第4話 ターゲット
「グッバイ」
男は軽やかに言い放ち、”誰もいない家“をあとにし歩き始めた。若干猫背気味にコートに手を突っ込みながら歩く彼はどこか満足気な顔をしている。
只今は夜の9時。冷たい夜の中で光る街灯がやけに明るい。
……ぐぅー
腹の虫がうなっている。
「なんかあるか...?」
とキョロキョロと周りを見回すがここは住宅街。
当然飲食店などはすぐの所にはない。しかし、その代わり角のところに光る看板を見つけた。白と青が特徴のあの看板が示す場所。
それは日本に住む誰もが一度は行ったことがある非常に便利な場所。
つまりはコンビニエンスストアである。
「幾ら持ってたっけな」ガサッ
ポケットから革の財布を取り出す。中には1000円札が6枚と小銭がいくらか入っていた。コンビニで飯を食うのには十分すぎる額だ。
そんなわけでコンビニへと足を進めた。
………〜〜♪♪
入店と同時に聞き慣れたメロディーが鳴る。
彼はカゴを取るとゆっくりと店内を物色し最終的に決めた食物達をレジへと運んだ。
若い店員はそれらのバーコードを読み込み、慣れた手つきで会計をする。そして、その最中で浴びせられる深い視線に気づくことはない。
悲哀とも憐みとも取れる視線を——
「……袋はおつけしましょうか?」
「お願いします」
「ではお会計1299円になります」
男は財布を開けて素早く支払う。それから足早に自動ドアを潜って出て行った。
彼が去った後の店内では、先程の会計を行った店員が首を傾げていた。
「……?」
「どうしたの?【マリ】」
カウンターにいるもう一人の女が尋ねた。歳はおおよそ20付近だろうか、大分若い。
「いや、さっきの人何処かで見覚えあるなーって」
「何処かってどこなの?」
「分からないけど、、、なんか気になっただけ」
「っっそれって一目惚れじゃない?!」
「そ、そんなわけないでしょ!」
と突っ込みながらも彼女は彼が誰だったのかを思い出そうとするのであった。
・・・
やがて手からビニール袋下げた男は行き着いた。
古いアパートの一室に。
彼は少し鯖ついた鍵を取り出してキリキリと音の鳴るドアを開ける。すると廊下に散らばる溢れんばかりのゴミ袋がその姿を露わにした。
部屋には悪臭が立ち込め酷いゴミ屋敷状態。掃除も何もしていないようだ。
しかしそんな惨状でも彼は気にせず入っていく。一歩進む毎に足元では何かが跳ねる。
「ふぅ」ガタッ
ローラー式の椅子に腰を落とす。そのまま足を使って物が散らばった机の前まで転がした。机の後ろにはデスクトップパソコンが一つだけ。
ガサっとビニール袋を乱雑に置くと商品をだす。
そうして惣菜パンを齧ろうとしたその瞬間
———ブーブー〜〜♪♪
ポケットからの振動と共に音楽が聞こえてきた。
はぁと軽くため息をつきスマホを取り出す。
画面にはある電話番号が写されていた。彼はその番号見ると面倒くさそうに電話に出た。
「もしもし」
「うっっす!!!!!!」
耳に寄せたスマホから聞こえるのは元気いっぱいの高い声。あまりの音量に思わず体をピクリと反応させてしまう。
「ったくうるさいぞヘッケラー」
「へへっ!ごめんっす!」
悪びれもなくヘッケラーと呼ばれた彼女は平謝りをした。電話越しには騒がしいパチンコの音が鳴り響いている。
「で、要件はなんだ」
「お仕事のことっすね」
「そうか」ガサッ
彼はさっき一旦机に置いた物を再び食べ始める。
「んで次は誰?...んぐ」モグモグ
「株式会社HIYROの初代創業者、
「あの会社のお偉いさんか..ん...ほんと...改竄者というものは何処にでもいるもんだな...ん...まるでゴキブリだな」モグ
「そうっすよね〜。まさかまさかと思いましたよ〜。私ヒイロ製の家電よく使ってたのに...残念無念」
とヘッケラーは語るがあまり落胆を感じる喋り方ではなかった。
「そいつは俺がやるのか?...あーん」パクッ
「それなんすけど、奴は大分強いらしいので一応私も同伴させた方が良いって判断されたんすよ」
「ほぉこれはこれは...」ジャー
彼は側に置いてあったガラスコップに水を注ぐ。
「いいっすよね?"スミス"さん」
「んぐ....ふぅ、もちろん」カタッ
そう夕食を終えたスミスは承諾した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます