【新】夫にはナイショ。※改稿版

崔 梨遙(再)

1話完結:3300字

 土曜日は午前診で終わり。その日も、私は最後まで居残った。


「北条さん、仕事はもう終わりましたか?」


 院長の三田村が声をかけてきた。


「はい、終わりました」

「じゃあ、行こうか」



 病院のベッドで愛し合って、三田村の腕枕で余韻に浸る。三田村は50代だが、性欲は強かった。私、北条瑞穂26歳は、三田村と深い関係になって3年になる。


「院長」

「なんだい?」

「私、親に結婚するように迫られているんですけど」

「お見合いかい?」

「そうなんです、今度は断れない雰囲気なんです」

「それは、おめでとう。祝福するよ」

「止めてくださらないんですね」

「僕は妻子持ちだよ、僕に止める権利は無いよ」


 私は止めてほしかった。止めてくれないだろうとわかっていたのに、涙が出た。



 私は、結婚した。相手は、相川樹、大手証券会社のトップセールスマン。29歳の主任だ。私は退屈な専業主婦になった。樹との間に、やっぱり愛情は生まれない。しばらく一緒にいたら、情が湧くのだろうか? 樹は子供を欲しがっていたが、そんな気になれないので少し待ってもらっていた。


 或る日の昼、樹から電話があった。


「俺のパソコンにあるパワーポイントデータを会社に送ってくれ」


電話で、指示通りデータをメールに添付して送った。


「ありがとう、今日も遅くなるから先に夕食をすませてくれたらいいよ」


 パソコンの電源を落とそうとして、デスクトップに“千秋”というフォルダを見つけた。気になって、フォルダを開いてみた。画像データと動画のデータがあった。樹と千秋が愛し合っている様が綺麗に撮れていた。日付を見ると、結婚前からのものと結婚後の最近のものまであった。“千秋データ:現在、身長154センチ、86,58,85(Dカップ)”と、腹の立つデータまで書いてあった。


 樹は浮気をしていた。


 この女、知っている。披露宴に来ていた。既婚者で子供もいる部下だと紹介された。確か、樹の1つ年下、28歳だったはずだ。こんな女のどこがいいのだろう? 絶対に私の方が美人だと思う。私の方がスタイルもいい。私は、とりあえずデータをUSBメモリにおさめた。離婚する時に役に立つだろう。私は、完全に冷めた。



 そして、土曜日の午後、自分が勤めていた三田村医院を訪れた。


「北条さんじゃないか、どうしたんだ?」

「ちょっと、お願いがあって来ました」

「まあ、コーヒーでも淹れるよ」


 私は、三田村がコーヒーを淹れている間に全裸になってベッドに潜り込んだ。


「北条さん、どういうつもりなんだね?」

「見ての通りです。いつもみたいに抱いてください」


 勿論、三田村はスグに全裸になりベッドに潜り込む。


「今日は、避妊しなくても大丈夫ですよ」



「避妊しなくてもいいって、今日は安全日だったのかい?」

「いえ、めちゃくちゃ危険日です」

「え! それはマズいんじゃないのか?」


 三田村は焦っていた。責任を取らされると思ったのだろうか?


「いいんです、私、院長の子供を産むんです」

「どういうことだい?」

「夫が浮気をしているんです。だから、院長と子供を作って夫に育てさせます」

「どういうことだ?」

「簡単です。安全日に夫に抱かれて、危険日に院長に抱かれればいいんです」

「なるほどな」

「これは夫に対する復讐なんです!」



 私は子供を授かった。私は元気な男の子を産んだ。樹は大喜びだった。私は笑いを堪えながら、喜ぶ樹を見ていた。“あなたの子供じゃないのに”。



 或る日、子供を私の実家に預けて、三田村医院の同僚だった小室民子とランチに出かけた。民子は36歳。女の私から見ても色気があって、グラマーだ。顔も年齢よりも若く見える。身長は162センチ、スリーサイズは96,63,90と聞いた。Gカップらしい。私は同じ女性として負けを認めていた。私は158センチ、90,58,86のEカップだった。私は民子のことを姉のように思っているので、思い切って樹が浮気していることを話した。


