訪れない春、地図帳の壁。

味噌カツ定食

第1話 はじまりはいつも雨

「今は昔、竹取の翁といふものありけり。野山にまじりて―――」


国語の授業、竹取物語を黒板の前で暗唱している最中であった。おそらくどこの中学校でも似たような事をやっているでだろう暗唱テスト、これの嫌な所は生徒一人一人

が前に出てクラスメイトの前で行うことにある。それも出席番号順。


そう、俺は出席番号一番、相川景凪。小中学校8年間、不動の出席番号一番だ。


「―――それを見れば、三寸ばかりなる人、いと美しうて居たり。」

「オッケー。はい次、相澤さん」

暗唱テストを終え、自席に座る前、俺は隣の席で力強く両目を閉じ、耳を塞いでる女の頭の上に手を置き、もう終わったぞと一声かけた。するとその瞬間、

「うっさい死ね触んなキモオタ」

と早く冷たい口調で返され、頭に置いた手が振り払われた。

おお、なんと素早い反応速度。これは半年と二カ月後に行われる学校行事、百人一首大会じゃ大活躍出来そうな素早さだな。

「ひぃ~怖い怖い...」

「二度と喋りかけんな死ね」

「はいよ」

俺はこの女、天宮幸来に酷く嫌われている。何故嫌われてるかってか?一言で言うならある噂がきっかけだと俺は考えている。


けどなー、二週間くらい前までは毎日笑いながら喋って、名前で呼び合う程度には仲が良かったんだよなー。

このことから一部のクラスメイトは天宮幸来は究極のツンデレだ!などと言い俺と天宮の言い争いにすらなってない言い争い、一方的な悪口を相川景凪と天宮幸来なりの愛のカタチだのじゃれ合いだのと結論付けている。

勘弁してくれ。

真実を彼らに伝えるべきだとは思うがそんな機会は無い。機会は己で作るもの?それが出来たら苦労しないさ。生憎とそれが出来る程のコミュニケーション能力を持っていない。話し始めなんか特にわからない。何から喋れば良いんだよ。単刀直入に言ったところで彼らが信じるとは思えない。付き合ってもおかしくは無い様な仲の男女が実は犬猿の仲でしたー。などと言われたのと同じだ。俺だったら100%信じない。それを彼らに?うん、無理だ。ここは静かにタイミングを待つしかないな。


はぁ、こんなはずじゃ無かったのだがな...

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訪れない春、地図帳の壁。 味噌カツ定食 @Mi_Kazuki

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