第4話 転移と思わぬプレゼント。

『で、お前さんを送り込むのはここだ』




 モンコが言った瞬間、地図に赤い光点が表示された。


ここは……上半分の部分の西の端か。


海のすぐ近くだな。




『ここにはアインファルクって国がある。物流も安定してるし、人心の荒廃もそんなにねえ。スタート地点としちゃあ十分だと思うぜ』




「チュートリアルから始めてくれんのか、マジで親切だ」




『当たり前だろ、俺が遣わすってことになってんだから。あのアホ女神と一緒にするなって』




 ……くそう、本当にいい奴だぜこの〇ーストウッド、いやモンコ。


生まれて初めて出会った神サマがあの腐れ女神モドキだったからギャップがひでえ。


もしかしたらこの世界の神サマ、みんな親切なのかもしれねえな。


ギリシャ神話と同一視しちまって申し訳ねえなあ。




「そういえば、神サマなんてーのがウジャウジャいるってことは。この世界って魔法とかそういうのが目白押しなのか?」




『ああそうだ。理解が早くて助かる、さすがニホンジン……オタクカルチャーってのは馬鹿にできねえな』




「さほど詳しいわけじゃねえけどな。オレは実写映画派だしよ」




 たまーに勧められてアニメや漫画は見るが、積極的に買いそろえたりはしていない。


最近の流行りとかにはとんと疎いぜ。


異世界転生とか転移ってのは最近がほとんどだからな。


指輪のアレとかダンジョンとドラゴンのアレとか、デルなんたらクエストあたりか?


そこ辺りには学生の時分に夢中になったけどな。




『そりゃあ俺の恰好をみりゃわかるさ。セイブゲキっての、俺も気に入ったぜ……風情がある、ジダイゲキも好きだがな』




「さすが好奇心の神サマ、情報収集に余念がねえな」




 やっぱりオレの記憶とかそこら辺をスキャンしてるっぽいな。


命の恩人だから文句はねえが……いや、文句なんか言ったらそれこそバチが当たらあ。




『この世界には魔法があるし、人間以外の種族もワンサカだ。文明レベルは大陸によって差異があるが……魔法があるおかげでそっちより便利な部分もある』




「だろうな。純粋な物理法則だけで成り立ってたら、惑星の規模の時点で齟齬が生じてるだろうしよ」




 転移した瞬間に重力100倍とか恐ろしすぎる。


そこは魔法の万能性に期待ってやつだ。




『ここで1から10まで説明してもいいが……それじゃあつまらんだろう?お前さんもさ』




 モンコが元の俳優そのもののニヒルな笑みを浮かべた。


うがあ……恰好いい、格好良すぎる!


まさに男の中の男だ!




『安心しな、向こうに行ってもお前さんが望めば連絡は取れる。その手段も複数用意してるしな……何度も言うが、俺ァあのアホとは違うのよ』




「今更なんだが、あのクソ女神モドキって死んだのか?」




 なんか死んだ感じがしない。


腐っても神サマなんだろ?


頭を撃ちましたー死にましたーって簡単な存在じゃないだろう。




『忌々しいがピンピンしてる。俺たちはたとえ全身を粉々にしようが死ぬことはねえ……たぶん今頃は再生も終わって怒鳴り散らしでもしてるだろうさ』




「難儀だねえ神サマってのはよ……じゃあこれからどうなるんだ?アレがこの先もちょっかいかけてくるんじゃねえのか?」




 問題はそこだ。


今までの話から、新しい世界でもサポートは受けれるらしいが……あのアホに妨害だの襲撃だのされちゃ命がいくつあっても足りねえぞ。


なんらかの加護的な物があったって、神サマが直々に頭を吹き飛ばしたのに生きてる相手だ。


オレ程度の力でどうこうできるとは到底思わねえな。




『そこは任せな。こっちの陣営で全力で欺瞞工作をする……具体的に言えば、お前さんがここら辺に降りたって情報をな』




 今の赤い光点はそのままに、新たな青い光点が地図に表示された。


瓢箪の一番下のあたりだ。


俺が行く予定の場所とは、ほぼ真反対になるな。




「随分離れてるが、ここは何か重要な場所なのか?」




『ああ、この大陸の北は安定しているがここだけは別だ。大陸の南……【殺戮区域】はな』




 あからさまに危険っぽい名前だなあ。


絶対に行きたくねえ。




『大陸の細い所があるだろう?ここを起点に、北と南は完全に隔離されてんだ。もう3000年は前だったか……大陸全体の火種をまとめて南に押し込んだ時にな』




「ひだね」




 つまり、大陸中のヤバい連中とかそういうのをまとめて南にぶち込んで封印したってことか?


