第27話 なぜキミがそれを?

~第26話までのあらすじ~

 アパートで朝食を食べ終えたひびき伊奈瀬いなせ永久野とわの衣央いおの4人は、突然バグ調査組織RGBの施設の大広間へと転送されていた。そこで響に声をかけたのは、オトナではない1人の女の子。そして彼女こそが、この組織のリーダー、とどろリリーだった。




「ちょ、3人をどこにやった!!」

「さあ、それは君が知る必要はないこと。2人はずっと君と一緒にいたから、何か知っていると思ったんだけどね。やっぱりあの本に書いてあった通りだわ」

「あの...本?」

「そうよ。俯瞰ふかんの書。自分がオーナーであることを他言するのは禁忌らしいじゃない?」

「俯瞰の書?なぜキミがそれを?」

「は~あ。」

 響の問いには答えない。リリーが次に発したのは、彼女の口から出てくるはずのない名前だった。

「とすると、やっぱり君は王那おうなに会ったのかしら?」


 王那...王那!?響はその名前を聞いて、すぐに彼女の顔が浮かんだ。

「なぜ王那まで知っている!?」

「言ったでしょ。その本に書いてあったって。私が持っている俯瞰の書にはね、バグに関するすべてのことが書いてあるのよ。入れ替わりのことも、最適化のことも。もちろん王那のこともね」


 そして気付けば、王那の右手には1冊の古びた本、俯瞰の書があったのである。

 俯瞰の書は「俯瞰シリーズ」と呼ばれる4次元道具の1種。響を含む3次元の住人にとって、4次元とは高次元であるため、身のまわりにある物のように自然に目に入ってくるものではなく、「そこにある」と認識をすることで、はじめてその姿を捉えられるのである。


「それでね、響」

リリーは一息おいて、本題に戻った。


「所有権をちょうだい」


「...え?」

 響は困惑したが、悪い話ではないと思った。王那と契約を結んで明後日(あさって)で1週間。それまでに禁忌を犯せば糸葉を失い、犯さなければ自分が世界から消される。それがオーナーの迎える結末だからだ。

 所有権を渡してしまえば、自分はその運命から解放される。願ってもない話だ。だが。

「所有権って、あげられるのかな?」

 響はリリーに問う。そのやり方がわからないのだ。


「やっぱりそうか。君でもやり方は分からないよね。...じゃあ仕方ない。この俯瞰の書を貸すから、そのやり方を見つけて。オーナーである君ならわかるはずだよ」

 その代わり、と彼女は付け足した。

「読んでいいのは前半部分だけだよ。後半部分を読んだら取り返しのつかないことになるから。」


そう言い残して、リリーは大広間を出た。外から鍵が掛けられ、響は空間に閉じ込められた。


****************************

「アパートに戻ってきちゃった...」

 永久野はそうつぶやいた。リリーに「用がなくなった」と言われた直後、気付けば3人は響のアパートの部屋に戻ってきていた。

「どうしよう!響くんとばらばらになっちゃいました!」

「あそこがどこだったのかもわからないのに~!」

「落ち着いて、2人とも。これがあるじゃない」

 慌てふためく衣央と永久野を落ち着かせ、伊奈瀬は自分の携帯を指さしそう言った。

「携帯...ひーくんの位置情報!」

「それがありましたね!」

 3人が急いで確認すると、響の現在位置を表すアイコンは...


 あった。二本杉と自然石のある場所の、さらに北に行った場所だ。

「行こう!」「行きましょう!」

「待って」

 再び伊奈瀬は2人を制止した。

「さっき私たちを移動させたのはリリーよ。相手は空間操作みたいなのができるのかも。だとすると、あっちに着いたところでまたここに戻されるだけ。時間の無駄になってしまうわ」

 それに永久野と衣央も続く。

「あ、それにリリーはひーくんのこと、オーナーって言ってたよね。何のことかも気になるな」

「私も気になりました。なぜリリーさんは響くんと会いたかったのでしょうか」


 こうして、響を助けるための作戦会議が始まった。

******************************


 施設の大広間に取り残された響は、ついに手にした俯瞰の書を開いた。


 前半部分に書かれていた内容は、バグのルールとオーナーの歴史であった。そして響は知ることになる。伊奈瀬、永久野、衣央だけでなく、神様である王那までもが、もともとは3次元の住人だったことを。




小ネタ)

 なぜリリーが俯瞰の書を持っていたのか。リリーは何者なのか。これが明らかになるのは、もう少し先のお話です。

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