舞台の幕が下りるまで

代永 並木

手品師ゼラ

「レディースアンドジェントルマン」


舞台の幕が上がる

舞台には1人の人物が立っている

黒髪の人物で仮面を付けていて表情が見えない

燕尾服を身に付け大きな帽子を被っている

手品師のような格好をしている


「皆様、僕の舞台へようこそ、今宵は奇跡をお見せしましょう。イッツアショータイム!」


その一言から手品が始まった

指を鳴らしトランプを取り出す

有名な手品から独自に編み出した手品まで幅広く披露する

予定していた全ての手品を披露する

披露し終えた後、帽子を外し深く頭を下げる

拍手の中、舞台の幕が降りる


「これにてゼラの手品は終了です。次は……」


アナウンスが流れる

ゼラは舞台から下りる


「お疲れ様です。観客の反応も上々、流石です」


スタッフの1人が近づいてきてタオルと水を手渡す

受け取り仮面の下からストローを入れて器用に飲む


「そりゃ僕は天才だからね」


自信満々に言う


「流石天才手品師」

「ゼラさん完璧だったぜ!」

「あっ、ゼラさん、騎士団から伝言が」

「騎士団から?」

「本部へ来て欲しいと」

「ふむ、分かった。僕の出番は終わりだし向かうかな」


スタッフに挨拶をして劇場を出る


「さて、騎士団はこっちだったかな」


騎士団に歩いて向かう

騎士団とは魔物を討伐する人々が集まって結成された組織

所属する者は騎士と呼ばれている

魔物とはダンジョンと呼ばれる物から溢れ出した異世界の存在である


「あっ、ゼラさんだ」

「舞台終わりかな」

「ゼラさんこっち見て!」

「おっと、これは不味いね」

「手品見たい」


ファンが集まってくる

数が多い対応すれば時間がかかるだろう

指を鳴らすと大量のトランプが現れゼラの姿を隠す

トランプが全て地面に落ちた時にはゼラの姿が無くなっていた


「どこ行った!?」

「凄っ」

「一瞬で消えたぞ」

「これも手品?」

「異能?」


ファンは必死に周りを探すが見つからない

少し離れた位置でファンが居ない事を確認してホッとする

得意の早着替えで服装を変えた


「全く歩いて向かう予定だったのに、予定より早く着きそう。あの人苦手なんだよなぁ」


ファンにバレると厄介なので早足で騎士団に向かう

10分程度で騎士団の本部に着く

騎士団本部は大きい

門があり警備員が常駐している

門に近づくと止められる


「騎士免許提出お願いします」

「はい」


ポケットから取り出して見せる


「確認終わりました。団長は執務室に居ます」

「ありがとうございます」


門を通って建物に入る

警備員も騎士団所属の騎士

そのまま執務室へ向かう

本部で仕事をしている人々とすれ違う

慌ただしく早足で移動している


「少し慌ただしいな」


(僕が呼ばれるくらいだ。何かあったのは分かるが)

執務室は入口を通り真っ直ぐ伸びる通路の先

ほぼ忘れる事の無い位置にある

扉の前に立つ

軽く扉をノックする


「入れ」


中から声がする

扉を開けて中に入る


「来たかゼラ」


椅子に座り何かの資料を見ていた女性が顔を上げてゼラを見る

左目に大きな傷を負っている30代の女性

騎士団長であり騎士団の創立者の1人

ゼラは周りを見渡す

前に来た時と何も変わっていない


「相変わらず殺風景な部屋」


部屋の中は備え付けの部屋の設備以外だと一つの机と女性が座っている椅子と全然本の入っていない棚しかない

正しく殺風景な部屋

他にあるとしても机に置かれた道具と写真立てくらいな物


「無駄に物を増やす趣味は無い」


騎士団長は淡々と答える


「相変わらず冷たい対応……それで何用ですか? わざわざ僕を呼ぶなんて」

「夜の活動区域で問題が起きてな」

「問題ですか?」

「まず夜は知っているな?」

「見た事は無いですが噂程度には」


夜、騎士団に所属していない人物で魔物狩りを単独で行っている

謎に包まれた女性


「問題と言うのはその夜が活動している区域に魔物が集まっていると言う物だ。今夜騎士団で殲滅作戦を行うつもりだ」


(活動区域は居住区に近い。魔物が集まっているのは気付かなかったな)

一般人が住む近くで魔物が集まるのは危険

一般人ではほぼ魔物に対応が出来ない


「活動区域はここだ」


地図を広げて指を差す

住宅が並ぶ場所に近い場所を指差している

城壁はあるが魔物に攻められたら簡単に壊れてしまう


「これは急がないと行けませんね」

「あぁ、規模は大きくないが騎士団で対処する。その掃討作戦に参加して欲しい」

「成程、確かにこれは僕も出向かないと……それで時間は?」

「19時だ。もし夜に会ったら立ち入らないように言ってくれ」

「分かりました。準備を整えておきます」

「用件は終わりだ」

「それでは失礼します」


扉を開けて部屋の外に出る

(19時か。まだ時間あるな)


「買い物でもしていくかな」

「珍しい」

「うん? あぁ天音さん、ちょっと騎士団長に呼ばれて」

「騎士団長に? 今夜の作戦に参加?」

「鋭いですね」

「規模は大きくないとは言え気を付けて」

「肝に銘じておきます。あっ、誰が来るかとか知ってます?」

「いや知らない。数人の異能騎士は集めるとは聞いてるけど」

「なるほど、ありがとうございました」


(数人の異能騎士か)

会話を終えて本部を出る

店に言って数日分の食べ物を買う


「これで良し、さて用事を済ませるとしよう」


家に向かう

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