この言い方だと神サマ連中がやったっぽいな。




『いくつか度を越してヤバい種族や魔物、それに国があったんでな。そんなに殺し合いがしてえってんならてめえらだけで死ぬまでやってろってんで押し込んだわけだが……未だに飽きもせず殺しも殺したり、だ』




「じゃあ、なにか?北の方は戦争も何もない平和な土地ってわけか?」




『いやいやそうじゃねえ。度を越したっていったろ?生死は世界の真理であり、循環だ。それ自体は悪いことじゃない……北でも戦乱はあるし、魔物もいる』




「あー……じゃあ隔離された連中ってのは生命の摂理的な領分を超えたヤバい奴らってことか?」




『そういうこった。言ってみりゃ魔境、魔窟だな……ラスボス級の雑魚モンスターがウヨウヨしてるダンジョン的な場所だって考えりゃいい』




 とんでもねえ場所じゃねえか。


共倒れさせようとしたら3000年も殺し合い継続とか……蟲毒ってか?


恐ろしいねえ。




『元からエリクシアはあの3人をここへ転移させるつもりだったからな。死に物狂いでお前さんを探させるだろうさ』




「探させる?自分で動かねえのか?」




 ハーレム君はどうでもいいが、嬢ちゃん2人もかよ。


アノ反応を見るに、多少はマトモそうだったから心配だぜ。


男の趣味は悪いけど。


かといって助ける義理はないが。




『アイツだけじゃなくて、俺たちは基本的に現世に直接介入できねえんだ。3000年前は大陸全土の緊急事態だったから、特例だな』




「なーる……それで物理的に距離を離しちまえばオレは安全ってわけか。手下頼みなら大陸の反対まで行くのはキッツイだろうしな……待てよ、っていうか南の連中が北に攻め込んでくる可能性とかはねえのかよ?」




 隔離されるほど血気盛んな連中だ。


侵略戦争なんて大好物じゃねえ?




『それこそ大丈夫だ。北と南の境目には強力な結界が張ってある、俺たちと同等の力がねえと侵入は不可能だ』




「神サマは直接介入できず、結界を破るにゃあ神サマレベルの力が必要、と。確かにそりゃあ安全だ」




『しかも結界は俺を含めて6666柱の神が合同で作ったからな。最低でも同数の神を揃えねえと無理だ』




 凄まじく縁起の悪い数字だが、オレが心配するまでもねえってことか。


自分で言うだけあって、モンコは抜かりがねえな。




『な?だから安心して行っちまえよ。気楽に行って、気楽に生きな……そうだな、せめて50年は生きろよ?エリクシアがそれだけの期間怒り狂うとか今から楽しみでしょうがねえ、がははは!!』




 スキットルを呷り、モンコは歯を剥いて笑った。


ご機嫌だねえ……アホ女神モドキがよっぽど嫌いらしいや。




「オレとしても何から何まで面倒を見てもらうつもりはねえが、1つだけ頼んでいいか?」




 命を救ってもらって贅沢だが、どうしても頼んでおきたいことがある。




『あ?翻訳の加護なら標準装備だぜ』




「……頼みごとが消滅したな、それならいいや」




 何から何までお見通しかよ。


じゃあ別にいいや。


この歳で1から言葉を覚えるとか寒気がする。


流暢に話せるようになったが爺になりました、とかぞっとしねえな。




『おい、無限の魔力とか不老不死とかはいらねえのか?』




「……くれるのか?」




『やるけど人間の姿じゃなくなるわなあ、ははは。勘が鋭くっていいねえ』




 おいしい話にゃたいてい裏があるもんだ。


無限に魔力あるけど大木ですとか、不老不死だけど石ころですとか、そういうオチは御免だぜ。




『名残惜しいがそろそろ行くかい?もっともこの先もちょくちょく会うとは思うけどよ』




「忘れるようなもんもねえしな、こっちとしちゃいつでもいい」




 異世界に転移なんてどうせ何が起こるかわからんのだ。


死にかけた今なら何も怖くねえ。


どうせちょい前に消えたはずの命だ。


今更惜しくは……ちょっとは惜しいが、まあ、いいか。




『よーし!じゃあ行ってきな、イツト……おっと、偽名を考えときな。あの世界でニホンジン風の名前は厄ネタだ、お前さんの先輩連中が方々でやらかしまくっててすこぶる評判が悪い』




