第25話 良縁も紙一重

「ホントに本当にほんっとーに心配したんだよ〜〜〜ん!嗚呼〜!」

「また泣くのかよ?流石に反応する側も疲れるぞ……」


目を覚ましたユーザは付喪神達の心配にうんざりしきっていた。それも当然だった。


ベッドで寝返りを打つか天井の模様を眺めるかしか暇を潰せない環境で定期的に付喪神の泣き声がじゅんばんこに聴かされるのだから。


「キンノミヤもどっか行ったまったし、仕事もこれからどうなっちまうんだ?そもそもあの顔の謎も分からず終いだしなぁ……」

ユーザはそんな生活を打開しようと頑張って思考にふけようとする。


『鏡よ鏡。世界で最も怪獣を怒らせられるのはだーれ?』

あの呪文で出てきた顔がユーザは気になって仕方なかった。


(あの顔は確かにオレだ。でもオレじゃない……髪なんか染めたことないし何なんだ?気持ち悪い位そっくりだ。何でだ?それってやっぱ……)


「進化の途中……か?」

「ユーザまたそれ言ってる!何なのそれボクにもちゃんと教えてよ〜。」

「いっいやホント何でもない!何でもないからさ。」


(んあ〜〜っ!何考えててもすぐこのフレーズが出てきて邪魔してくる。何だったんだあの夢?やっぱ超常大陸で目覚めてから色々おかしい事起きすぎだろ!?)

ユーザは頭を掻きむしるが心は一向にスッキリしない。


その頃キンノミヤはというと。

「あのヤロー。起きて早々左腕で殴りやがった。でさえここまで吹っ飛んだんだからな……下手すりゃ死ぬわあんなん。」

ユーザに殴り吹っ飛ばされてからというもの怖くなって専ら診療所の外をうろつき回らようになっていた。


「なんでも本舗ももう無理だな。稼げると思ったんだけどな〜。ユーザには悪いけどどっかに新しいビジネスチャンスちゃんは転がってないかな〜〜って100カレン発見!」

キンノミヤは道に落ちている100カレン硬貨を拾おうとして手を地面に伸ばすともう一つの手が現れ、払い除けられる。

「え?」


キンノミヤが戸惑っている隙に硬貨は拾われる。

「キンノミヤさん。勝手に抜け出さないでと何度も言ったでしょう。それにこのお金も貴方のモノではありませんよね?」

硬貨を拾い上げたのは、診療所の女性職員だった。

「げげっ!バレた?」


「全く……この注意も何回したことか。」

職員はため息混じりに呟く。

「10回です。計算とか勘定とか得意なので。」

キリッとした表情でほざくキンノミヤを見て、彼女はさらに深いため息を吐く。


「というか……ちょっと話変わるんですけど〜これ聞いていいのか分かんないですけど〜」

彼の本気なのかふざけているのか分からない態度に職員は口調がややぶっきらぼうになる。

「ハァ、何ですか?」


「オレも相方もピンピンしてるのにいつなったら退院出来るんですか?」

「…!」

職員の眉がピクリと上がる。

「後オレらがここにいる1ヶ月半の間、オレらの扱いってどうなってるですかね?なんか情報によると負傷したのは市の職員だけって聞いたんですけど……」

キンノミヤは核心を掘り下げ始める。それを聞いた職員は神妙な顔になり始める。

「….…分かりました。ついてきてください。」

「はい…分かりましたぁ。」

(あれ、もしや地雷を踏み抜いたパターン?)

彼は気の抜けた返事で返したが内心焦っていた。


「はぁ…ホントに疲れますわ。」

「真人間なんて夢のまた夢ですわね。」


病院内に入った直後職員はここでお待ち下さいと言い残し何処かへ向かう。そこにキンノミヤに呆れ果てていた彼女はいなかった。

「では、行きましょうか。」

職員は鍵らしき物を持って戻ってきた。その後2人は階段をひたすら登る。

ユーザと自分の病床がある2階も超えて、最上階の3回に辿り着きそのまま廊下を進んで行くにつれ徐々に人気が無くなっていく。

「……まだですか?」

「もう少しですよ。」


たどり着いたのはなんの変哲もないドアの前だった。それが妙に不気味に見えてキンノミヤはゴクリと唾を飲み込む。彼女は無言でドアを開錠する。そして流れるようにドアを開ける。


「これは?」

キンノミヤの目に飛び込んできたのは台が一つだけ置かれた部屋だった。


それから一日。ユーザ達はついに退院を許された。

「やっと退院だ。やっぱ人間動いてないとだよね〜。」

「ハーズ。それオレのセリフだろ!」

付喪神達と和気藹々とした雰囲気で診療所を後にするがキンノミヤはずっと何かを考え込んで歩いている。


「どうしたんだ?お前も変な夢見たのか?」

「……いや。」

(100カレン拾おうとしただけなのにこうなるとは……良縁も紙一重という訳か。)

彼らの足取りは温度差が激しかった。

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