第8話 最初の授業に出席した
アレンとは額を付き合わせるようにしてお互いの授業をすりあわせた。
なにせお互い、知り合いがいない。何かあった時に頼れるのは少なくとも現時点ではお互いだけだ。
本来であれば貴族家だ、派閥の家を含めた各家とのお付き合いがある。茶会などで顔合わせを数度しているのが普通だし、授業の合間にもお誘いがあったりする。
しかしアレンも僕もそういうのがまるでない。
家の方針で僕ら2人は半ばいない子扱いされているからね……。
兄たちが何か言ってくるかなと思っていたら兄たちから呼び出された。
呼び出されたのは下の兄の部屋で、そこに他の2人の兄もいた。僕はそこで罵られ、踏みつけられ、虐げられた。そうされながら用件を言われた。内容はアレンの足を引っ張れだった。へこへこしながら受領して、退出した。
内心は「うるせぇ黙れ!」だったけど、そんなのもちろん表には出さない。
寮の部屋は2人部屋で、原作とは違いちょっとだけ良い部屋だった。なぜ……。アレンとは別の部屋なのが地味に辛い。アレンの同室はやがて親友になる男であるオルガがいるから安心だけど、僕の同室は兄の息が掛かった男だった。
拷問じみた嫌がらせから解放されてようやく戻った自室で、今度は彼から嫌がらせか………………詳しく思いだしたくないけど、それはもう酷い目に遭った。更に兄たち同様、アレンに嫌がらせをしろと強要し、細かい内容を指示してきた。
ああ、これは信用されてないな、見張られるのか……とげんなりした。このやり口は一番上の兄だろう。
いや、勿論多少はするけどね、嫌がらせ。原作がそうなってるから!
でも絶対言うなりになんてならねーぞ! って思う。
そんなわけでようやく授業だ。
最初の授業が兄達のせいで出られなかったから、僕だけ一回遅れなのが辛い。
アレンが前回の内容をかいつまんで説明してくれた。優しい。あと教師のわかりにくい説明より丁寧で脳みそに染み込んでくるのがありがたかった。何しろ真夜中に唐突に起こされたりもしていて、あまりよく眠れてないんだよな……。辛い。
「あんたがザジークだな。俺はこいつの同室で、オルガだ。よろしくな」
「うん、よろしく。ザジでいいよ」
「ほんとにお前らお貴族様かぁ? 全然気さくだし偉ぶらねぇし、俺がこんな口きいてるのに怒らねぇし」
「貴族にも色々あるんだよ。とは言え、僕ら以外にその態度はしない方が良いと思う」
唐突にザジークの名が教師に呼ばれた。前へ出るように、と。
働かない頭を必死で動かしながら、言われるままに前へ出た。教師は教卓に何やら水晶玉のようなものを据え付けていた。
据え付けながら、教師は僕を教室の前に立たせたまま、全員の前で僕の学習態度について文句を言い出した。貴族家であることに甘えて授業を故意にサボるのは感心しませんね、……と言われても。困る。
「では、この上に手を置いて。あなただけまだ計測をしていませんでしたからね」
「計測……?」
「魔力値と適性を見るものですよ。昨日はアレンが素晴らしい数値を叩きだしてくれました。この学園始まって以来の成績です。……あなたは同じ家でもありますし、名家でもあるフォスティーヤ家の子として気負うところもあるでしょうが、まぁ、どのような成績が出ようとも気落ちしたり僻んだりはしないように」
「はぁ」
ずいぶんな言いようだけれど、……落ちこぼれだと有名だからだろうな。母が割と熱心に噂を撒いているらしいし。たぶん、万が一にも良家と縁づいたり出来ないように。
えっと。いや、しかし、ちょっと待て。………………待て。
これちょっとヤバくないか。
頭が上手く働かない。ぼんやりする。でもこれがマズいのは分かるぞ。分かる。
実はこれまで、僕はコレを1度しか使ったことがない。コレとは、コレ。鑑定晶というものだ。個々人の能力値を計る魔道具のようなものなんだけど、使用の際は結構繊細な操作を要求される上、魔晶をそれなりの量消費する。実家にはこれを起動し稼働させることが出来る人がいなかったから、当たり前のように家にはなかった。兄たちは成長のほどを実感させるためにと時々教会から人を呼んで計測させていたらしいけど、勿論僕やアレンはそんなことして貰ったためしがない。
唯一使ったのは、洗礼式――この国で子供が国に国民として登録される7歳の頃だ。治癒の適性があることなどはこのときに知った。なおこれは全国民が無償で受けられるものだ。
しかして今。死に戻りして僕の魂が入る際、僕はあちらから色々チートを持ち込んでいる。それはまだ、今の所、誰にもバレていないはず……なのだ。
今まさに白日の下にさらされようとしているけれども!
「早くなさい。何をぐずぐずしているのですが。どのような結果がでようと、それがどれほど悪かろうと、それが今のあなたの実力なのです。甘んじて受け入れなさい。そうして、今後努力を重ねるように」
「え、ええと、はい、いや、その、……最低値ってことで良いですから計らないままにする、というのは」
「ダメに決まっているでしょう! 早くなさい!」
ヒステリックに叫ばれて、思わず「はぃぃ!」と答えて手を付いてしまった。
一瞬で眩い光が教室を満たして、パァン! と勢い良く鑑定晶がはじけ飛んだ。
やっちまったー!!! ……と思ったけど、これ、僕は絶対悪くないぞ!
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