使うモノ語り
イヤマナ ロク
第1話 コテコテな出会い?
「キミぃ、もう負けてるよなー。その武器を頂戴よー?」
青年はその場にへたり込んでいる相手に向かって冷静に言う。
彼の足は血塗れになっていて完全に動かなくなっていた。
「だ、駄目だ!こいつをやるくらいなら……死んだ方がマシだ!」
相手の男はナタを持つ右手に力を込めて言う。
「あっそ……じゃあ死んでくれい!」
青年は思い切り剣を振り下ろす。
「やめろぉー!」
どこからかそんな声が響き渡り、その瞬間男に握られていたナタが消え、青年の剣撃を受け止める。
ナタは宙に浮いているのだ。確かにその場に浮いているのだ。
「これ以上兄貴を傷つけるなぁ!」
ナタは空中で暴れまわり、青年に攻撃していく。
青年は、攻撃をいなしながらこう言う。
「へーしゃべるナタなんてあるんだぁ………面白そー……なおさら欲しくなった!」
青年は左手でナタの柄を掴む。
ナタは暴れ手から逃れようとする。
青年の左手はそれをに抗おうと必死に掴み込みぷるぷると震えていた。
「なるほどー?つまり君はこの人これ以上傷つけて欲しくないんだねー。じゃあもう傷つけないからそのかわり僕と一緒に来てくれるー?」
「やめろ、俺の事はいいからそいつの所へ行くな!ヤツはおそらくかなりの危険人物だ。そんなヤツのとこ行くくらいなら俺の命なんて」
「そんなのダメだ!兄貴は絶対死んじゃダメなんだ!生きてなきゃヤダ!」
ナタは必死に叫ぶ。
その会話をずっと聞いていた青年は
「じゃあやっぱ貰っていっていいんだ。じゃあねー。」
と言い、反対側に歩き出す。
「キミはあの人の事好きなんだねー。」
「兄貴はいつ何時でもオレを大切にしてくれたんだ。だから兄貴がオレも大好きで。」
ナタは男の事を名残惜しむような声色で話す。
「いい関係じゃないかー。ところで名前は?
ボクはチェンジャー。」
「オイラはナギ。ちなみに意識を持ってしゃべれるようになったのは、ついさっきなんだ。」
「そーなんだー。じゃあ彼とも実質初対面なんだー」
チェンジャーは心の中で呟く。
(だとしたらアイツ……飲み込み早いなー………)
時を同じくして、水の国ウォータスの繁華街。
「はるばる来たが、良い事業は転がってねぇかなぁ。」
袴に袖を通した青年が呟いていた。
彼は人目につかない様に手を下げた状態で手を広げたり閉じたりした。
すると彼の手に一枚の紙が出現し即座に目を通す。
「うーん………どれもこれも何かの後追いばかり。何か……先行者利益を確実に得られる様な……」
すると青年が立っていた目の前の中古品店の前に置いてある釣り竿が
「うん?今………動いたか?」
動いた様に見えたが
「気のせいか。」
青年は繁華街の大通りを左に進んでいってしまった。
それから少し経ってから
「ハァ、ハァ、キンノミヤ様は……何処へぇ?……ハァ………この国のこの辺りにあるのは間違いないはず!」
1人の男が肩で息をしながら人探しをしていた。
「うん?」
突如彼は懐に違和感を感じ覗き込むが
「………何も無いな。」
懐には先程から入れているハサミが変わらず入っていた。
「キンノミヤ様、何処へ〜!」
男は捜索を続行し大通りを右に進んでいった。
時を同じくしてウォータスの市民向けの診療所。
「お前は残念ながら………助からない。」
「そんな!?たっただの切り傷で!」
「いやいや〜嘘に決まってんじゃーん!!」
患者に対し素っ頓狂な受け答えばかりする医者がいた。
「あれれ?」
医者は部屋に備え付けられている病床を不意に注目し出す。
「これここにあったか?なぁお前分かる?」
「いや患者に聞かないで下さいよ。知らないですって。」
医者は青色の枕カバーの位置が気になったが
「そうだな?知らないよなぁ、ワタシの方が知ってるからワタシの勝ち!」
「何がですか!!」
