サブスク家族は有料オプションありき

ちびまるフォイ

たかしの価値

「こんな家……出てってやる!!」


そういって家出スタートの一人暮らしだった。


家出した手前、自分から家族に連絡するのはなんか負けた感じになる。

そんなプライドが家族との絆を絶っていた。


「……家族かあ」


最初は一人暮らしの自由を満喫していたものの、

今では誰もいない家に帰るのが寂しくて心細い。


家族が待っているのがどれだけ良いのかと、

自分が寂しがりやであることを思い知らされた。


ルームシェアも始めたが長くは続かなかった。

気を使わない家族とはやっぱり違う。


見つけたのは「サブスク家族」だった。


「……スタンダート会員で両親が家についてくる、ね」


サブスク家族のいっちばん安いプランで家族をはじめた。

家に帰るとすでに電気がついている。


「あんた、こんな時間までなにやってんの。

 遅くなるなら遅くなるっていいな」


「まあまあ母さん。たかしも年頃なんだ。こういう日くらいあるだろ」



「え……」


だれ?とまで言いかったが、すんでのところで「サブスク家族」を思い出した。

事前に契約した家族がそこには待っていた。


「たかし、仕事は忙しいのか」


「あ、は、はい……」


「なんだその他人行儀な返事は」


「あ、うん」


もっと事前説明でもあるかと思った。

家族は最初から「家族」の距離感で接してくる。


「本当に家族なんだ……」


「なに言ってるんだ?」

「いいから早くごはん食べちゃいな。洗い物ができないでしょ」


「あうん!」


どこか懐かしいやり取りに涙が出そうになった。

自分はこんなにも人に飢えていたのか。



ーーサブスク家族から1ヶ月が経った。



「いってきます、母ちゃん!」


「あんた寝癖でとる。ちゃんと髪くらいとかしな」


「はいはい」

「"はい"は1回」


朝のなんでもないやり取りが楽しい。

今では本物の家族以上に「家族」に近い。


家族の温かさにすっかり魅了されてしまい、

もうスタンダート会員では空き足らなくなってきた。


「プレミアム会員だと……え!? 兄弟もしくは姉妹がついてくるの!?


 さらにラグジュアリー・プレミアム・インフィニット会員なら、

 双子の妹から好意を寄せられる設定にもできるだって!?

 そのうえ美形保証!?」


その映像を脳内で考えただけで、自分がギャルゲの主人公にでもなった気分になる。

考えるよりも早く最高ランクのサブスクに契約更新した。


契約開始日に家に帰ると、待っていたのは双子の美人姉妹だった。


「お兄ちゃんおそい! 今日ゲームやってくれる約束じゃん!」

「私たち待っていたのに……」


「お、おお。ごめんごめん……!」


もう嬉しくて顔がにやけてしまう。

異世界転生でハーレムよりも、

現実世界での充実のほうがずっといいなと思い知った。


恋人や友達とはまた異なる距離感の人間関係がこそばゆく愛おしい。


「もう絶対この契約は解除しないぞ……」


たとえ破産したとしてもサブスクを絶やさないと、

心のなかで神に誓ったその時だった。


目出し帽の男がずかずかのサブスクで構築された愛の巣へと押し入った。


「全員うごくな! オレ達は強盗だ!!」


家族がたくさんいることで裕福に思われたのだろうか。

強盗の思考回路はわからない。


ただ自分の中にはかつて感じたことのない怒りと使命感が燃えていた。


家族の団らんを壊されたという怒り。

そして、この家族の笑顔を守るという使命感。


「俺の家族に! 手を出すなーー!!」


陰キャオリンピックの日本代表の自分でも、

今回に限っては勇気が背中を押してくれた。


強盗に向かって鋭いパンチを繰り出す。


そして勢い余って強盗が前に突き出していたナイフにセルフで突っ込んだ。

みぞおちに深々と刃が突き刺さる。


「うそん……」


流れる血を見て気分が悪くなりその場に倒れた。

強盗も強盗でおおごとになったと慌てて逃げてしまった。


すぐに救急車が駆けつける。


「大丈夫ですか! すぐに病院に運びますね!

 家族の方ですか!? 輸血必要なんで一緒に来てください!」


救急隊は顔こそ似てないが、

同じ屋根の下に暮らしていたサブスク家族に目を向ける。


金で始めた関係だが、みんな俺の大事な家族だった。

そこにはお金以上のつながりがあった。



「「「 いえ家族じゃないっす 」」」



全員が冷ややかに答えた。

つながりを感じていたのは自分だけだった。


救急車にひとり乗せられ病院へと搬送される。

ナイフの外傷よりも、

サブスク家族があっさり否定したことのほうがダメージが大きい。


あんなに楽しそうにしていたのも結局は演技だったのか。

演技の裏にも絆がわずかでもあると信じていたのに。


「うう……くそぅ。みんな嘘つきだ……家族なんてクソだ……」


天涯孤独だと突きつけられた気がして落ち込む。

さめざめと泣いているうちに病院へ到着した。


救急隊員がストレッチャーを運びながら話す。


「急患です! 家族の方は!?」

「もう来てます!」


その言葉に耳をうたがった。


「えっ? 家族来てるんですか?」


家族とはケンカ別れしてしまった。

昔から折り合いが悪く何をやってもケンカばかり。


居心地悪い家から逃げるように一人暮らしを始めたのに。


それでも家族は来てくれた。

その事実に涙が自然と流れてくる。


「ううっ……嬉しい……。やっぱり家族なんだ。

 サブスクなんかじゃない。本物の家族なんだ……!」


どんな関係だとしても家族のピンチには駆けつけてくれる。

それが本当の家族なんだ。


サブスク家族にはない本当の絆がそこにあるんだ。


「ご両親が来ました!」


両親がストレッチャーに駆け寄った。

その顔は心配している顔そのものだった。


ああ、やっぱり、家族っていいなぁ。

自分を思ってくれる人がいることが何よりも嬉しい。


駆け寄った母親は慌てた様子でまっさきに訪ねた。




「たかし、あんたちゃんと生命保険は入ってるわよね!?」

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