の唇は瑞々しくて良いね!お姉さんずっと味わってられるよ」

「勘弁してくれよ…」


 俺は赤くなった顔を隠した。

 そんな俺を見て、和音さんはますますニヤニヤと笑っていた。俺の反応を見るのがそんなに面白いかよ…

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