第2話 冒険のお誘い

ですが、その一方で欠点もあるようです。

というのも、余りにも多くの知識を取り入れすぎたせいで頭がパンクしてしまいそうになったからです。

これでは本末転倒だと思い、今後はバランスよく学んでいく必要があると思いました。

しかし、同時に得たものもたくさんありますので、決して無駄ではなかったはずです。

これからはそれらの情報をうまく活用していこうと心に決めました。

続いては私自身の能力についてです。

グレオスハルト曰く、私は複数の魔法適性がある上に、魔法の威力も高いとのことでした。

確かに言われてみれば、思い当たる節がいくつかありました。

例えば、魔法の発動速度や命中率が高いことです。

これらは訓練によって身につけることができる部分でもあるのですが、

生まれ持った素質にも大きく左右されるところなので、生まれつき恵まれていると言えるでしょう。

その為、私は天才と呼ばれているのでしょう。

また、魔法の詠唱時間も短い方だと思います。

これは幼い頃からの訓練の成果とも言えますが、個人的にも努力していたおかげです。

それ以外にも身体能力の向上などが見られ、全体的に高い水準にあることが分かります。

(なるほど、これが転生者の力なのね)

そう思った瞬間、頭の中に何かが流れ込んでくるような感覚を覚えました。

それは膨大な量の情報のようでした。

どうやら前世の記憶の一部らしいのですが、詳しいことは分かりません。

ただ、一つだけ言えることがあります。

それは、私はやはり転生者であるということです。

それもかなり特殊なタイプのようで、今の私とは全く違う人生を歩んでいたようです。

そこで知った事実は衝撃的なものばかりでしたが、同時に納得できることでもありました。

何故なら、今までの人生の中で感じた違和感の正体に気づいたからです。

例えば、幼い頃の記憶がないということにしても、単なる記憶喪失ではなく、

もっと深い部分で記憶を失っているのではないかと思うようになりました。

おそらく、前世の記憶を取り戻したことで、

本来の人格と混ざり合ってしまっているような状態なのではないでしょうか?

だから時々自分が誰なのか分からなくなることもあるのです。

(それに気づいて以来、少しづつ記憶が蘇っている感じもあるし……)

もしかすると、完全に思い出してしまう日が来るのかもしれないと思うと怖くなりますが、

今はとにかく前に進むしかありません。

何故なら、私が生きる世界は今ここでしかないのだから、

そう思いながら眠りにつきました。

翌朝、目を覚ました私は、ゆっくりと体を起こして伸びをします。

それから軽くシャワーを浴びてから朝食を取りに向かいます。

今日のメニューはトーストとスクランブルエッグ、ソーセージというシンプルなものでした。

どれも美味しいですが、やっぱり日本の料理の方が好きです、

と思いながら食べ終えて部屋に戻ってくると、ふと机の上に置いてあるノートに気づきました。

(あら? なんだろう? これは……? )

