第55話 神話ってのはスケールがデカいもんだが、それでもちょっとは加減しろ。
「せや!ウッドウッド、アンタ『ニホンジン』っちゅうことは……別の世界から神さんに遣わされて来たんよなっ!?」
カミングアウトを終えてすぐ、マギやんがそう聞いてきた。
近い近い近い。
もう抱き着いてるじゃねえか。
目もキラキラしてるし、興味津々って感じだな。
「あー……その話はちょいと複雑でな。まあ、結果的にはそうなってんだがよ」
ついでだから、これを機に話しちまうか。
ニホンジンってこと以外に隠すことはねえし。
「一応、オレはとある神サマのおかげでここに来れたってことに間違いはねえんだが……その発端がな」
それとなくマギやんの肩を押して身を離しつつ、ことの発端から話すことにした。
乳が密着してると集中できねえからな、残念だが仕方ねえ。
・・☆・・
「『好奇心』の神……マジかい。アンタ、えらいお人に気に入られたもんやな」
この世界へ転移するきっかけを話し終えると、マギやんは神妙な顔で腕を組んだ。
「そんなに珍しい事か?」
「珍しいなんてモンやあれへん、記録やとここ100年200年……どころちゃうな。1000年単位で確認されとらんで、『使徒』は」
『使徒』ぉ?
そんなカッコいいモンじゃねぇんだがな?
「ウッドが巻き込まれた召喚をしでかした『混沌のエリクシア』……コイツは厄介な神さんや。ヤツの『使徒』はどんな時代でもどんな場所でも滅茶苦茶しよる」
『コイツ』に『ヤツ』ときたか。
どうやらあの貧乳、使徒含めて現地の人間にも嫌われてるらしいや。
他にも戦乱やら殺戮やらって言われてたが、この世界じゃ混沌で通ってるのか?
「確かに、気にくわねえ貧乳だった」
「っちゅうかウッド!アンタマジでさっき言っとった啖呵切ったんか!?一応神さん相手に正気の沙汰やあれへんで!!」
遅れてツッコミがやってきた。
一応ってなんだよ。
「はん、気にくわねえモンにヘコヘコするくらいなら死んだ方がマシだぜ」
そう正直に言うと、マギやんは目を真ん丸に見開いて……たまらず笑い出した。
「ぷっく、うはははは!!アホや!ウッドはほんまもんのアホや~!!!だははははッ!!」
「なんだとこのロリ巨乳」
しばらくマギやんは地面を転げ回った。
笑いすぎだろこの帝国人。
「っく、ひぃひぃ……まあ、ウッドがアホならウチもアホやな。アホ同士でちょうどええやんか!」
「へへ、そうかよ」
笑い過ぎて涙目になったマギやんが、ようやく体を起こした。
「だからよ、オレぁこの世界じゃ根っからの風来坊なのさ。貴族でも王様でも、喧嘩売られりゃ喜んで噛みつくぜ……もっとも、噛みつき方は選ぶがね」
何の後ろ盾もねえが、遠慮する相手もいねえ。
忖度をする必要はねえってこった。
「……ウチの想像やけど、アンタのその考え方絶対普通のニホンジンちゃうやろ。持って生まれたモンや」
まあ、そりゃあな。
地球でもこの考え方のせいで随分と損したもんだが、たぶん死ぬまで治らねえ。
死ぬ寸前でも治らなかったしな。
「アンタの将来の二つ名は『狂犬』か『反逆』やなぁ」
「じゃあマギやんは『巨乳』だな」
「なんでやねん!!」
完璧なツッコミの後、マギやんはまたも腹を抱えて笑い出した。
笑い上戸にも程があんだろ、女子高生かお前。
「あ~もうアカン!ツボに入ってもたぁ!!話が進まへんやないか!ウッドのアホぉ!!」
「それに関しちゃ、オレは絶対悪くねえと思う」
マギやんが笑い転げる前で、とりあえず食事の後片付けをすることにした。
ほっとくと汚れがこびりついちまうからな。
そこら辺の雑草をブラシ代わりに、とっとと綺麗にしちまおう。
「ええと……どこまで話したんやったかな。せやせや、神さんの話や」
フライパンと皿が綺麗になるころ、マギやんが再び話し始めた。
随分笑ってやがったな、ここが魔物避け区画でよかったぜ。
「さっき言うた『エリクシア』と違うて、『好奇心』の神さんには名前があれへんのや」
「あ、それ本人が言ってたけどオレ達人間にゃあ発音できねえ名前らしいぞ、聞いても理解できねえとも話してたな」
便宜上モンコと呼んでるが、確実に偽名だしな。
「せや、それはな……『外なる神々』やからや」
「そとなるかみがみ」
なんか新しいジャンルが出てきやがったな。
「字のごとく、『外から来た』神さんたちのことやな。元々、この世界にはおれへんかった神さん連中っちゅうこっちゃ」
へ?
