第2話 飲み込みと喉越しはあっても困らない
船は無事にラジョーア大陸にたどり着いた。
西日が1人と1個を眩しく照らす。
カインに礼を言いユーザ達は行く。
「ここはウォータスだったかな?水資源が豊富で水の国とも言われてる。まあそんな事はどうでもいいか。
まず宿を探そ…ん?」
ユーザが向こうを見て何かに気づく。
「人……倒れてないか?」
駆け寄ると確かに男が気を失っていた。足は血まみれで重症に見える。
「おい聞こえるか、しっかり、しっかりしろ!」
何度も呼びかけると、何とか意識を取り戻し開口一番
「チェンジャーの野郎どこ行っ、うぅ!」
と言いかけ、右足を抑えてうずくまる。
「その足じゃ無理だ。見た感じもう片方はいけそうだな。肩捕まって!」
ユーザは手を貸し
「宿の前に診療所探しか。」
と呟き、男が苦しくないよう、ゆっくり歩きだす。
「その人助けるの?」
ハーズが尋ねると
「前の記憶が関係してんのかも分かんないけど、なんかこういうの見るとほっとけないんだ。」
苦笑いしながら答える。
「それじゃあ、ボクを助けたのも」
「そんな所かな。」
ハーズはそんなユーザに少し興味を抱きながらも
「ボクも協力する。」
左腕の力を補助する。
「あぁ助かる。ハーズ。」
「ん?なんかスースー聞こえない?」
ハーズは何か寝息のような呼吸音が聞こえたような気がした。
「何も聞こえないぞ。気のせいだろ。」
ユーザが返す。
「そっか、気のせいか……」
その会話を聞いていた男は
「あんたさっきから誰かと会話してんのか?」
言い出し、ユーザは
「あっあぁそうなんですよ。信じられないと思うけど。」
慌てて返すと、
「いや信じる。その籠手が喋ってんだろ。」
「え?まぁそうなんだけど…」
男はすぐ状況を受け入れる。
ユーザ達は内心
(こいつ飲み込み早いな…)
と思った。
その後クリゴと名乗った男にいろいろ聞かれ、出会いの成り行きを説明したユーザ達だが
「あぁ、そういう事なんだな。」
の一言で全て済ますから、
(こいつ、飲み込み早いな……)
と言う気持ちが高まっていった。
「とまぁ、オレたちの話は大体終わったから、なんで倒れてたんですか?」
するとクリゴは
「チェンジャーってヤツにやられた。」
と言い表情を曇らせる。
「それはどんなヤツだ?」
「とにかく強い。オレはこの辺の地域で唯一怪人を倒せるんだがヤツにはかすり傷も付けられなかった。」
「本当か!?」
ユーザがとても大声で驚く
「いや………そのまま続けて。」
「その後ヤツは『エンマダイオー』だとか訳のわからん事を言い出た後オレのナタを奪おうとした。そして、俺はその、ナタを、あ、ぁあああ!」
そこまで言うとクリゴはその場で崩れ落ちて泣き始めてしまった。
「大丈夫?それ位大事な物だったんですね?とりあえずチェンジャーっていうヤバい奴がいたのはわかった。行こう。」
と一行がまた進み出した瞬間、
「屈め!」
何かの気配を感じ取ってユーザが叫ぶ。
空から彼らを襲ったのは翼がマントの様になっているワシの怪人だった。
怪人の眼光はクリゴを捉える。
「やるしか無いな。せめて槍があればな…」
ユーザは怪人を睨み、構えをとる。
「お前の相手はこっちだイーグレブ!」
ユーザがワシ怪人のイーグレブに呼びかける。
イーグレブは即座に標的をユーザに変える。
「もしかしてボクがあんな事したせいで怪人が………」
ハーズは自分が復活したときに暴れたことを申し訳なく思う。
「いや、オレ昔から怪人に懐かれる体質だから最初からアイツの目的はオレだ。だから責任はオレが取る。」
相手の間合いを計りながら言う。
「とにかくクリゴさんから遠ざけて倒すぞ。」
「わ、わかった!」
「キアエェー!!」
イーグレブが羽を広げ飛び掛かる。
「よっ」
ユーザは体を横にしてかわす。
地面に着地したイーグレブは羽ばたいて、ユーザを空中に上げる。
「キイィアー!!」
空中上がった体にイーグレブはドロップキックを叩き込む。が、
「甘い!」
「しっかり捉えたよ!」
ハーズが左腕で両足を掴んでいた。
ユーザ達は双方の力を合わせ左腕でイーグレブの胴体を引き寄せ
「「破壊!」」
みぞおちに拳骨を叩き込む。
「カッアアァー!」
断末魔を上げ、向こう側に吹っ飛んで行く。
「出会って数時間でこれか…」