不思議に思いながら開いてみると、中には日記のようなものが書かれていました。

そこには日々の出来事に加えて愚痴のようなことも書いてあり、

自分自身に対する文句も書かれていたのです。

その内容を読んだ時、驚きと共に何とも言えない気持ちになりました。

だって、そこに書かれているのは私の本音そのものだったからです。

もちろん普段は隠していたつもりでしたが、まさかこんな風になっていたなんて知りませんでしたし、

何より恥ずかしさでいっぱいになってしまいました。

それでも何とか気を取り直しつつ読み進めていくうちに

少しずつ落ち着きを取り戻してきましたので続きを読むことにしましょうと思います。

そうして読んでいるうちに分かったことがあるのですが、

この日記に書かれていた出来事は全て現実に起こっているものだということなんです。

最初は信じられなかったのですが、こうして証拠を見せられると信じるしかありませんでした。

ですからこれからは毎日しっかりと記録をつけておこうと思い、書き始めることにしたわけです。

それにしてもどうしてこうなったのかはよく分かりませんが、きっとこれも運命の一種なんでしょう。

神様に感謝しつつ今後も頑張って生きていきたいと思っています。

そんなことを考えている間に時間が過ぎていき、

気づけば昼近くになっていたので昼食を食べに行くことにしました。

食堂に着くとグレオスハルトの姿を見つけたので、一緒に食事を摂ることにしました。

彼はいつも一人で食べていることが多いんですが、今日は珍しく他の人と一緒みたいでした。

誰だろうと思って見てみると、グレオスハルトの弟君のマルヴォックス殿下でした。

そういえば二人は兄弟でした。

そんなことを思い出しながら、私も二人の近くの席に座ったんです。

そうすると突然声をかけられたんです。

「君がグレオスハルトの婚約者か」

驚いた私が顔を上げると、そこには金髪の美青年が立っていました。

「私に何か用ですか?」

と聞いてみますと、その青年は答えます。

彼はグレオスハルトの弟君で、名前はマルヴォックス様というそうです。

見た目からすると歳は近いように見えます。

身長も同じくらいですし、体格も似たようなものですが、若干向こうの方が大きいかもしれません。

顔はグレオスハルト様によく似ているのですが、目つきだけは違うようです。

どちらかと言えば釣り目で切れ長な感じでしょうか。

顔立ちそのものは似ているのに受ける印象はかなり違います。

そんな彼が話しかけてきたのですから、驚かないわけがありません。

「ああ、驚かせてしまったかな? すまないね」

そう言って微笑む彼に思わず見惚れてしまいました。

それほどまでに魅力的な笑顔だったのです。

まるで王子様のようだと思いました。

そんな彼に対してグレオスハルト様は呆れたように溜息を吐きます。

そして、私の方を見て言いました。

「リアンシューベレナ、こいつは俺の弟だ。仲良くしてやってくれると嬉しいんだが……」

そう言われて改めて彼を見ると、確かにどことなく雰囲気が似ています。

髪の色や目の色も同じだし、目元なんかは特にそっくりです。

性格の方はどうでしょうか?

ちょっと気弱そうな感じがするけど、悪い人ではなさそうです。

むしろ優しそうな雰囲気すら漂っています。

「はい、わかりましたわ!」

と答えた後、自己紹介をしておきました。

その後、三人で食事を済ませた後で解散することになったのですが、

帰り際にもう一度挨拶することにしました。

「では、またお会いしましょう」

と笑顔で言うと、彼も微笑んでくれました。

その笑顔を見た瞬間、胸が高鳴るのを感じましたが、同時に不安にも襲われました。

この気持ちは何でしょうか?

今まで感じたことのない感情に戸惑いつつも、私はグレオスハルト様と共に部屋に戻りました。

それからはいつも通りの生活が続きましたが、時折彼のことが頭をよぎるようになりました。

その度にドキドキしてしまいますが、その理由が何なのかはまだ分かりませんでした。

そんな日々を過ごしているうちに、ついに舞踏会が開催される日がやってきました。

会場に着くと既に大勢の人がいて賑わっていました。

そんな中で一際目を引く存在がありましたので近づいてみるとそれはグレオスハルト様でした。

彼は私を見つけるなり駆け寄ってきて言いました。

「やあリアンシューベレナ!  今日は一段とお美しいね」

そう言って私の手を取ります。

突然のことで驚きましたが、それ以上に嬉しかったです。

その後しばらく二人で談笑していましたが、やがてダンスの時間になりましたので踊り始めました。

「リアンシューベレナ、君と踊るのは初めてだね」

そう言いながら微笑む彼に、私も微笑み返します。

それからしばらく踊り続けていましたが、やがて曲が終わりました。

名残惜しく感じながらも手を離すと、彼は私を見つめてきました。

その目は真剣そのもので、思わずドキッとしてしまいます。

そんな私に構わずに彼は口を開きました。

「リアンシューベレナ、君に伝えたいことがあるんだ」

と言って私の手を握りながら真剣な眼差しを向けてくる彼に対し、

私は緊張しながら次の言葉を待ちます。

そして、ついに彼が言いました。

「一緒に冒険しないか?」

「え?」

一瞬何を言われたのか理解できませんでしたが、すぐに冷静になって考えます。

まず、なぜ彼がそんなことを言い出したのか? という疑問が浮かび上がりましたが、

それよりも先に浮かんだのは嬉しさでした。

彼ともっと一緒にいたいという気持ちが強かったからです。

だからこそ、私は迷わず答えました。

「はい! 喜んで!」

「ありがとう、リアンシューベレナ!」

そう言って彼は私を抱き締めてきました。

突然のことに驚きましたが、それ以上に嬉しさの方が勝っていました。

それから私達は一緒に冒険に出ることになりました。

「リアンシューベレナ、これをあげるよ」

とグレオスハルト様が差し出してきたものは、青い宝石のようなものが付いた指輪でした。

それを見て首を傾げる私に、彼は言いました。

「それは魔法の指輪だよ」

そう答える彼に対して、私はさらに質問を投げ掛けます。

「魔法?」

首を傾げて聞き返す私に彼は優しく微笑みながら答えてくれました。

「そう、この指輪はね、君が持っている魔力を使って様々な効果を発揮することができるんだ。

たとえば、この指輪には水を出す力があるんだけど、それを応用して氷を作ることも可能なんだよ」

そう言って実演してみせる彼の手元を見ると、確かに指先から水が滴り落ちています。

その水を集めてカップの中の氷を作り出す様子はまるで手品のようでした。

それだけでなく他にも様々な効果があるようでした。

例えば光を放つことで周囲を明るく照らすことや、

風を起こして遠くのものを手元に持ってくることなども出来るそうです。

それを聞いて興味津々になった私は早速試してみることにしました。

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