じゃあなにか?
どっか別の世界から引っ越してきたってことかよ?
「これは数ある神話の中でも最古のモンなんやけどな……この世界にある大陸っちゅうのは、元々1つやったらしいんや」
「……パンゲアってやつか?1つのデッカイ大陸が長い時間をかけて分裂したっていう?」
地球だとそうだったが、ここでもそうなのか?
「今はパンの話はしてないやろ。ちゃうちゃう、この世界に存在する5つの大陸……そのうち4つは元々が別の世界からやってきたっちゅう神話や」
「……はァ!?」
スケールがデカすぎんだろ!?
じゃあなにか、大陸まるごと異世界転移してきたってのか!?
この世界のスケール……大陸が地球に比べてデカすぎる理由って、つまりはそういうことなんかよ!?
「『エリクシア』とかの名前がしっかりある神さんは、元々この世界の神さんや。ウッドを遣わした『好奇心』の神さんはちゃう」
「はー……この世界、神サマ多すぎだろオイ」
「そういうモンやろ?万物に神さんはおるんやから。数え上げたらキリないし、そもそも認識も確認もでけへん神さんもまだまだいてるんやろな」
真の意味で、八百万の神々ってことかよ。
はー……じゃあオレの再生数みてえなの、結構あるんじゃねえか?
「ちなみにやけど、『好奇心』の神さんっちゅうのも該当するお人がぎょーさんいてるんやで?」
「へ?1人……じゃねえ、1柱だけじゃねえのか?」
「あったりまえや!それぞれの派閥の神さんにそれぞれおるし、そういうわかりやすい対象は特に司るお人は多いんや。『戦神』やら『武神』なんぞ、地域や国ごとに千差万別やから特に多いわ……それこそ砂浜の砂粒よりも多いかもしれへんで」
「……」
なんかちょいと頭が痛くなってきやがった。
スケールもでけえし、それに何より新事実がどれもこれも想像を軽く超えてきやがる。
胸やけまでしてきそうだ。
「っつうことはアレだ。過去の記録にある『好奇心』と、オレの会った『好奇心』は別人かもしれねえってことかよ」
「んにゃ、『見る者の心に応じて姿を変える』っちゅう部分が合致しとるからそれはないな。図書館で読んだんがだいぶ昔やから詳しくはわからへんけど……まあさっき言うた通り1000年振りくらいちゃう?」
「お、そうなのか」
「『外なる神々』は司る分野が一緒でも中々に個性豊かやからね。ウッドの好きそうなバインバインの『好奇心』も記録には残っとるで~」
……モンコには返しきれねえほどの恩がある。
あるが、ちょいとその巨乳の神サマも拝んでみてえと思っちまったオレは悪くねえだろう。
しょうがないじゃない、人間だもの。
「鼻の下が伸びとるで、このスケベ♪」
「……黙秘する」
マギやんはオレのデコを軽く突き、ニヤケながら座り込んだ。
「まあ、大体の説明はこんなとこやろな……知り合った時から年の割にモノ知らんな~って思うとったけど、まさかニホンジンやったとはな。そら知らへんわ!あはははは!」
「……あー、そこには感付かれてたのか」
なんでも説明してくれるからありがてえって思ってたけど、まさか疑問まで持たれてたとはな。
「ミディアノなんちゅう南の果てから旅してきたから、そのせいやろうと思うとったで。旅から旅やからな、あっこからやと」
……ミディアノ設定の便利さがまた証明されたな。
