第36話 ここ最近嫌な予感しかしねえ、バグか?
「うーん!壮観やね!」
「殺しも殺したり、だなァ」
焚火に照らされる山を見る。
そう、盗賊から剥ぎ取った装備の山だ。
持ち主?
ああ、そこら辺に埋めたよ。
今回はキケロも手伝ってくれたからすぐに済んだ。
今は婆さんと一緒に夢の中だ。
「昨日の連中とは明らかに質が違うなァ、別口かねえ」
「せやな~、ぜんぜん臭ないし……うわくっさ!?」
何故か超至近距離で鼻を鳴らしたマギやんが仰け反る。
……そりゃ、いくら綺麗でもブーツは臭ェだろ。
「マギやんはひょっとしなくても匂いフェチの変態か」
「ちゃ、ちゃうッ!ウチそないな変態やあれへん!?あれへんからなっ!?」
マギやんの顔は夜でもわかるくらいに真っ赤だ。
匂いフェチっていうか……若手芸人ムーブっていうか……
やっぱり帝国人は関西人ソウルを宿しているんだろうか。
「ま、それはいいとして……楽しい楽しい戦果確認タイムといこうか」
「……釈然とせえへんけど!せえへんけどやるっ!!」
てなわけで、さっきまで命だったものの持ち物検査に勤しむことにした。
この分だと絶対にいい臨時収入になるぞォ~♪
……いかん、人殺し2日目にして順応し始めている。
これがいいのか悪いのか。
……ま、慣れって大事だよな、うん。
・・☆・・
さて、まずは……防具か。
「マギやん、血塗れなんだが」
「かめへんかめへん、血汚れは魔法で落とせるさかい」
マギやんのハンマーは、盗賊どもの膝を破壊しまくってたからな。
どれもこれもへし曲がってやがる。
革製の方はまだいいが……いくつかある金属製のものは履けそうにない。
「いい金属使っとるなぁ!これは売れるで!昨日の連中とは大違いやな~♪」
……ということなので、まあいいか。
昨日のは腐りまくってたが、こっちのは手入れも行き届いているように見えるし。
とりあえずブーツ類、それにガントレット類も確保だな。
婆さんの馬車は荷台にだいぶ空きがあるので、楽々積載可能だ。
「胴鎧もええのばっかりやなあ、お!ウッドウッド、コレ当ててみ、コレ!」
「……血塗れなんだが」
「もう乾いとるから大丈夫や!コイツ着とった奴は頭砕いたから返り血やし!!」
「……おう」
マギやんが革製の鎧というか、ベストみたいなのを差し出してきた。
……確かに血に染まってんのは首元だけだから、胴体が破裂したんじゃねえけどさあ。
おっかなびっくりそいつを受け取り、ポンチョを脱いで胴体に当てる。
おお、サイズも丁度いいやな。
ポケットも多いし、地味に便利そうだ。
……血塗れだけど。
「内側に【衝撃軽減】と【剛性上昇】の加護が刻まれとるで!なかなかの値打ちモンや!買うたら金貨2、3枚はいくやろなあ~」
「……マジか。でも、オレが貰ってもいいのかよ?」
値段聞いたら所有欲が湧くな。
我ながら俗だねェ。
だが、その加護はかなりアツいもんな……目下の防御力問題にケリがついちまう。
とりあえず、キープしとくか。
「ええで~!ウチらはチームやし!お互い納得ずくなら問題あれへん!それに……にへへ、ウチにゃあ着れへんしな、ソレ」
「……ああ、なるほど」
巨乳だもんな、マギやん。
胸まわりは明らかにオレよりデカい。
「ウチはこの鎧もあるしな!……なんやなんや、そないにいやらしゅう見つめられたらかなわんわ~♪困るわ~♪」
微塵も困ってなさそうな顔でクネクネすんじゃねえよ。
胸が大変なことになってて目のやり場にマジで困るんだよ!
もうずっと鎧着ててくれねえかな!せめて仕事中は!!
「んふっふ~、その代わり他にええモンあったらウチも貰うで~」
「ああ、それについちゃかまわねえよ。それ以外は売り払っちまえばいいんだしよ」
目利きとかできねえし、そこらへんは全部マギやんに丸投げだ。
ガントレットは自前のモンがあるし、足はブーツがある。
防具関係じゃ特に欲しいモンはねえな。
タリスマンもあるしよ。
「防具はこんなもんやな!ウチも欲しいもんはないし、いい稼ぎになんで~♪」
「確かに、思わぬボーナスができちまった……幸か不幸かは知らねえけどな」
「ぼ……なーす?」
嘘だろこの言葉には翻訳の加護乗らねえのかよ。
前から思ってたが、ちょいちょい翻訳してくれねえよな。
「地元の言葉で臨時収入ってこった」
「あー!なるほど!ええ言葉やな~!ボゥナス!!」
ま、この程度で『ニホンジン』認定はねえだろ。
だが、マギやんの前以外では気を付けねえとな。
うっかり詳しい奴に聞かれでもしたら、痛くもねえ腹を探られることになるかもしれねえしな。
さて、次は……盾と武器類だな。
正直オレには不要のジャンルだから、マギやんに任せようか。
「オレぁ武器も盾もいらねえぜ。マギやんが好きにしてくれたらいい」
「ぬ~ん、ウチも今の分で満足はしとるからなあ……盾もあんまデッカイのはいらんし」
そう言いつつ、マギやんが装備の山を掘り返している。
「とりあえず、中盾以上は全部売っぱらうで~……これも、これも、これもや」
防具の時とは比べ物にならない速さで仕分けが済んでいく。
お互いに不要なジャンルだしな。
「お!これ【衝撃反転】付いとるやんか~!せやけどデッカイからいらーん!こっちは……うげ、【詠唱短縮】かいな、いらーん!」
正直、何の加護が刻まれているかはオレにもわかる。
なんたって【翻訳の加護】があるからな。
普段使っている言葉じゃなく、【魔術語】ってやつらしいがそこは神サマ直々の加護、問題なく読める。
だけど、マギやんの解読スピードは無茶苦茶早い。
オレならまず刻まれてる場所を探すところから始めるんだが、なんか武器防具ごとに決まりのようなもんがあるらしく……目利きのマギやんにはとてもかなわねえ。
適材適所だ。
「ほいほい、次は武器類やんな!むむっ!」
大分仕分けが済んだ装備の山から、マギやんがナイフを取り出してじっと見ている。
なんか高級なやつかな?