「最後の最後にとんでもねえ情報ぶっこんできやがったなモンコ!?どうすんだよオレ外見は完全に日本人だぞ!?」




『俺のアフターサービスを信じろってんだ!それでは良き人生を!!』




 ツッコミどころが無数に出てきたところで、不意に視界が光に包まれた。


ああちくしょう気になる!すげえ気になる!!


こんなことなら今すぐ行きますなんて言うんじゃなかった……!




 そして、視界は真っ白になった。






・・☆・・






『行ったな』




『行ったねえ』




『最後すっごい顔してたけど大丈夫?』




『大丈夫だ、アフターサービスまで充実してるからな』




『……いつまでその似姿でいんのさ?ひょっとして気に入った?』




『無茶苦茶気に入った。格好いいだろう?』




『汗臭そう』




『このロマンがわからねえか』




『ロマンはわかんないけど、あの子は気に入ったよ。エリクシアをキャン言わせるためにも頑張ってほしいねえ』




『がはは、楽勝に決まってんだろ』




『どうかにゃ~?』






・・☆・・






「う……ぬぅ……が?」




 自分の声で目が覚めた。


視界が真っ暗だが、帽子か何かを被っているらしい。


背中に草の感触がある、青臭い。




「ふぅ」




 やっぱり帽子だったそれをどけると、雲一つない青空が目に入った。




「異世界感、ねえな……と」




 体を起こす。


どうやら草原に寝転んでたみたいだ。




「うわあ、異世界」




 視点が高くなると、遠くまで見渡せる。


オレがいる草原の周囲は、嫌になるほど広大な草原だった。


地平線まで見えやがる。


間違いなく地球で住んでた場所の周辺じゃない。


それに……




「あんなの、ヨーロッパにももうねえよな」




 霞むくらいの遠くの位置。


そこに、城塞っぽいものが見える。


遠すぎてスケールがわからんが、明らかに観光名所で作られた感じじゃない。


デカすぎるもん。




「ひええ、もう1つ異世界」




 そして、その城塞の上を見てみれば……


そこには空を飛ぶトカゲの化け物めいた影。


あんなもん、地球で飛んでりゃ即UMA認定だ。




「異世界だなあ……」




 さっきからオレの語彙力が死んでいるが、それは仕方ないだろう?


こんなもん、すげえとかやべえしか言えないじゃねえかよ。




「あ、川だ」




 衝撃からある程度回復したので、立つ。


すぐ近くに川があった。




「とりあえず顔でも洗うか……ってか、何だこの服」




 遅れて、自分の恰好にやっと気付く。


いや、さっきの帽子の件で薄々気付いていたんだが……謎城塞と謎トカゲのインパクトがな。




 まずは上半身。


ポンチョだ。


まごうことなきポンチョである。


新品ではなく、微妙に着古した感はあるが臭くはない。


……さっきまで着ていた〇山の特価吊るしスーツは一体どこ行った?


上下で1万5千円の激安品だから惜しくはないが。


そしてそのポンチョの下は薄い青色の襟つきシャツ。


こちらも特に言うことはない。




 次に下半身。


ジーパンに革ブーツだ。


これも上半身と同じようにちょっと古びている。




「いや、無視するのはよそうか。問題はこれだな……マジか!!」




 そして急上昇するオレのテンション。


その理由は、ジーパンに巻かれたベルトである。


それは、ただのベルトではない。




 『ガンベルト』だ。




 そして、ガンベルトにあるべきもの……そう!ホルスターがある!!


そしてホルスターがあるってことは、だ!!




「う、うおおおおおッ!!!モンコ!!モンコ最高だ!!お前が女なら抱きたいくらい最高だッ!!!」




 茶色の、手入れの行き届いたホルスター。


そこには、俺が日頃から愛してやまない存在があった。




 6連装の、リボルバーピストルである。

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