運命改竄セルフィッシュ
ヨロイモグラゴキブリ
プロローグ
この世で最もクソな行為は何か...殺人、戦争、強盗、詐欺、転売、差別、虐待..etc。どれもかれも残虐な行為だ。人を傷つけ、未来を奪う。
しかしどれも一番ではない。例え戦争で死のうが事故で死のうが、悲しいけれどもそれは確約された定めである。正常な運命は因果を回し結果圧倒的な多くの人が安心して暮らせることへと繋がる。
それゆえ、、、自分勝手に因果を崩す。それこそこの世で最も残虐で、非道で、悪逆な行為なのだ。決して許容できない行動。
だが、それを行う極悪人がこの世にはいる。
彼等を人呼んで
今日も不可思議な力で現実を変え、真実を捻じ曲げる。手前の都合だけで過去未来現在を思うまま。巨万の富を得たり嫌いな奴を消したり。
楽しく、悠々自適に暮らしていることだろう。
けれど、いつまでもそんな事をまかり通す程世界は臆病でない。積み重なった矛盾はいつか悲しみと怒りを持った形を成すのさ。
その時、
その時、改竄者は消え失せる。
・・・
……ヒューーー
ソコは雲の遥か遥か上。
遍く星々をバックに一つの人影が落下している。
その身なりはこの上空に似つかわしくなかった。
何も持たず、背負ってもいない。月光に照らされた物はただのヒラヒラとした服だけ。
周囲には飛行機らしき影は見えない。
ならばどうやってこの高さまで移動したのか。
どうやって着地するのだろうか。
雲が下一面に広がる高度など何も持たなければ確実に即死だろうに。気圧の問題も深刻なはずだ。
なぜ、こんなところにいるのだろうか。
——ゴォォォ
それからその人がただ自由落下を続けていると雲の下から小さな音が聞こえて来る。重く低い低音は時間が経つにつれ段々と大きくなり、遂には耳を塞ぎたくなるほどの騒音へと姿を変える。
ブワァッ!
すると次の瞬間、雲を切り裂き大きな飛行機が姿を現した。赤と緑の眩い光が空間に拡散している。
そしてただ出ただけならばどうってことはないが問題なのはその位置。その者の前方40Mほどの場所に、対面する形で浮上してしまったのだ。
このままではものの一秒足らずでぶつかるだろう。しかし、飛行機の頭の向きを変えるにはしばし遅すぎる。さらに落下する人間は反応する気配もない。
飛行機は真っ直ぐに接近する。
「〜〜〜〜!!」
コックピットに座った2人の男が驚愕の眼差しで目の前で落ちる人を見る。口を大きく開け何か言っているようだが聞こえはしない。
ただ、その者に聞こえるのは自身に吹き付ける荒風の音とジェットの轟音。
ならばきっと1秒も経たぬ内に赤い雨が降るのだろう。誰もがそう思う。だが、、、、、
———ギィィィン!!
衝突直前、唐突に甲高い金属音が鳴る。
すると落下していたその人はもうそこにはいない。
飛行機には何の汚れもついていない。
パイロット達は慌ててもいない。
このフライトは何もなかった。
そのように"成った"
「ふぅー」
白いドレスを着た美女は部屋にいた。
横長の大きなソファー。4Kの大画面テレビ。おしゃれな家具の数々。さらに壁に貼られた巨大な窓からは科学的な光を放つ夜景が見える。
そんな高級感溢れる部屋は高級タワマンの最上階。金と自慢と優越感の甘ったるい匂いが蔓延する場所である。
「いやー楽しー!気持ちよかったー!飛行機がちょっとうるさかったけどまぁいいやー!」
彼女は満足気に言うと手を組み上に伸ばした。足先から背中までピンと伸びている。
そうしてふぅと一息つくと目を閉じる。
刹那、ドレスが光を反射しない黒へと色を変えた。しかし、次の瞬間には黒色の何かはラフな服へと変化する。
彼女はその服を確認すると自らの寝室へと軽快に足を運んだ。
——ガチャ
何の疑いもなくドアを開けて一歩を踏み出す。
部屋は暗いまま。扉を閉めて大きなベッドへその華奢な体をドサっと飛び込ませた。
「おっと、不用心」
ガバッ!
「だっ!?ムグゥ!」
すると何処かから低い声が聞こえて来たと同時、驚きに体を持ち上げる暇もなく5本の指が顔を押さえつけた。
「ぐ...ぐ!」
余りにも強く押されるもので頭がベッドに深く沈み込む。被害部分に走るものは今にも頭蓋が割れると錯覚するほどの痛み。
恐怖と焦りとその痛みにより、頭の中は真っ白に漂白されただ必死にもがくことしか出来なかった。しかし、手足を動かせど逆にその度押さえ付ける力は強まる。
———ゴーン ゴーン ゴーン
そう奮闘していた時、不意に何処からか鐘の音が鳴り響く。彼女はその音に懐かしみと、畏怖とも言うべき何かを感じ取った。
そして脳内から全ての思考が奪われることとなった。
「……」スゥゥゥ
薄れる。肉体が、存在が。体を動かす事をやめて
ぼーっとどこかを見つめる。
口を小さくぽかんと開いたまま。
——サァァ
時間が経つにつれて、透明になっていく。
そう、大体...15秒もしないうちに完全にその姿は消え失せていた。
残ったのは彼女に被さっていた手だけである。
その手の根本は分厚く柔らかな掛け布団の下に伸びていた。
暗闇の中、ガサガサと掛け布団が持ち上がる。
中から出てきたのは一人の人間のシルエットであった。その者は被せていた手を持ち上げポケットに突っ込む。
それから四角い箱とライターを取り出すと箱から取り出したタバコを咥え
カチッ
とライターを燃やした。
揺れる光に照らし出されたその者の目は、、、、夜より深い虚無であった。
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