「ウッドウッド!これ、【火炎魔法】の加護が付いとる!料理やら何やらの時に便利やで~!」
お、地味に便利だなソレ。
ナイフ型の〇ャッカマンってことだろ?
「魔法がからきしなオレでも使えるのか?」
「せやせや!ここ見てみ!」
マギやんが指差したのは、ナイフの鍔元にある丸い宝石だった。
「この子はこの魔石由来の魔力で動くんや!こっちの消費はゼロやで~……ま、一度に使い過ぎたら砕けるんやけどな」
「一度に……使い過ぎなかったら?」
「極小の火炎魔法やから、ほっといたら大気中の魔力を吸収してずうっと使えるで!結構高いんやコレ!」
……つまりソーラー発電みたいなもんか。
なるほど、そりゃあ本当に便利だな。
「せやからこれは……うちらの共有財産やな!」
「ああ、異存はねえ」
というわけで、ナイフは確保する。
さてと、あと残ってるのは……剣と斧、それから杖だな。
「杖は専門外やから売り一択やな!そもそも杖の時点でそこそこの値段はするもんやし!」
杖2本は一瞬で仕分けられた。
オレもいらねえ。
「さあて、斧は……ふむふむ」
身長ほどある大斧をひょいと持ち上げるマギやん。
相変わらずのパワーだぜ。
「こいつは【筋力上昇】、こっちは【衝撃付与】、んでこの子は【重量軽減】……ま、普通やな。加護付きの最低値では捌けるやろ」
斧も杖と同じように即仕分け。
「いよいよいっちばん数の多い剣や!……の前に、ウッドウッド、これいる?」
マギやんが持っているのはクロスボウだ。
あの商人風のオヤジが持ってた小さい奴だな。
「いらねえ。見た目からして近距離の暗殺用かなんかだろ?」
「せやね、装填しとった矢にも強めの毒が塗られとったで」
なおさらいらねえな。
【ジェーン・ドゥ】も連発式クロスボウもあるし。
さすがに2つ目のクロスボウはいらねえよ。
「よっしゃよっしゃ、ほなら……フンっ!!」
「うおッ!?」
マギやんはそいつを地面に置き、拳を打ち下ろした。
ゴツいアーマー付きのパンチは、クロスボウを一瞬でスクラップにした。
「こないなややこしいもん、売るわけにはいかへんし……なによりウチはこういう暗殺用の武器は嫌いなんや!」
「いや、別にいいけどいきなりやらねえでくれよ。びっくりしちまった」
「なはは、スマンスマン」
パンパンと手を払い、マギやんは剣の山に手を伸ばした。
……今更だが、ロングソードってのはみんな同じような形してんのな。
斧や杖なんかはバリエーションがあったが、剣はどれもそう変わりがない。
せいぜい長短で差があるくらいだ。
「おー!鋼もええもん使うとるやんか……さて加護は……あ?」
ウッキウキで鑑定しているマギやんが停止する。
……どうした急に。
「……うせやろ?こないな偶然……いや、まさか!!」
かと思えば再起動し、別の剣を手に取った。
それをしばらく見て、さらに次の剣を。
足元に剣をどんどん落としながら、目を皿のようにして鑑定している。
「これも、これも、これも……そうや!ほ、ホンマにぃ……」
あっという間に流れ鑑定は終わり、マギやんは俺の方を涙目で見てきた。
急にどうした。
「う、ウッドぉ~……」
「なんだよ急に情けねえ声出して。全部ナマクラだったのか?見た目はいいと思うんだが……」
「ちゃうぅ~……コレや!これェ!!」
マギやんが剣を一振り取り、柄尻の方をオレに向けてくる。
急にそんなもん見せられてもオレに良し悪しなんざわかるわけ……あ?
そこに刻まれていた紋章には、覚えがあった。
昨日襲撃してきた盗賊の頭が持っていたのと、同じ……【槍持つグリフォン】の紋章。
そいつは、たしか……
「―――【ホーンスタイン公爵家】の紋章や……しかも、ここにあるんは全部そうや」
オレは、自分が何かデカい面倒ごとの最中に入り込んだように感じた。
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