「ボク達の相性………もしかしていい感じ?」
ハーズがはにかみながら言うと
「一息つくのはまだ早いぜ。さっさとトドメを刺すぞ。」
「だね。」
ユーザは着地し、イーグレブが落下した場所へ向かう。すると
「キィアーー!」
突然声が聞こえたと思ったら向こうから何か飛んでくる。
何とか避けるが
「そうだった!アイツは羽を飛ばしてくるんだ!」
というユーザの声にさっきまでの余裕はない。
羽はさらに飛んでくる。
今度も肌には当たらなかったが、籠手の紐を掠め取りハーズが外れてしまう。
「ヤバ、取れちゃった!」
「マジかよ!」
無防備のユーザにイーグレブが馬乗りで飛び掛かる。振り解こうとするが力負けして、完全に相手のペースだ。
「離せぇ!」
イーグレブはそのままユーザを持ったまま飛び上がる。そのまま振り回して空中で揺さぶった後ウォータスの街に投げ落とす。
それを見ていたハーズとクリゴは彼を助けるため力と知恵を振り絞る。
ハーズは何とかクリゴの所まで飛んでいき言う。
「アイツを倒せそうな方法ってないの!」
クリゴは自分の所持品が入った布袋を漁っている。
「ダメだ、武器になりそうなもんは全部盗られちまってない。」
あくまでも奪われたのはナタだけで他の所持品は無事だったのだ。
取り出したのは傷ひとつない綺麗な水筒だった。
「目ぼしいモノこれくらいか。ナタみたいにコイツも喋ってくれればな〜。」
「え!まさかクリゴさんのナタって」
「あぁ言ってなかったな。付喪神になって助けてくれたんだ。」
「あぁだからボクのこととか信じれたんだ………うん?」
クリゴが取り出した水筒にハーズはまた違和感を感じる。
「やっぱりスースー聞こえる…この水筒の寝息かも!」
「え?何も聞こえんが…」
「もしかしてボクしか聞こえない?じゃあ、クリゴさん。ボク付けて早く!」
「おう、」
「そいでこの水筒に呼びかけるんだ!」
クリゴは促され左腕にハーズを付けて水筒を握る。ハーズとクリゴは呼びかける。
「おーい起きろー!クリゴさんが呼んでるぞー!」
水筒は飛び起きて、
「何ぃ、じゃあ寝てらんねぇぜ!」
水筒が飛び起きる。
ハーズは「寝起きで悪いけど、投げるね」
とぶん投げる。
「でも何でこんな事を、」
クリゴの疑問に対しハーズは
「付喪神は皆何かしらの特性を持ってるはず。だから彼も、」
「そう言うことか!」
「いやまだ全部言ってない………飲み込み早いなぁ〜」
勝手に納得したクリゴを見てやっぱ飲み込みが早いとハーズは思うのだった。
その頃ユーザは瓦礫から起き上がり、
「クッソ〜槍さえありゃあんなヤツ……なんでオレ槍にこだわったんだ?自分の事なのに碌に理解できないなんてもうっ!」
大騒ぎのウォータスの街で1人槍探しに翻弄していた。
何故か数ある武器でも槍を欲しているのかはユーザでさえもわからなかった。
そこにクリゴの水筒が飛んできた。
「え?水筒?」
「てやんでい!オレの名はトース。所でオレぁ何すりゃいいんだ。」
ユーザは訳が分からず
「槍を持って来い槍を!」
意味もなくと怒鳴る。
「あいわかった!(分かってない)じゃあまずぁ景気付けの一杯だなべらぼうめぇ!」
そう言うと体をユーザの口に付けて、中身を飲ませ始める。
「おい、何すんだ、臭いやめろぉ!ぐはがほぉ、ああ!」
「どうだ、オレの酒は。オレの中の液体は全部強めの酒になんだべらぼぅめぇ!」
トースはユーザの喉に無理矢理酒を流し込んでいく。
「キタキタキタキタアァー!!ヒュラホホォホイホーイ!」
ユーザは顔を真っ赤にしながら奇声を上げる。
「んなっ!?まだ盃二杯程度だぞ?完全にベロンベロンじゃねぇか!コイツ下戸か?」
完全に酔ったユーザは近くの落ちてる棒を拾い
「ヤラホホォーイ!」
棒を壁に引っ掛け上へ上がりながら、
「アラッテテェーイ!」
その勢いで空中のイーグレブの隣まで来てしまった。
「クエ?!」
イーグレブは羽を慌てて飛ばす。
「ウオオオオ!」
羽が右腕に刺さるが、動じない。
「死ねぇぇ!ゼリャアアアアア!!」
槍をドタマに突き刺し劇的勝利を納める。
そして、ユーザはイーグレブを倒した後、そのまま動かなくなってしまった。
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