長い旅を往く。

lager

第1話

 光が眩しい。

 白くぼやけた視界に、ただ光だけが見える。

 さっきまで麻雀を打っていたはずなのに。

 いや、天ぷらうどんを食べていたのだったか。

 対面の聴牌気配が見えたもんだから、取りあえずスジを捨てて、いや。

 そうだ。アスパラの天ぷらにまだスジが残っていたんだ。

 前歯でしごいて取っているうちにテレビの画面で大関が土を付けられてたんだ。

 そうだった。シンゴの野郎と賭けてたんだったな。

 あの野郎、ここぞって時に裸単騎なんて粋な手を通しやがって。

 あいつとは随分昔から相撲で勝負してたんだ。

 いや、釣りだったかな。

 まさか脳卒中で逝っちまうなんてなぁ。

 去年の暮れだったか。

 あいつの倅が挨拶に来てくれて。

 アスパラの天ぷらがまだ固いなんて文句つけちまった。

 光が眩しいな。

 体が動かねえ。

 俺はどうなっちまったんだ。

 なにやら頭の上が騒がしい。

 誰かが何やら捲し立ててるが、なんて言ってるのかが分からねえ。

 おい。

 誰か補聴器取ってくれ。

 声が出ない。

 手が動かない。

 光が。

 光が眩しい。

 なあ。

 誰か。

 俺は死ぬのか。

 なあ。

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