患者と医者は受け答えに夢中で枕カバーが微かに動いた事に気づいていなかった。
時を同じくして、超常大陸コダイ砂漠の海岸沿い。
1人の男が気を失って眠っていた。
「うーん……よく寝たなぁ…ん?…何でここにいんだっけ?えと、確か誰かに頭をどつかれたような…」
ブツブツと言ながら自分の状況を確認しようとしている男の目と耳に何かが止まった。
向こうに何か落ちているのが見え、うめき声も聞こえた。
「何なんだ一体………行ってみるか。」
男は声の聞こえる場所へ近づいていくが、ちょうど声のとこまで来たはずなのに誰もいない。
「おーい!どこだー!この辺にいるはずだよなー!」
「こっ……こ…。」
「え、何処だよ?」
「し、し…た。」
「下?」
そうして視線を下にやるとそこにいたのは…
「籠手?」
男は恐る恐る尋ねる。
「つまり、さっきから聞こえる声って全部お前の?」
「う…ん。」
「そっそう言う事なんだな?」
男は一応納得したようだ。
その後籠手は力無い声で何かを囁く。
「…て……く…れ。」
「え、なんて?」
男は聞き取れなかったので、耳をすましもう一度尋ねる
「つけ…く…れ。」
籠手は消え入りそうな声でもう一度言う。
「ん?もう一度言ってくれないか。」
「付けてくれぇ!」
籠手は何度も尋ねられて腹が立ち今までの消えそうな声とは打って変わって大声で必死に訴えかける。
「おっおう悪い悪い。そんだけ必死なんだな。付けてくれ………?もしかしてお前をオレの手に付けろって事?」
謝りながら男は籠手を手に取った。
「………そう。」
「わかった。やってみる。」
そうして男は左手に籠手を付ける。籠手はかなり使い古されておりボロボロだ。
「これでいい………?」
と男が言おうとした瞬間
「完ッ!全!!復活!!!」
大きな声が響き渡り、男は耳を塞ぐ。
「うおお、うるせぇ!」
耳を塞いでいて男は足の感触に違和感を覚える
「え?」
男は宙に浮かび上がっていたのだ。
「ハアァ?何だよコレ!どういう………」
「ありがと!お陰で体力満タンさ!」
籠手は先程からは想像できない程に声にハリが出ており、元気になったのがいやでも伝わってきた。
「いや、そりゃ良かったけども……この状況おかしいだろ!?」
「そうかもね?じゃあ、もっとおかしくなってみようか?」
すると籠手をつけた左腕が男の意思に関係なく持ち上がり体全体がやがてさらに上空へ上がって行った。
「オイオイコレどうなっちまうんだよ!おいヤバイぞこんなの落ちたら死ぬわ!」
浮かんだ体はある程度上空に上がるとピタッと止まり、今度斜め方向やに急降下し始めた。
「オイイイィ!何するつもりだ!」
「ボクの腕の見せ所だよ!」
「その腕はオレのだー!!」
体は左拳を突き出す姿勢に勝手になっていた。
眼前にあるのは、人間2人分の大きさはある巨大な岩石。
籠手は岩目がけて叫び拳骨を作る
「破壊!」
「俺の腕も破壊されちまう〜!」
という男の悲痛な叫びは無視され岩と拳がぶつかり合う。
岩は10mくらい吹き飛んで木っ端微塵に爆発する。
「うおぉっ!!」
その衝撃で男の体も吹き飛ばされる。
「どう?これがボクの力だけど?」
「お前何なんだよ?喋ったり、人を浮かび上がらせたり、どう考えても只の籠手じゃねぇよな?」
「そういうアンタも只者じゃないなよね。普通あの爆発で吹き飛んだら受け身なんて取れず死ぬって」
籠手の言う通り男は地面に激突する直前何とか受け身をとることに成功していた。
「いやまあそうかもだけど………って死ぬ前提かよ!」
「まあまあ怒らずに怒らずに。そういえば自己紹介がまだだったよね。ボクはハーズ。籠手の付喪神さ。」
「オレはユーザ。………今は多分旅人なのか?分かんないや……まぁよろしく。」
「キミはユーザって言うんだ。よろしく!」
「ってかハーズ?お前は………何でここにいたんだ?」
