第2話 2番目に落ちたらまた頑張ればいいじゃない

 私がリーダーのアイドルグループ『クリスタル☆エレメンツ』のメンバーは、私を含めて5人。他の4人も私が参加したオーディションに参加していた子で固めたため、ある程度の認識と同じオーディション落選組と言う同志感も強かった。そんな訳で、私達は元気にアイドル活動を続けている。

 とは言え、始めたばかりでまだまだ知名度も低く、地下のライブハウスもまだ満員に出来ない。だけど、支えてくれる運営のスタッフもいい人ばかりで、いつかドームコンサートも開きたいって言う夢に向かって邁進中。


 そう、アイドルになる夢が叶ったからって、そこからがまた新しいスタートなんだよね。頑張るよ、私。


 両親も応援してくれているし、学業との両立は大変だけど、出来る範囲で上手く立ち回ってる。結構行けそうなんじゃないかな。ただ、今はまだそんなに人気じゃないからこそ両立出来ているのかもだけど。

 CMの仕事とかドラマの仕事とか来たらどうなるかなぁ~なんて、妄想は広がるばかりだよ。


 アイドル活動を始めて3ヶ月、ついにグループ初のCDが発売される事になった。そのキャンペーンの一環で、グループ初の人気投票が行われる。たった5人で人気投票と言うのもちょっと茶番ぽいけど、やるからには他メンバーには負けてられないよね。

 だって私、センターなんだもん。センターの実力をきっちり数字で証明しないと。


 この投票方法、アイドルらしくCDについている応募券で一票投票出来る。みんな口に出さないけど、ライバル心でちょっとギスギスしちゃってる。うーん、こう言う時はリーダーが上手くまとめなきゃなんだけど、何しろ初めての事で私もどうしていいのか分からない。年齢はほぼ一緒だけど、年下も年上もいるからね。

 私が1位なのは当然としても、他の子達の関係が悪くならないようにしなくちゃ。ああ、リーダーって大変だなぁ。


 CD発売から一ヶ月後、投票が締め切られる。この投票効果で、CDはかなりの枚数をさばく事が出来た。雑誌の週間ランキングにも顔を出すくらいに売れたのだ。

 私達は自分達の人気に大いに喜んだ。当然運営さん達も大喜び。これから私達はブレイクの波に乗っていけるかな。そう思っていたんだ。


 けれど、そんな私を落胆させる出来事が突然やってきた。そう、選挙結果の発表。絶対の自信を持っていたセンターの私の結果が――2位だったのだ。

 1位じゃない。2番目。頑張ってアイドルしていたのに、トリさん、いや、師匠にみっちり鍛えてもらったのに。そりゃメンバーの他の子もみんな魅力的で実力もあったけど、私だって負けてないと思っていた。なのに――。


「千春ちゃん、どうやら数字は正直なようね」

「み、深雪ちゃん……」


 私に声をかけてきたのは冬野 深雪みゆきちゃん。今回の選挙で1位になった子だ。年齢は私と同じだけど中性的なルックスで手足が長く、モデルのような美貌が特徴的なクールビューティーが売りだった。私はどっちかと言うと可愛い系で……って自分で言うのもちょっと恥ずかしいけど、とにかくタイプが正反対。

 そっか、世間的にはかっこいい系の方が人気なんだね。


「リーダー、今までグループを引っ張ってきて御苦労様。でもこれからは私が引っ張ってあげる。人気1位の私がね!」

「あ、ええと……。うん、任せたよっ」


 ドヤ顔の深雪に、私は作り笑いで答えるのが精一杯だった。別に1位じゃなくても、2位につけただけでもそれは嬉しいはずなのに。センターじゃなかったら、きっと素直に投票結果を受け入れられたはずなのに――。

 私の心は深く沈んで、中々浮上する事が出来なかった。


 その後、この投票結果に合わせてメンバーの立ち位置の再編成が行われる。その施策が更に私の精神を削っていった。

 センターじゃなくなった私は、確かに責任も軽くなって精神的にも楽になった。人気がなくなれば深雪ちゃんのせい。私は責任を問われない。


 だけど、センターじゃなくなった、私を応援するファンを失望させたと言う事が単純にショックだった。もっと頑張っていれば、あの時ああしていれば――。

 人前では平常心を保っていられても、一人になった時に反省点が一気に押し寄せてくる。今の自分がベストを尽くした結果だとは、どうしても思えなくなってしまう。


 人気投票で再編成が行われてから半年後、私はついに精神的な限界を迎えてしまった。説明の出来ない不安感が私を家から出させなくなった。家から出られなくなってしまったのだ。

 メンタルが弱いと言えばそれまでの事。そのせいで私は期限未定の休業状態になってしまった。応援してくれるファンのためにも頑張ってアイドル活動を続けないといけないのに、そう思えば思うほど心がずんと重くなって動けなくなってしまう。


