第2話 修理
ここはB区。
AM7:00
云話事帝都マンション 34階。
矢田辺 雷蔵は、6時に起床したというのに、未だノロノロと身支度をしていた。アンドロイドのマルカとアンジェは心配げな顔で、矢多辺の着替えと身支度を手伝っていた。
矢多辺は気が滅入っていたのだ。今日から新しいアンドロイド製造業のベンチャー企業へ訪問するのだが、可能性は少ないのだ。
「ヨハ……」
ヨハの規格外の頭部は一年前のレースの試合で壊れてしまった。矢多辺は修理をどうしてもしてやりたかった。多数の企業へとヨハの修理を依頼したが、いずれも直せなかった。
アンジェがテレビを点けた。
「ハイッ。云話事町TVッスね。今日はB区の中央区のピアノ・コンクールへと来ています。由緒正しい。あのラフマニノフの奏者を多数輩出させた。B区カララン・クリスタル・パレスです。今日の目玉はなんてったって……なんでしょう? すいませんねー。私はクラシックはよく知りません。演歌は好きですが」
美人のアナウンサーの有田は、会場で一人マイクを片手に辺りを探している。そう、藤元がいないのだ。
実は藤元は女湯を覗いたという疑惑で、現在逃亡中なのだ。真偽は確かではないが、必ずこのことは闇に葬られるだろう。
「あ! もうすでに始まっていますね!」
演奏者はすでに会場の壇上にあがりピアノの前に座っていた。
演奏者は痩せすぎで、神経質そうなその顔は極度の緊張のためか、かなり青色に近い。
「皆さん、それでは貴重な演奏を少しだけ聞いてみましょうね。滅多にない機会でしょうから。せっかくですしね……この番組って、いつもこんななんですよ。地元や有名なところのおいしいところだけを放送させて頂いてます」
有田がそういうと、神経質そうな演奏者の演奏が始まった。
演奏者は思い切り鍵盤を叩いた。トンー、と音に始まる美しい音色が奏でられた。
審査員は皆、驚きを隠せないほどの。耳を潤す美しい音色に酔いしれ、演奏者は審査基準を遥かに上回る高得点を獲得したかのようだった。
しかし、演奏中。突然、鍵盤が落ちて派手な音が轟いた。
「これも演出でしょうか?!」
有田はことのほか目を見張っている。
演奏者は曲を弾き終わる前に悶絶した。
後は、のたうち回るのみ。
呆気にとられた審査員は皆、一斉に得点を点けだした。
「10点、10点、10点、10点……おお! 出るか出るか……マイナス100点!!
はい! 残念でしたー! 演奏者の方。もうこのコンクールには来ないといった顔をしてますねー。はい、お疲れ様でした。番組の途中ですが私ももう帰ります。ハイッ! 云話事町TVでした!」
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