これからも対外的にはミディアノ難民を名乗り続けるか。
「そうかよ……まあ、これで本当に隠し事はナシだぜオレぁ。スッキリしたなァ」
「ウチもやね!まあウチは半分忘れとったんやけどな!」
「自分の出自忘れるって相当だと思うぜ」
なんとも、緊張感のないお姫様だ。
帝国自由すぎんだろ。
まあ、王位継承権が1桁の連中は違うだろうがな。
「隠すこともねえから、知りてえことがあったら聞いてくれよ。腹を慣らさねえといけねえし、こんな話街中じゃできねえからな」
「む~~~~ん……」
マギやんが腕を組んで悩んでいる。
「いきなりそう言われてもなあ~?ウチ、異世界にそないに興味はあれへんし……」
ニホンジンや異世界人を警戒してる連中もいりゃあ、マギやんみてえなのもいる。
多種多様だなあ。
「いやあった!!むっちゃあったで!!」
「おおう」
急に近付くんじゃねえよびっくりすんだろが。
0か1しかねえのかこの巨乳。
「酒!!酒やウッド!!アンタの作った酒!!アレが想像で作られたっちゅうなら他にも色々あるんやろ!?教えてーな!!」
過去一の熱量を感じる。
それでいいのかドワーフ……いや、それでいいんだろうな、ドワーフだし。
「あー……まあな、例のウィスキーの作り方もある程度は知ってる。ミディアノ人の設定が生きてる時は、どの程度まで情報出していいかわからんかったからよ」
醸造とか、熟成とか。
この世界とはまるで違う酒造体系なことは確かだからな。
そのまま言うと齟齬が生じるんじゃねえかって考えてたんだ。
「なんやてー!!ホラ吐け!吐かんかい!!アンタの知っとる酒の種類や製法を全部吐くんやぁ!!!!」
「顔面が唾まみれなんだよ!!わかったからちょいと離れろってんだ!!!!」
胸倉をつかむんじゃねえ、胸倉を。
ポンチョが引き千切れるかと思ったじゃねえかよ。
「あーあと鍛冶!鍛冶技術!!それからアンタの【ジェーン・ドゥ】ちゃんのこともや!!やっぱり【マグナム】と同型やな!!それも吐けーい!!」
「どうしよう止まらねえぞコイツ」
なにがそんなに興味ない、だよ。
好奇心の化身みてえになってるじゃねえかマギやん。
「わかった!わかったから落ち着けってんだ!いっくらでも話してやるから―――ぁ?」
喚くマギやんの向こう側に、何かが見えた。
遠くってよくわからねえが、たぶん人間だな。
「マギやん、誰か来るぜ」
「んにゃっ!?なんやてぇ!?これからやっちゅう時に……」
やっと正気に戻ったマギやんが手をほどき、後ろを振り返る。
「……うげぇ、ウッドウッド、朝の犬コロどもや」
「マジかよ……それにしても目がいいなあ、マギやん」
オレには豆粒にしか見えねえけどな。
「狙いはオレらか?」
「さて、どうやろな……街出る時には尾行あれへんかったし、わかれへんけど……とりあえず移動しよか」
だな、腰を落ち着けて話す空気でもなくなっちまった。
面倒そうな相手からは逃げるに限る。
それで、もしもロックオンして追って来るようなら……まあ、それはそれ。
今日は1発も撃ってねえからな、どんとこいだ。
片付けの済んだ背嚢を背負い、オレとマギやんは同時に立ち上がった。
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