 クリスタル☆エレメンツの公式サイトを見ると、私の抜けた4人が必死でアイドル活動をしていた。私が抜けてブレイクしちゃったら私、いらない子確定だな。

 落ちた心はどこまでもマイナス思考に沈んでいく。このままじゃダメだ、ダメなのに……。


 自力での復活を無理と考えた私の頭にすぐに思い浮かんだのは、私をアイドルにしてくれたあの森のフクロウだった。師匠なら、もしかしたらこんなダメダメの私を導いてくれるかも知れない。

 そう思うといてもたってもいられなくなって、気がつくと私は家を出ていた。久しぶりに浴びる日の光がまぶしい。


 鳳凰神社の裏の森に足を踏み入れると、急に突風が吹き荒れる。風を避けるためにガードしていた手を下ろすと、そこには見覚えのある丸っこいフクロウが。


「どうしたホ? また俺様を頼りに来たのかホ?」

「師匠、私を鍛え直してください!」

「ホゥ……? 覚悟は良いのかホ?」

「お願いますっ!」


 トリ師匠は何も言わずに私の話を受け入れてくれた。きっとどこかで見守ってくれていたんだ。そうして、困った時にはここに戻ってくる事まで見越して……。

 全く、師匠には敵わないなぁ。


「何ぼうっとしてるホ! ついてくるホ!」

「は、はいッ!」


 そう言われてついていくと、また急に突風が吹き荒れ、気がつくと謎のレッスンスタジオに足を踏み入れていた。


「師匠、ここは?」

「細かい事はいいんだホ! さあ特訓を始めるホ!」


 こうして、不思議なレッスンスタジオで私はみっちりと鍛え直される。アイドルの基本技術は勿論、お豆腐だったメンタルも徹底的に鍛え直された。イメージトレーニング、瞑想、禅の教え、その他の精神トレーニング。これらを繰り返し叩き込まれる事で、少しずつ私の精神は以前の輝きを取り戻していく。



 その頃、私の抜けたクリスタル☆エレメンツは人気低迷に陥っていた。5人が揃ってこそのパフォーマンスだったため、その重要メンバーが1人抜けたと言う事がかなりの痛手になってしまっていたのだ。

 ネットでは私が抜けた原因が様々なデマ込みで語られ、人気1位になった深雪の票も不正が疑われる始末。そんなこんなのマイナス要因が重なって、ついにはグループ解散の危機にまで追い込まれてしまっていた。


 クリスタル☆エレメンツは、人気復活のために大きい会場でのライブを計画する。ファンの多くは、それを解散ライブだとささやきあっていた。正直、低迷した今の人気でその会場をお客さんが埋めると言う事は不可能に思われたからだ。



 計画発表から3ヶ月後、ついにそのライブの日がやってくる。クリスタル☆エレメンツがこのライブで見納めかも知れないと心配したファンのおかげで、奇跡的に会場の7割をお客さんが埋めていた。


 時間になってライブは始まり、4人のメンバーが曲に合わせて様々なパフォーマンスを披露する。以前は元気いっぱいにはつらつとしていたメンバーも、どこか疲れが顔に見えると言うか、全てのパフォーマンスにおいて精彩さを欠いていた。見ているファンも、もうこのグループは終わりなんだと言うお通夜状態。

 そうして、本来私が中心となって歌うはずの曲のイントロが流れ始める。


「みんなー! 元気がないぞーっ!」


 この4人のステージに突然現れた乱入者の声。その声を聞いた会場はにわかにざわつき始める。そう、満を持してここで私がステージに登場したのだ。ライブ途中で休養していたリーダーが復活。これは大きなサプライズとなって、会場を大いに沸かす結果となった。

 私の登場はメンバーにも伏せられていたので、ステージ上でもメンバーたちは困惑したり涙ぐんだり。ゴメンね、心配かけて。


 とにかく、こうして5人に戻ったクリスタル☆エレメンツは、本来のパフォーマンスを披露して大盛況で終わる事が出来た。翌日からは私の電撃的な復活が話題となってグループの人気が復活、いや、それ以上に盛り上がる結果となる。

 注目される事でメディアからの取材も増え、順調に仕事も増えていった。


 気がつけばCM、ラジオにテレビのレギュラー番組まで。露出が増えれば更に人気も出ると言う相乗効果で、夢だったアニソンにも曲が採用される。

 メンバーもやっぱり私がいないと成り立たないと言う事で、すっかり仲直り。深雪も、もう偉そうな態度を取る事はなかった。私達、ズッ友だよねっ。


 このライブから3年後、ついに私達の人気は大人数の国民的アイドルに追いつくところまで駆け上がっていた。アイドル界の2番手の人気を獲得したのだ。後もうちょっとで国民的アイドルの人気にも手が届くよ。

 これからも頑張って、いつかアイドル界の頂点を取ってやるっ!

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