暴力を読ませてくれ

すみはし

暴力を読ませてくれ

とある小説の賞を受賞した知人が言っていた。

「本を読む時は暴力や痛みを読ませてくれと思いながら読む」と。


もちろん私は知っている。

作家志望なだけの私でも知っている。

それが本当の暴力や痛みでは無いことくらい。

そしてそれが暴言による言葉の暴力でないことくらい。


後頭部を鈍器で殴られるようなその衝撃。

そういう痛みに近いショックを受けたいのだ。

雷に撃たれた様な衝撃を受けたいのだ。

思ってもみなかったところからの打撃、斬撃、なんでもいいから感情の爆発が見たいのだ。


きっと、そういうこと。


なので、もし私の書いた作品を嘲笑った彼女が今の私の文章を読んだとしても、彼女のことを後ろからバットで殴りつけて意識朦朧としたところを拉致して抵抗できないようにしてから電流が流れる拘束椅子に座らせて適当な電流を流したり鼻をつまんで口元にピッタリのマスクをあてがい呼吸代わりにドブ水を吸ってむせかえってそのドブ水がそれでもなお口の中に入ってくるよう調整したり裁縫好きな彼女のために爪の間にマチ針を少しづつ差し込んでいったり頭蓋にピッタリの万力を挟んで軋むほどまでゆっくりと回したり彼女が締切に追われて病んでいるといったのであくまで善意で瞼の下からルーコトームを突っ込んで木槌で叩き込んで捻り回してロボトミー手術をしてあげたり悲鳴をあげた数だけ彼女の細く薄い腹に正の字を刻んだりする様を想像し私がそのための用意を着々と進めているとここに書き記そうがこれは彼女の求める暴力では無いしなんの問題もない。


ただただ文才のない私が燻って溜息をつきながら妄想を綴っているだけなのだから。

彼女の求める暴力はここにはないのだ。

だから、これは、暴力ではない。

彼女がこれを読んでもなんの問題もない。

ただ、今は書いているだけ、今は彼女の感性に触れない文字を書いているだけなのだから。

彼女にこの文章の出来事が実際に起こった場合この文章を暴力と捉えるかどうかはまだ分からない。

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