第3話 最後の日常

~第2話までのあらすじ~

 隠れた名所「二本杉」を訪れた兄・国見響くにみひびきと妹・国見糸葉くにみいとはは、その足元にあった大きな自然石を発見する。響が石の表面に付いていた土ぼこりを手で払うと、そこには「Half of the World」という文字が。

 2人はそれが何を意味しているか分からず、帰路についたのだった。


—2028年2月28日(月)—

 ひびきは市内の高校に通っており、成績上位の3年生である。そして、彼のクラスに在籍しているのが、中野旗音なかのはたね———成績・人柄ともによく、学年で男女両方から愛されている、いわば高嶺たかねの花である。響も例にもれず彼女のことが気になっており、幸いなことに彼女も響にひそかな思いを寄せている。どうやら、響の明るく努力家な性格が気に入ってもらえたらしい。


 4限の期末試験の返却が終わり、クラスメイトが響のもとへ集まってきた。

「なあ響ぃ、いつ告るんだ??」

「お前も気づいてんだろ~?絶対中野さんお前のこと気になってるってぇ」

「ひぃびぃきぃ~~~」「ひびきっ!」「ヒィ↗ビィ↘キィ→」

響の周りの男子たちが、顔を真っ赤にした響をはやし立てる。


「いっや~そんなことないって~!ないよなあ~...あるかなあ!」

響は猛烈に照れている。

「今日の放課後告っちゃおっかなあ!」

「フゥフゥ~」


 春休み目前。さらに早く終わった授業。試験返却でクラス内でも一喜一憂あるとはいえ、やはりクラスのテンションは最高潮である。ふと、響は旗音に視線を移した。数人の女子が彼女を囲んでおり、男子と大差ない状況である。


「よしっ!今からご飯誘ってくる!」

心を決めた響は周りの男子に向かって叫んだ。再び歓声が起こる。響はお弁当を手に取り、旗音のもとへ歩いて行った。大きなことを成し遂げようとしている響を妨げまいと、クラスメイトが道をあけ、彼の進行方向にはまっすぐな道ができた。旗音の目の前まで来た響は言う。

「旗音、お話し中ごめん。よかったら、その…今からお弁当…一緒にどう?」


 響はかつてないほど体が熱くなるのを感じた。高鳴たかな鼓動こどうを抑えられるはずもなく、ただ旗音の返答を待つ。

 クラスが一丸となって作った沈黙の空間に、数秒の時間(とき)が流れる。

 旗音は照れたような、驚いたような曖昧な、だけどかわいさだけが確かな顔で、響をじっと見つめている。そして、少しだけ嬉しそうに微笑んだ。


(これは…!もしかして…!)


 そして旗音は口を開いた。そのとき、12時を知らせる学校のチャイムが、空間の沈黙を破った。




小ネタ)

響はテーブルゲーム部に所属しており、トランプ、ボードゲーム、麻雀を得意とする。

旗音は高校の近くのアパートで1人で暮らしている。口数は少ないが、思いやりや天然な性格が人気の理由である。


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