聞いてみるが、ハーズは手を横に振る。
「一つも覚えてなくて。ユーザは?」
「実は……オレも覚えてない。何かを思い出そうとしても、ぼんやりとしか浮かばなくて全然分かんないんだよ。」
「記憶喪失ってヤツ?」
「どうやらそうみたいだ。」
ユーザはハーズにまた質問する。
「そもそも何で死にそうになってたんだ?」
さらに尋ねる。
「ボクは、というか付喪神は人に使われてないと死んでしまうんだ。あっまずは付喪神の説明を…」
「いや、大体知ってる。長い年月が経った物に魂が宿るとかそういうのだろ。死ぬのは初耳だったけど。」
「へぇ〜付喪神の今年知ってるんだぁ?」
驚いた様子で聞き返す。
「旅してる時なのか?何か見た記憶があるんだ。だけど、何してる時にどうやって見たかまでは覚えてない。でも覚えてるって事はよっぽど強烈な記憶だったんだろうな。」
「そっか。ホントにボンヤリした記憶だね。」
そんな会話をしながらユーザは辺りを見回す。
「……!」
突然何かに気づいたのかハーズに口元を近づけ声を潜めて話し出す。
「早くここを出よう。ここは危険だ。」
「………何でさ?」
ハーズもユーザの様子がが変わったのを見てやや身構える。
「辺りを見て気づいた。ここは超常大陸だ。何でここにいるか分からんがここは危険だ。最悪死ぬ。コレはハッキリ記憶にある。」
彼の真剣な声にハーズにも緊張が伝わる。
「どういう事?」
「お前知らないのか?まぁ説明は後で。もう少し行ったら所に船乗り場があるからそこに急行だ!コレもハッキリ覚えてた。」
そう言いユーザは砂の地面を駆けていく。
10分程走るとユーザの言う通り船乗り場が見えてきた。
空は日が落ち始め、雲が赤く染められていた。
「無事辿り着いたな。」
「あれ?ユーザさんご無沙汰ですねぇ。…。あ…最近乗りましたか?」
カインという名の船頭が話しかける
「カインさん話は後だ、日も暮れてきてる。すぐ載せてくれないか?」
「そうですね。ではこちらへ。」
ユーザは早速船に乗り込む。
船は夕日に照らされ、陸へ進む。
「あの人知り合い?」
ハーズに聞かれ、船の客席に座りながらユーザは顎に手をやり応える。
「うん。数少ない記憶の中にいたんだよ。でも」
「どこで知り合ったかまでは分かんないんだ?」
「あぁ、ホントに何も無いんだ……」
顔を落とすユーザを見て、ハーズは咄嗟に話題を変える。
「話は変わるけどさ、さっき何であんな焦ってたのさ。」
「お前、本当に知らないんだな。」
「うん。だいぶ酷い記憶喪失みたい。何処にどういう国があるのかもわかんない。」
ユーザは少し呆れた表情で「一から説明する。」と言い地図を取り出す。
「まずオレ達がいたのが、この地図の西端にある超常大陸だ。そして今向かってるのは右隣のラジョーア大陸。この星で1番大きな大陸で10つの国と5つの国の植民地がある。」
ユーザは指差しながら説明していく。
「ラジョーアの真下。超常大陸の右横にあるのが
ドルグ大陸。ここには2つの国がある。ドルグ大陸の右横でラジョーアの北端まで縦に伸びてるのがカント大陸で同名の国が治めてる。超常大陸以外は殆どの地域に人が住んでるんだ。」
「以外って?」
「あそこには、怪人や怪獣なんかがウヨウヨいるんだよ。本来人は足を踏み入れてはいけない場所なんだ。」
「え、そんな恐ろしいトコだったなんて、尚更あんなとこにいたのが謎だよ〜!」
ハーズは震え上がった。
「全くだぜ。でも今のオレたちにそれを解明すること手立ては今のところ無い。ひとまず人里に行こう。」
夕日も沈みかけ、より暗闇が迫ってきた。
船は1人と一個を載せて進んでゆく。
忍び寄る影と共に。
こうしてユーザとハーズのコテコテ?な出会いが始まった。
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