「そうなの?瑞穂ちゃん、かわいそうに」

「やっぱり離婚した方がいいかな?」

「養ってもらった方が楽でしょ? 私は離婚には反対。っていうか、ウチの旦那も浮気してるもん」

「そうなの? 腹が立ったりしない?」

「うん、だって、私も浮気してるもん」

「そうなの? 相手はどんな人?」

「22歳の大学生。付き合ってから2年よ。耕平っていうの」

「どこで知りあったの?」

「テニススクール。瑞穂ちゃんも来ない?ちょうど彼女募集中のカワイイ男の子がいるのよ。本当は私が食べちゃいたいくらいだけど、こうちゃんと付き合ってるからね、流石にそれはできないから、瑞穂ちゃんに譲るわ」

「テニススクール、行く!」



「瑞穂ちゃん、この子が前に話した明(あきら)君。カワイイでしょ?」

「相川瑞穂、27歳です。もうすぐ28歳になるけど、よろしくね」

「あ、お、俺、若松明です。よろしくお願いします」

「テニスが終わったら、4人でお茶しましょう」



「どう?明君。瑞穂ちゃんを見てどう思った?」

「す、すごく素敵な女性だと思いました」

「明君、テニスしてる間、瑞穂ちゃんばかり見てたでしょ?」

「いや、そんなことは……」

「瑞穂さん、すみません、俺、明と同じ大学なんですけど、こいつまだ童貞なんで緊張しまくってるんですよ」

「ちょっと、童貞とか言わないでくださいよ」

「まあ、いいじゃないか、こういうことは正直に言った方がいいんだよ」

「ちょっと、こうちゃんも私と付き合うまで童貞だったじゃない」

「それは、言わないでくれよ」

「どう?瑞穂ちゃん、明君のことどう思う?」

「めっちゃかわいい」

「気に入った?」

「うん、気に入った」

「じゃあ、連絡先を交換しないとね」



 スグに明とデートすることになった。私の方から積極的に誘ったのだ。明が童貞だと聞いてから、私は嬉しくてたまらなかった。かわいい明の初めての女性になる、きっと明は私のことを“初めての女性”として一生忘れられないだろう。ちょうど、樹から2人目の子供がほしいと言われ始めたところだ。私は、また計画を練っていた。


 明とは、ランチの後スグにホテルに入った。明は緊張しまくっていた。私の指示通りに動いてくれる。かわいい。


「今日は避妊しなくていいからね」

「本当ですか?」

「嬉しい?」

「はい、初めての相手が瑞穂さんで、避妊しなくていいなんて、最高の初体験です」

「私が女を教えてあげるからね」


「今日、安全日だったんですか?」

「ううん、めっちゃ危険日」

「大丈夫なんですか?」

「うん、私、明君の子供を産むから」

「そんなことをして、いいんですか?」

「簡単よ、安全日に夫に抱かれて、危険日に明君に抱かれたらいいんだから」

「僕の子供?」

「夫に育てさせるから、明君は何も心配しなくていいのよ」

「子供かぁ」

「女を妊娠させるって思ったら、ちょっと燃えるんじゃない?」

「めっちゃ燃えます」

「今日は1回で終わり?」

「いえ、何回でも」


 結局、その日、私は明に3回抱かれた。明は4回目をしたかったようだが、時間切れで、続きは次回と言うことになった。



 やがて、私は明の子供を授かった。産んでみたら、今度はかわいい女の子だった。樹はまた大喜びだった。やっぱり、私は笑いを堪えきれない。“あなたの子供じゃないのに”。


 実は、私は安全日に夫だけではなく三田村にも抱かれていた。三田村には、三田村の子だと伝えていた。私は、安全日、昼に三田村に抱かれ、晩に樹に抱かれていたのだ。三田村は、最初の子供を産んでから、養育費として毎月10万円を私の口座に振り込んでくれている。子供が2人になったから、毎月20万円の養育費が私の口座に振り込まれるようになった。私は笑いが止まらなかった。もう、樹の浮気なんかどうでも良かった。私は復讐に成功したのだ。樹にも、不倫で私を弄んだ三田村にも復讐が出来た。後は、明を私好みの男に育てるだけだ。私は充実した結婚生活を手に入れたのだ!



 私の知らないところで、樹が千秋とホテルのベッドで微睡んでいた。樹は、千秋の娘と息子の写メを見ていた。


「どんどん俺に似てくるなぁ」

「当たり前でしょ、あなたの子供なんだから」

「でも、よく考えたな、安全日に旦那に抱かれて、危険日に俺に抱かれるとは」







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