第11話 一緒に行く

~第10話までのあらすじ~

 自然石のある場所へもう一度向かう響であったが、アパートから少し離れた河川敷に立ち寄った。そこで出会った2人のオトナ、伊奈瀬いなせ永久野とわの。彼女たちが持っていたのは、空を飛べる道具のようであった。



 伊奈瀬に面白がられているこの状況を打開したく、響は尋ねた。永久野さんが降ってきた件についてだ。

「おふたりは、飛べるのですか?」

「ああ、この飛行板フライングボードのこと。これは4次元道具だよ。私が知ってんのは「俯瞰ふかんシリーズ」とこのボードくらいかな」


「俯瞰シリーズ」。伊奈瀬の言葉に響はピンときた。茶緒が使用していた、俯瞰の手。そして王那の、俯瞰の間。それと同じたぐいの道具なのか。

 その後、伊奈瀬と永久野さんはそれについて詳しく教えてくれた。4次元道具というのは、4次元の視点から3次元世界を操ることができるアイテムで、その原理は、3次元世界に住む人が紙、つまり2次元に対して、自由に絵を描いたり切り貼りができたりするのと似たものらしい。


 教えてくれた4次元道具の中でも気になったのが、俯瞰の占い帳というものだ。これを使用すると、使用者がそのとき最も必要としている道具を一度だけ出すことができるらしい。大変便利な道具だ。ぜひ入手したい。


 4次元道具についてなんとなく理解した響に、永久野さんが追加した。

「あと、あれもじゃないかな。俯瞰の書。」

 また何か新しい道具だ。しかし伊奈瀬はこれを知らないようで、首をかしげて言った。

「俯瞰の書?何それ」

「伊奈瀬ちゃんも知らなかったんだ。俯瞰の書にはね、今回起きた入れ替わりを含めた、バグのすべてのことが書かれているんだって」

「それはどこにあるんですか!?」

永久野さんの言葉に、響は勢いよく食いついた。ところが、

「場所までは、ちょっと...ごめんね」

という永久野さんの返事に、

「あ、いえ...こちらこそすみません」

と、オトナに対しては遠慮がちになる、いつもの響に戻った。


 まあ探していくうちに見つかるだろう。どうしてもというときは王那を頼ってみようか。いや、確かに王那は優しいが、すぐに答えを教えてくれはしないだろう。それに今も、王那は俯瞰の間でオレのことを見ているかもしれない。かっこいい所を見せたいのだ。

 「ま、いいじゃん!ほ~ら、あい!飛行板フライングボードの練習するよ~!」

 少し沈んだ雰囲気をもとに戻そうとして、伊奈瀬が再び陽気な声で永久野さんを練習に誘った。ドSツンデレながらも優しい性格である。

 

 ならばこちらもそろそろ向かおう。自然石の場所へ。この河川敷へ来れば、また2人とも会えるだろう。響は別れの挨拶をした。

「それでは、また」


「...どこ行くの?」

伊奈瀬が不思議そうに尋ねた。永久野さんはずっと響を見ている。


響は行きたい場所がある旨(むね)とその大体の場所を伝えた。

「一緒に行く」

と口にしたのは、今度は永久野さんのほうだった。

「ちょっと、あい!あんたそんな長い距離ほんとにいけるの!?」

「私はひーくんのいく場所についていく」

確かに、さっきまで流れ星みたいに空から降ってきた人が、バイクで3時間の場所まで行け...いやちょっと待ってくれ。今...ひーくんって言った??

「あ、あんたね~!...ふっ、いいわ。私もついて行ってあげる。わかった?ひっきー。」

ああ、わかったよ伊奈瀬。ついて来てくれるのは嬉しいし、なんなら飛行板にのせてくれても良...ん!?ひっきー!?


 響は感づいた。この2人、自分に気がある。




小ネタ)

本話で登場した「飛行板(フライングボード)」は、入れ替わりのときにオトナに配布された4次元道具である。車などに乗ることができないオトナに対しておこなわれた、最適化の1種である。


俯瞰シリーズに出てくる俯瞰の書と俯瞰の占い帳は、その中でも特に重要な道具。

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