黒猫の笑顔

餅戸

第1話 出会い

 私の実家付近は、野良猫の保護活動と、繁殖行為を抑えるための医療措置をとるための罠を仕掛け、その料金も少し負担されるという猫に対する保護活動が強い地域である。その為早朝や夕方になると、野良猫や飼い猫が餌や寝床を求めて道路を歩いている姿をよく目撃する。

 私が深く関わった1匹の黒猫について、忘れないように記しておきたい。

その猫は元飼い猫で近所の高齢者の家から流れてきたと、近所の人から聞いていた。

確かに葬式が行われていた記憶があった。その際に、あの黒猫はおいていかれたのだろう……親族などがあの家に来ていた気がするが、深く考えないようにする。

急に野良として生きることになった黒猫は、よく怪我をしていた。背中付近をやられていたり、わき腹を抉られていたり…見ているのも辛くなる怪我が多かった。

 ある時を境にその黒猫は傷を負う事もなく、強く生きていくことになる。

それは、人になつきやすい事。元飼い猫の力を生かし、何か危険が身に迫ったら子供にだって近寄る、そういう人を味方につける黒猫だった。

私が関わり始めたきっかけは、早朝仕事に行く際にハクビシンと一緒に居る黒猫を見て、走りよりハクビシンに対してそこらへんにあった小さな石を投げた。自分の投擲力が良くて助かったと、思ったのは久しぶりだった。ハクビシンは石と走り寄る人間に驚いたのか急いで路地の方へと走っていった。

黒猫は私の顔を見て、ハクビシンとは反対方向に走り去った。そりゃあ石投げられたらビビるよなと少し悲しくなりながらも、ケガが増えなくて良かったと思い職場に向かった。職場でもあの黒猫の事が頭から離れなかったが、家で飼うことは難しいだろうと思った。先住の犬が野良猫と仲良くできるとは思えなかったからだ。もし先住の犬と仲良く過ごしたとしても、家族に猫アレルギーの人がいる。流石に断られるだろう。

 そんなことを考えながら仕事を終えて、帰宅までの道を歩いているとあの黒猫が私の実家の玄関前に座っていた。そこに居られると扉開けれないのだが…と思いながら怖がらせないように近づく。黒猫は一切動かず私に対してにゃあと鳴く仕草をした。声はきこえなかった。そのまま私の足の間を素通りして猫は実家の庭から出て行った……見た目以上に、人懐っこい猫なんだなと私は感心しながら、ただいまと家のドアをくぐり、黒猫について聞いてみた。そこであの猫が近所で亡くなった方の元飼い猫という事実と、外見の割に人懐っこい事で有名と聞いたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る